難攻不落の黒竜帝 ――Reload―― 外伝――夜を彩る『蜘蛛の絲』
自分という存在が、無価値な物だと早くに分かっていれば……ここまで苦痛に苦しむ事はなかった。
自分という虫けらが、命を1つ捨てたとしても誰も気付かない。気付く筈がない。
「――こんにちは、眠いのかな?」
私の目の前で、彼は笑ってくれた。
私を何の理由もなく傷付けてきた。大嫌いな大人達を殺して、その真っ赤に染まった地下室の中で笑い掛けた。
混乱する私に合わせて、呼吸が落ち着くまで抱き締めてくれた。
――初めての温かさ、優しさに涙が出たのを今でも覚えている。
その日が、私の誕生日となった。
「君には、名前を付けて上げる。番号じゃ、可愛くないだろ?」
「なまえ……?」
「そうだとも、名前はこの世に産まれて初めて貰える物――『贈り物』だ」
彼は、子供であった私よりも子供だった。一緒に笑って、一緒に泣いてくれて、怖い夜は私が眠るまで一緒に居てくれた。
この世で、1人だけの孤独な私に《名前》と《温もり》と《愛》を与えてくれた。
「君の名前は――コーネリア。いい名前だろ?」
コーネリア――。それが、私の名前で、彼が私に初めてくれた宝物。
ボロボロだった私を拾って育てて、可愛い服や髪飾りを沢山プレゼントしてくれた。
誕生日や記念日は、何かとすぐ祝った。
だから私は、孤独を感じなかった。それは、彼も同じだろう――
ネオンに彩られた夜の街――
痛い記憶が脳裏に焼き付く。でも、きっと、その記憶も思い出に変わる。
アナタと共にこの夜の街に生きる。
もう二度と失わない為に、アナタは私に戦う技術を教えてくれた。
幼き過去――。心の底から自分を嫌ったあの頃の私をアナタは、変えてくれた。
この忌々しい、呪いの糸をアナタは――愛してくれた。
だから、私はアナタの為に私の全てを捧げる。
この命も、私に残された時間も――
「私、幸せだよ。だって、アナタからたくさんの贈り物を貰ったから……」
けれど、アナタは深い眠りに堕ちてしまう――
幾つの季節が過ぎ去って、アナタと同じ年齢になった私はアナタがコールドスリープから目覚めるその日まで、孤独を噛み締める。
アナタの眠る装置が、時折アナタの最後を彩る棺に見えてしまう。
「もう一度、アナタに……会いたい。そして、私を抱きしめて――」
叶わないと思いながらも、私は藁にも縋る。
例え、人道に反していようが、他人の人生を数え切れない程踏みにじろうとも――必ず、叶える。
全ては、アナタの為に――
例え、どんな敵が相手であろうとも――
「彼の不治の病を治療しよう。だが、分かっていると思うが……1つ条件がある」
「えぇ、良いわ……あの人が助かるなら、誰であろうとも殺して挙げる。でも、万が一彼を死なせたら――お前を始末する」
アナタの為に、私はこの手を血で染める。
だって、私の全てはアナタの為にあるのだもの――
私を助けてくれたのだから、今度は私が助ける。
「私が、アナタを救って見せる……この命に賭けても」
紫色の蜘蛛の糸が、獲物を狙って待ち構える。
大切な人の為に、この手を汚した。そして、残すは後1人だけ――
お前を殺して、私は幸せを掴み取る。
「では、倭へ迎え。そして、殺すのだ。黒竜帝を――」
この糸は、決して獲物を逃さない。
例え、死ぬと分かっていても私はやり遂げる。アナタの為に、必ずやり遂げて見せる。
……だから、死ねない。
もう一度、アナタを抱き締める為に。この私の《願い》が叶うまでは――