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作者: 鉄 竜太

今僕の目の前に広がる景色で一番高い建物は、果てしない田んぼの奥に<置いてある>二階建ての郵便局で、僕の目の前に広がる景色で一番高いものは、その郵便局の後ろにそびえ立つ山の、そのまた二つほど後ろにそびえ立つ千五百メートルほどの山だ。

親の都合でここに引っ越してきて四~五か月ほど、小学校では友達もそれなりにできて、まぁ上手に馴染めていると思っている。しかし、都会が恋しくなることもある。そう、都会にはここほど虫はいない。

こっちに引っ越してきてから、蜂に刺され、蟻に噛まれ、ハエにたかられ、猪に跳ねられた。猪は虫じゃないが、とにかく生き物が多すぎるということだ。猪の件ではさすがにお隣の猟友会のおじさんが出動したりして騒動にもなったが、それも日常の一つなんだそうだ。

「猪も昔は山からこんな下りてくることなかったんだけどなぁ」

とお酒の瓶を振り回しながらおじさんは言っていた。




「蛇が出たぞー!」

僕は夏休みらしく網戸から吹き抜ける暖かい風にあたりながら昼寝をしていたら、外からものすごい声が聞こえた。ものすごいというのは<大きな声>というだけではない。大人数なのだ。ものすごい人数の大人が「蛇が出たぞ!」と村の端から端まで走って人々を起こして回っている。

僕は重い目蓋をこすりながらその走る大人たちを窓から眺めていると、お母さんに一緒に逃げるよう言われた。

靴を履いて外に飛び出し、大人たちの叫ぶ列に合流する。走りながら辺りを見渡すと学校で見たことある人たちも一緒に走っており、何人か友人も見えてたがとても声をかけられる状況ではなかった。彼らは泣いていたり震えていたり、青ざめた顔で走るものもいた。

列がペースダウンして最終的には歩くようなスピードになり、やがて到着したそこは村の一番奥にある神社だった。神社に到着すると皆息を合わせたように、だがなんの合図もなく、来た道の方へ回れ右をして、あるものは膝をついて座り込み深々と頭を下げ、あるものは手を合わせ目を瞑りお経のようなものを唱えている。他にも皆思い思いに来た道の方を向いて祈るような行動をとっている。その光景に唖然として、しばらく周りを観察していたら、誰かが「蛇だ!」と言い、村の奥に見える千五百メートルほどの山の方を指差した。

僕は思わず腰を抜かした。その山の下の方からもう一つ山が現れたのだ。最初は影がそう見えているのかと思ったが違う。それはムクムクと成長して、やがてそれが山ではないことを僕は知る。ムクムクと育つ山の反対側から日の出のように光が差し込み、まるでアーチのようになったかと思えば、次の瞬間にはそのアーチの左の接点が象の鼻のように勢いよく持ち上がり、その正体を表した。蛇だ。そこには千五百メートルの山よりも巨大に見える怪獣のような蛇がおり、こちらを睨み付けている。

皆はより必死になって祈りを続け、僕もわけもわからないまま手を合わせて祈りを始めた。もちろんお経なんかはわからない。自分のお願い事を言うだけだが、今の僕にはそれが精一杯だし、なにより無意識だった。目を瞑って祈って祈って祈って……。

しばらくすると「もう大丈夫だ」という声が聞こえたので目を開くと、確かに蛇は消えていた。そして心なしか、田んぼに緑が増えた気がする。


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