夕暮れの屋上にて
「と、いうわけで、今日の舞台を手伝ってくれる月島ルイくんだ。よろしくね」
レイと別れたあと、演劇部の部室にて。
オレは演劇部の部員たちに向かってペコリと頭を下げた。
「月島ルイです。よ、よろしくお願します」
と、同時に、わずか数名の部員たちのなかからどよめきがまれた。
「か、かわいい……」
「天使みたい……」
「どこの学校のコだろう……」
部員はキリヤを除いて男子二名、女子二名のみだった。全員三年生だ。
顔見知りの二年生がいないことにホッとする。
ちなみに、今のオレは制服ではなく舞台衣装の白のワンピースを着ている。
キリヤいわく、少しでも正体がバレないようにするために、演劇部のなかでは別の学校の女子生徒という設定にしたのだそうだ。
すぐに練習が始まった。
劇の舞台設定は、男女平等が完全に徹底された未来世界の戦争。そこで戦う兵士たちの物語だ。
オレの役は、主人公の妹の少女。兄を支えながらも共に戦う相棒の役だ。
……めちゃくちゃ重要な役割だ。
とはいえそこはキリヤも考えてくれたらしく、オレ用にだいぶセリフをカットしてくれたようで、演じるのはそれほど難しくはなかった。
それにしても、だ。
この台本の完成度、やばくないか?
キリヤが書いたというそのダイは、どんなに控えめに言っても高校の学園祭でやっていいレベルではなかった。
友情ありアクションあり、そして感動ありと、このまま小説にして出版しても十分に売れそうなほどの素晴らしい内容だった。
どうやら、天才高校生小説家というのは伊達ではないらしい。
その証拠に、舞台も当然のように大盛況だった。
もともとのキリヤ人気に加えてこの台本なのだから、盛り上がらないわけがない。
しかも今回は謎の美少女キャスト(オレ)も参加していたしな……。
本番が終わると、オレは劇で使った小道具のロープを屋上の倉庫に戻したあと、なんとなく柵に寄りかかって校庭を眺めていた。
すでに時刻は夕方。黄昏時のオレンジの夕日が校庭を染め上げている。
校庭の真ん中では、学園祭実行委員会がもうすぐ始まるキャンプファイヤーの準備を進めていた。
「お疲れ様。ルイトくん」
背後から声をかけられ振り返ると、キリヤが立っていた。
「ルイトくんのおかげで大好評だったよ。さっそく入部したいって一年生が三人も来てくれた。本当にありがとう、ルイトくん。うちの部は三年生しかいないから、このままだと廃部になるところだったからね。助かったよ」
「四条先輩の台本が良かったからですよ」
オレは本音を言った。
「そんな大したものじゃないよ。まだまだ粗だらけさ」
「そうなんですか? すっごく良い出来だと思いましたけど……」
「そう言ってくれると嬉しいけどね。自分ではまだまだだって思ってるよ。僕の書く話には決定的なものが欠けているからね」
「決定的なもの?」
「愛、さ」
「難しいこと言いますね」
「はは。でも本当のことなんだよ。育ちがこうだからなのか、いまいち愛情というものが実感できないんだ。両親の愛情も、恋人たちの恋愛感情もね」
「……だから、四条先輩っていつもどこか寂しそうなんですね」
何気なく言うと、キリヤは一瞬、意外そうな顔をした。
「寂しそう、か。そんなこと初めて言われたよ。でも、そうなのかもしれないね」
「あんなに女の子たちにはキャーキャー言われてたのに」
「あの子たちは僕が好きなんじゃないよ。イメージの僕に憧れてるだけさ。本当の僕を知ったらすぐに幻滅して去っていくさ」
「意外とネガティブですね、四条先輩」
「あはは。現実的って言って欲しいな」
キリヤが笑う。
あどけない笑みだが、どこか寂しそうにも見える。
この男は今までずっとこうやって、寂しさを抱えながら生きてきたのだろう。
「いつかきっと、本当に好きになれる人が出来ますよ、四条先輩なら。あんないい物語が書けるんですから、愛情だってすぐに理解できるようになるはずです」
「そうかな」
「そうですよ」
「じゃあ、そのときを楽しみに待つよ」
「そうしてください。ただし、かわいい彼女ができても、僕に自慢するのはやめてくださいよ」
「それは約束できないなぁ」
「ふふ」
「あはは!」
オレたちは笑いあった。
キリヤの笑顔は、今度は寂しそうではなかった。
と、キリヤは笑うのをやめると、ふと真剣なまなざしでオレを見た。
「ねえ、ルイトくん。僕と付き合って欲しいって言ったら、どうする?」
「……………冗談、ですよね?」
「いいや、本気さ。前にも言っただろ? きみとなら付き合える気がするって。今は、前より強くそう思っているよ。僕はきみを好きになりかけているのかもしれない」
「……………」
オレは––しばらく何も言えなかった。




