試合前
「いっちに、さんしー!」
真昼の日差しが降り注ぐ校庭の片隅。
陽気なヨウの声が、学園祭の喧騒に負けない声量で響いていた。
オレはその横でストップウォッチ片手に言う。
「はい、次は十メートルダッシュ五本。スタート!」
「よっしゃあ!」
走り出すヨウ。
プロを目指しているだけあって、普通にめちゃくちゃ早い。
が――
「全力出さないで。今日はこれから試合なんだから、温存しておかないと」
「了解っす! うりゃあああああ!」
……ホントに分かってんのか?
それにしても、何だかオレもいつの間にかトレーナーっぽくなっちまったな……。
ま、この年になると、夢に向かって頑張ってる若者なんてつい応援したくなっちまうから、悪い気はしないけどな。
「そこまで。ちょっと休憩しよう」
「うぃっす!」
校庭の横の芝生の上に向き合って座る。
ほんのり汗をかいているヨウは、なんだか楽しそうだった。
「試合、そんなに楽しみなの?」
「もちろんすよ! 練習の成果を出せるチャンスなんすからね!」
楽しくてたまらないといった笑顔。
生きることに飽き始めているオレみたいなオッサンにほ、微笑ましいと同時に羨ましく感じてしまう。
「ヨウって、本当にサッカーが好きなんだね」
「とーぜんすよ! オレの人生の全部なんすから!」
ああ、このキラキラした感じ……オレがいつの間にかなくしてしまった何かを、彼は今、持っている。
「いいな。ヨウのそういうとこ、好きだよ」
変な意味じゃなく、素直にそう思う。
「へへっ、どうもっす。オレもルイト先輩のこと、好きっすよ!」
……こっちも変な意味じゃない、よな?
「ええと、ルイトはいつからサッカー始めたの?」
「幼稚園のころっす! 親父がサッカー好きなんで、その影響っすね。それからはずっーとサッカー漬けっす」
羨ましい。
オレもそんな風に、何か一つのことに打ち込んでみたかったな。
「お父さんも喜んでるだろうね。息子がこんなにサッカー好きに育ってくれてさ」
「どうっすかねー。そうだといいんすけどね」
「お父さんと会ってないの?」
「死んじゃったんすよ。オレが小学校低学年のときに、事故で。今はおふくろと二人暮らしなんす」
「……そうなんだ。ごめん、変なこと言っちゃって」
「全然いいっすよ! おふくろと二人暮らしでも全然寂しくないですし。明るいおふくろなんで」
「そっか。……いいお母さんだね」
「能天気すぎてこっちが困ることの方が多いくらいっすけどね。けど、オレのために朝も夜も働いてくれてるし、早くプロになって、楽させてやりたいんすよ」
……そんな動機もあるのか。
いい子じゃないか、ヨウ。
「……けど、もしかしたらオレがルイト先輩に親しみ感じてるのって、親父が関係してるのかもしれないっすね!」
「……どういうこと?」
「似てる気がするんすよ、ルイト先輩と、親父が。ルイト先輩ってたまーにすごい大人の男の人って感じの雰囲気出すじゃないっすか。オレの親父もこんな感じだったのかなーって思うんすよね!」
無邪気に笑う。
あくまで年長者てして慕われている……ということだろう。
こいつに関しては、変な警戒はしなくていいのかもしれないな……。
「そろそろ試合開始っす! ルイト先輩のためにハットトリック決めてくるっすから、見てて下さいね!」
「うん!」
オレはホッとしながら微笑んだ。




