表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/43

体育倉庫にて。

「まったく誰だ!? 倉庫をあけっぱなしにするなといつも言ってるのに……」


 

 扉の向こうから聞こえてきたのは、体育教師の山本の声。


 なかに誰もいないと思って締めやがったらしい!


 


「あの、なかにいるんですけど……!」



 オレが慌てて抗議しようとするも、




「そこの三年男子ー! なんだそのだらしない制服はー! そこを動くな!」



 遠ざかる山本の足音。


 ……行きやがった!




「おいおい、マジかよ……閉じ込められたのか?」



 ハヤトの面倒くさそうな声。


 

「……そうみたい」


「携帯は……そういやクソアニキに取り上げられてたんだったな」


「……そうみたい」



 ポケットを探り、ため息を一つ。


 タイミングが悪いにも程がある。



「クソっ、ご丁寧に鍵までかけやがって……あのゴリラ野郎」


 

 扉をなんとか開けようとしながら、ハヤトが苛立たしげに言う。


 つまり、完全に閉じ込められたというわけか……。



「どうする? ハヤト……」


「誰かが気づくのを待つしかねえな。あんな小さな窓からじゃ出られねーし」




 天井近い場所には小さな採光用の窓があった。そこから夏の日差しがほのかに倉庫内に降り注いでいるものの、猫でもなければ通れそうにない。



「座ろうぜ。突っ立ってても仕方ねえ」



 オレたちはブルーシートの上に並んで腰を下ろした。


 外からは学園祭の賑やかな喧騒が聞こえてくる。すぐ近くのはずなのに、まるで遠い世界の出来事のようだ。



「暗いね」


「ああ。こんな暗いと、嫌なこと思い出すぜ」


「嫌なこと?」


「ガキのころ、田舎の爺さんによく倉庫に閉じ込められてたからな。古臭いジジイだったから、箸の持ち方がなってないだの、つまんねーことでしょっちゅう怒ってたよ」


「それは怖いね。子供には特に。お父さんとかお母さんは助けてくれなかったの?」


「母親はよくかばってくれたけど、父親はむしろジジイの味方だったな。嘘かホントか分かんねえけど、オレんちは元々武士の家系だったらしくて、子供にだって馬鹿みたいに厳しかったんだよ。男がみんな、クソアニキみたいなカタブツばっかなのもそのせいだ」


「武士か……なんか分かる気がするね」


「だからオレはあの家が嫌いなのさ。絶対あいつらみたいにはならねーって決めてんだ」




 なるほど。子供のころからの反発心が積み重なっていたわけか。



「……って、なんでこんな話してんだろな、オレ」


「暗闇だからじゃない? 暗いと心がオープンになりやすくなるって聞いたことあるよ。催眠術とかも暗いところでやることが多いっていうし」


「催眠術ねぇ……どうせなら、お前にかけてみたいけどな。オレに惚れるように」


 

 からかうような笑みを浮かべて、オレの肩に手を回すハヤト。


「だから、そういうのはやめてってば!」


 

 オレが慌ててハヤトの腕をはねのけたその時、そばにあった棚にぶつかってしまった。


 ガタッ、と何かが崩れる音が頭上から聞こえた。




「危ねえ!」


 

 ハヤトが叫び、オレに覆いかぶさる。


 棚の上にあったボールや様々な小道具が辺りに散らばった。



「ご、ごめん! 大丈夫!?」


「いってぇ……ま、なんとかな」


「あ、ありがとう……助けてくれて」


「気にすんな。いつでも守ってやるよ」


 ドキッ。


 ハヤトの言葉に心臓が鳴った。


 視線を上げると、オレに覆いかぶさっているハヤトと目が合った……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ