体育倉庫にて。
「まったく誰だ!? 倉庫をあけっぱなしにするなといつも言ってるのに……」
扉の向こうから聞こえてきたのは、体育教師の山本の声。
なかに誰もいないと思って締めやがったらしい!
「あの、なかにいるんですけど……!」
オレが慌てて抗議しようとするも、
「そこの三年男子ー! なんだそのだらしない制服はー! そこを動くな!」
遠ざかる山本の足音。
……行きやがった!
「おいおい、マジかよ……閉じ込められたのか?」
ハヤトの面倒くさそうな声。
「……そうみたい」
「携帯は……そういやクソアニキに取り上げられてたんだったな」
「……そうみたい」
ポケットを探り、ため息を一つ。
タイミングが悪いにも程がある。
「クソっ、ご丁寧に鍵までかけやがって……あのゴリラ野郎」
扉をなんとか開けようとしながら、ハヤトが苛立たしげに言う。
つまり、完全に閉じ込められたというわけか……。
「どうする? ハヤト……」
「誰かが気づくのを待つしかねえな。あんな小さな窓からじゃ出られねーし」
天井近い場所には小さな採光用の窓があった。そこから夏の日差しがほのかに倉庫内に降り注いでいるものの、猫でもなければ通れそうにない。
「座ろうぜ。突っ立ってても仕方ねえ」
オレたちはブルーシートの上に並んで腰を下ろした。
外からは学園祭の賑やかな喧騒が聞こえてくる。すぐ近くのはずなのに、まるで遠い世界の出来事のようだ。
「暗いね」
「ああ。こんな暗いと、嫌なこと思い出すぜ」
「嫌なこと?」
「ガキのころ、田舎の爺さんによく倉庫に閉じ込められてたからな。古臭いジジイだったから、箸の持ち方がなってないだの、つまんねーことでしょっちゅう怒ってたよ」
「それは怖いね。子供には特に。お父さんとかお母さんは助けてくれなかったの?」
「母親はよくかばってくれたけど、父親はむしろジジイの味方だったな。嘘かホントか分かんねえけど、オレんちは元々武士の家系だったらしくて、子供にだって馬鹿みたいに厳しかったんだよ。男がみんな、クソアニキみたいなカタブツばっかなのもそのせいだ」
「武士か……なんか分かる気がするね」
「だからオレはあの家が嫌いなのさ。絶対あいつらみたいにはならねーって決めてんだ」
なるほど。子供のころからの反発心が積み重なっていたわけか。
「……って、なんでこんな話してんだろな、オレ」
「暗闇だからじゃない? 暗いと心がオープンになりやすくなるって聞いたことあるよ。催眠術とかも暗いところでやることが多いっていうし」
「催眠術ねぇ……どうせなら、お前にかけてみたいけどな。オレに惚れるように」
からかうような笑みを浮かべて、オレの肩に手を回すハヤト。
「だから、そういうのはやめてってば!」
オレが慌ててハヤトの腕をはねのけたその時、そばにあった棚にぶつかってしまった。
ガタッ、と何かが崩れる音が頭上から聞こえた。
「危ねえ!」
ハヤトが叫び、オレに覆いかぶさる。
棚の上にあったボールや様々な小道具が辺りに散らばった。
「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「いってぇ……ま、なんとかな」
「あ、ありがとう……助けてくれて」
「気にすんな。いつでも守ってやるよ」
ドキッ。
ハヤトの言葉に心臓が鳴った。
視線を上げると、オレに覆いかぶさっているハヤトと目が合った……。




