学園祭の伝説
『キス』
主に恋人同士や親子間で親愛の証として行われる行為。口づけ。接吻。
月曜日、朝。
その日、オレは登校中の電車のなかでスマホの画面を見つめていた。
ネットの辞書で出てきた説明文を何度も読み返す。
そして思う。
……嫌だ……。
絶対に嫌だ。
男とキスなんてしたくない。
オレにはそんな趣味はない。
可能ならカワイイ女の子とキスしたいと思っているくらいなのに……。
その上、最初にキスした男と結ばれる運命だ、なんてことまで婆さんに言われたし……。
やっぱりこの世界では、男と結ばれる運命は避けられないのか?
――いや!
諦めるのはまだ早い。
要は誰にもキスされなきゃいいだけだ。
誰とも結ばれないバッドエンドにたどり着くために、全力でキスを回避してやる!
オレは決意を固めた。
「よう、ルイト。朝から怖い顔してどうした?」
教室につくなりハヤトが声をかけてきた。
どうやらキスを警戒するあまり表情が険しくなってしまっていたようだ。
本来ならキスを避けるためにすべての野郎に対して威嚇すべきだが、ハヤトにそんなことしたらヤツのドSの血が騒いで逆効果になってしまう。
結果、オレは警戒しつつも自然な対応をすることにした。
「ちょっと寝不足なんだ」
「もしかして、コスプレしてたからか?」
死ぬほど驚いた。
「な、なんで知ってるの!?」
「ホノカから聞いた。ホレ」
ハヤトのスマホには、あの日のコスプレしたオレの画像があった。
楽しそうに笑うハヤト。
「こんな趣味があったとは意外だね〜。ルイちゃん」
「こ、これには色々と事情があって……それもホノカさんから聞いてるんでしょ?」
「まあね。けど、この完成度はヤベーな。アニメみないオレでもぐっとくるもんがある」
「な、なに馬鹿なこと言ってるのさ」
「マジだって。今度の学園祭、これで出たら盛り上がるんじゃねえの?」
「絶対、イヤだ! ……ていうか、学園祭って何?」
「おいおい、知らねえのかよ? うちの学校は今週の土日、学園祭なんだぜ」
初耳だった。
「ま、確かにうちの学園祭は強制参加じゃねーし、出し物もクラス別じゃなくて部活別だったりするから、関係ない奴には全く関係ねぇんだけどな」
「ハヤトは参加しないの?」
「パス。面倒くさいのは興味ねー」
なるほど、この男らしい。
「ああ、でも……」
「うん?」
「お前がいるなら、参加してもいいかもな。ルイト。学園祭デートしようぜ」
「……冗談でしょ?」
「いいや、マジ」
「まさか、また女装してこいなんて言うんじゃないだろうね」
「いいや、オレはどっちかっていうと男のお前の方が好きだぜ。もしかしたら、学園祭で本当にキスしちまうかもな。伝説通りに」
「伝説?」
「知らないのか? うちの学園祭でキスした二人は、永遠に結ばれるって言い伝えがあるんだぜ」
な、なんというベタな伝説だ……!
現実世界なら『アホくさ』と笑い飛ばして終わりだが、今は事情が違う。
というか、タイミングとしては最悪だ。
ギャルゲーだのラブコメだのでは、この手のイベントで本当にキスしてしまうのが王道のパターン!
すなわち、誰かにキスされる危険性MAX!
「……や、ヤバい……」
「どうした? ルイト。青い顔して」
「ななな、何でもないよ、何でも!」
慌てて誤魔化す。
とにかく、今度の学園祭は誰からもキスされないように頑張って逃げ切るしかない!
幸いハヤトは参加する気がないみたいだし、残りの三人さえ気をつければ……。
「やっぱ気が変わった。オレも学園祭に出るわ」
「な、なんで!?」
「なんかお前が、『ハヤトが来ない方がありがたい』って顔してたから」
「!?」
「なんか隠し事でもあるのかな〜? ル・イ・ト・く・ん」
こ、こいつは〜〜!!




