美少女の名前は月島ルイちゃん。
間違いない。コイツ、女装したオレに心を奪われてやがる。
そりゃ今のオレはヤバいくらい可愛いけど、まさか恋愛に興味ないとか豪語していた堅物男を笑顔一発で撃沈してしまうとは……我ながら自分の魅力が恐ろしいぜ。
それはそうと、面倒なことになる前に退散しないと……。
「そ、それじゃ」
「ま、待ってくれ。――君の名前は?」
「な、名前は……月島」
「月島?」
「月島……ルイです」
しまった。不意打ちで名前を聞かれたせいで、つい本名を名乗りそうになっちまった。
咄嗟に『ルイ』で止めたけど、これじゃ偽名の意味がほとんどない。
「失礼します!」
これ以上ヘマをしないためにも、今度こそオレはその場を立ち去った。
レイは呆然とその場に立ち尽くしていた。
昨日は最悪だった……。
翌朝、オレは憂うつな気分で正門をくぐった。
まさか学校内で女装するハメになるとは思わなかったぜ。
もう二度とあんな危険な橋は渡らないようにしなければ。
ハヤトのアニキにも会わないように気をつけよう。
「おい」
「うわ!」
いきなり背後から声をかけられて、オレは心臓が飛び出そうなほど驚いた。
立っていたのは、つい今しがた『会わないようにしよう』と警戒していた御堂レイ本人だった。
「何を驚いている。まさかまた校則違反の品を持ち込んでいるのではないだろうな?」
「も、持ってません!」
今日はさすがに女装グッズは持っていない。
「ふん。まあ良いだろう。さすがに昨日の今日で校則違反物を持ち込むような愚か者はいないだろうからな。持ち物検査はしない」
「はあ……」
「だが、昨日お前が持ち物検査から逃げた罪は消えていない。罰として今日から三ヶ月間、生徒会の仕事を手伝ってもらおう」
「ええっ!?」
「嫌なら構わん。代わりに校庭百周だ。好きな方を選べ」
「……喜んでお手伝いします」
あっさりと降参するオレ。
転生前も今も運動が苦手なのだ。校庭百周などしたら肺が破裂してしまう。
「よし。ではまずは服装検査からだ。私と共に今から正門に立って生徒のチェックをしてもらおう」
「い、今からですか!?」
「当然だ。服装の乱れは心の乱れ。生徒の堕落の芽は可能な限り早いうちに摘んでおかなければならない」
……大げさな男だ。
なし崩しに服装検査に協力することになってしまった。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
「月島ルイトです」
言ってから、しまった、と気づく。
「月島……ルイト?」
「いえ、あの……!」
「お前は、月島ルイという少女の関係者か? そういえば顔も似ている気がするな」
マジマジとオレの顔を見る。
――ヤバい!
「ふ、双子の兄妹です。ルイはもうすぐ転校してくる予定の妹なんです!」
あああ……ますます深みにハマっていく……。




