女の嫉妬は怖いらしい。
おい、マジか!?
本当にキスする気かよ!?
「だ、ダメだよ、ハヤト!」
「さっき、今のお前ならキスできるって言っただろ? 証明してやるよ」
そんな証明いらん!
だが、ハヤトはお構いなしに唇を近づけて来て――
「だめぇぇぇぇぇぇ!!」
ドン、と力いっぱいハヤトを突き放すオレ。
と言っても力がないせいで、ハヤトはちょっとよろめいた程度だったけど。
とはいえ、突き飛ばしちまったのはマズイ。これじゃウソ彼女だと告白しちまったようなものだ。
慌てたオレは咄嗟に誤魔化した。
「そ、そういうのは人前でするものじゃありません!」
……咄嗟に出てきた言い訳がこれか。
三十七歳のオッサンが真っ赤な顔で言う言葉じゃねーな。ほんと。
ハヤトがさも愉快そうに笑った。
「な? 純情で可愛いだろ? 気取ったモデル女たちじゃこーはいかねえよな」
「……………っ!」
その言葉が癇に障ったのか、ホノカは唇を噛み締め、ズカズカとオレの方に歩いてきた。
まさかビンタするんじゃないだろうな!
と思ったら、そのままオレの横を通り過ぎただけだった。
だけど通り過ぎる瞬間、ハッキリとオレに告げた。
「絶っ対、奪ってやるから!」
そのままズカズカと去っていった。
お、女って怖ぇ……。
「やれやれ……まだ諦めてねーのかよ、アイツ。カリスマモデルなんて性格歪んでるやつばっかだな」
お前が言うな。
「とにかく、これで僕の仕事は終わり! 約束通り明日から付き纏わないでよね。それじゃ!」
「帰るのか? 面倒なヤツの相手させちまった詫びに、メシ奢ってやるよ」
「いらない!」
オレはいい加減耐えきれなくなり、ハヤトを置いて駅の方へ歩き出した。
ハヤトは追いかけて来なかった。
はあ……まったく、酷い目に遭ったぜ……。
ピコン。
ラインが来た。
ハヤトからだ。
今日の待ち合わせのために(イヤイヤ)連絡先を交換していたのだ。
『初デート記念』
『結構いい写真じゃね?』
「こ、これは……!」
それはハヤトの彼女偽装工作のために撮った2ショット画像だった。
いかにも仲の良いカップルっぽく、肩を寄せ合う美男美女の二人が笑い合っている。
悔しいけど、確かに……
「い、いい写真だ……」
なんだかすごく、複雑な気持ちだった……。




