オレは絶対、男とイチャイチャしたりしない。絶対にだ!
序章 37歳の冴えないオッサン、BL小説の美少年主人公に転生す!
どうして、どうしてこんなことになったんだろう……
その日、オレはひたすら後悔していた。
この世界に転生したことを。 この、BL小説の世界の主人公に転生しちまったことを––
「おい、ルイトが嫌がってるだろ、手を放せよ」
学年一のイケメンオレ様男、御堂ハヤトが鋭い目つきで声を荒げている。
「お前に命令されるいわれはない。これは校務だ。月島ルイトの了承も得ている」
眼鏡を押し上げてナイフのような鋭い視線をハヤトに返しているのは、この学校の生徒会長であり天才高校生の御堂レイ。ハヤトの兄だ。
オレの手を掴んで生徒会室に連れて行こうとしている。
「僕には無理やり連れて行こうとしているようにしか見えないけどね。レイもハヤトくんも」
穏やかに言いつつ二人をけん制する中性的なイケメン、四条キリヤ。天才高校生小説家。
「先輩たちこそ、ルイト先輩の意思を無視して自分の用事に付き合わせようとしてんじゃねーすか。大人気ねーっすよ」
といって先輩たちに意見してるのは、サッカー部の天才一年生エース、赤坂ヨウ。
四人が四人、今日の学園祭でオレを連れまわそうとして争っていやがる。
「ルイト」
『月島』
『ルイトくん』
『ルイト先輩』
だああああああああ!
やめろ! イケメンども!
オレを取り合って喧嘩すんじゃねえ!
オレは、オレは、本当は37のオッサンなんだぞ!
酔って川に落ちて転生するまでは、ビール飲みながら野球中継見るのだけが楽しみだった冴えない中年オヤジだったんだぞ!?
なのに、なのに、
こんな美少年に転生したばかりに!!
しかも、明らかにハーレムエンドが確定しそうなBL小説の世界の主人公に転生なんてしちまったばかりに!!
こんな面倒くさい展開に巻き込まれちまうなんて!!
どーすりゃいいんだよおおおおお!
第一章 気が付いたらBLの世界
話は少しさかのぼる。
オレは気が付いたら見知らぬ高校の前に立っていた。
ちょっとしゃれた校舎の学校だ。
『私立白桜高等学校』という名前らしい。
ああ、そうだ、オレは会社帰りに酔っぱらって川に落ちて死んだんだった。
てことは、転生したってことか。
なんかあっさりと理解できた。
そうだそうだ、オレはこの世界では月島ルイトとかいう名前だったはずだ。
で、今日が転校初日だったはずだ、
けど、それ以外のことはいまいちよく思い出せない。
まあいいや。
せっかく生まれ変わったんだ。会社にも行かなくていいし、このままだらだらと高校生活をエンジョイしよう。
あ、でも自分の外見がどんなだかぐらいは気になるな。
前はまじで冴えないオッサンだったからな。せめて人並みに見れる顔に生まれ変わってくれていることを願ってやまない。
そしたら彼女だってできるかもしれないしな。
そう思って、スマホの内部カメラで自分を映して確認してみると––
え!?
これ、オレ!?
そこには、女の子みたいなかわいい顔した美少年の姿があった。
ちょっと頼りない感じだが、見た目はかなりのハイスペックだと言える。
よしよし、これなら彼女だってできるかもしれないぞ––
そんなことを思って内心ガッツポーズを決めていたら、
キーンコーンカーンコーン!
やばい、予鈴だ! 急がないと遅刻する! オレは慌てて駆け出した。「うわっ!」
だが、慌てたせいですぐに転んでしまった
「いててててて……つっ、足が……」
さらにまずいことに足を挫いてしまった。
前世の俺と身長の差がありすぎてうまく走れなかったんだろう。ついてない。
まずい、このままじゃ遅刻しちまう!
生まれ変わった世界ぐらいではまじめな学生生活を送りたかったのに。
その時、
「そんなとこで何寝てんだ、お前」
頭上から声が聞こえた。
顔をあげると、ホストクラブで働いてそうなチャラついた男子生徒が俺を見下ろしていた。
かなりのイケメンだ。……ムカつくほどに。
「こ、転んじゃって足をくじいたみたいなんです……」
なぜか敬語で喋るオレ。
もしかしたらこの体だとついついこんなナヨっとした喋り方になってしまうのかもしれない。
「はっ。始業式の朝からドジなやつだな」
呆れたように男が肩をすくめるイケメン野郎。
「おまけに制服も買い間違えたのか? それ、男子用だぞ?」
「いえ、あの……僕、男なんですけど……」
「は?」
イケメン野郎は一瞬何言ってだこいつという顔した後、大笑いした。
「まじかよ。こんな女みたいな顔してるヤツ初めて見たぜ」」
うるさいやつだ。
というか初対面で人のこと笑うんじゃねえ。
「もう分かりましたから、行ってください」
俺は面倒くさくなってそう言った。
が、その瞬間、
「うわ!」
いきなり、イケメン男子が俺をお姫様抱っこで持ち上げやがった。
「な、何をするんですか!? 下ろして下さい!」
「歩けねーんだろ? 笑わしてもらった礼に教室まで運んでやるよ」
おいおいまじかそんなの羞恥プレイにも程があんぞ!
「だ、大丈夫ですから下ろしてください!」
「うるせーなー。黙って抱っこされてろよ。俺だって遅刻しそうなんだからさ」
そう言ってイケメン野郎はひょいひょいと階段を昇っていく。
「そーいや、お前ってクラスどこ? 二年だよな?」
「えーと、 C 組だったはずです」
「はっ、まじかよ俺と同じじゃん」
「ええっ!?」
「つーことはお前が噂の転校生か。転校初日でずっこけるなんてドジっ子キャラでも狙ってんのか?」
「う、うるさいな」
ぐううう、なんてムカつくガキだ!
「せんせー、途中の道でドジっ子拾ったんですけど」
しかも教室に入るや否や大声で言いやがった。
こ、このクソガキ!
会社の後輩だったら速攻締め上げてるぞ!
さらに悪いことに、転入の挨拶をして俺に割り当てられた席はそのむかつくイケメン野郎の隣の席だった。
さ、最悪だ……。
「なー、ドジっ子。昼休み一緒に飯食いにいかねぇ? お前のおごりで」
「……断る」
休み時間、いきなり訳の分からないことを言ってきたイケメン野郎にキッパリと告げる。
「つれねぇなぁ。朝お姫様抱っこしてやった恩を忘れたのかよ」
「それについては感謝してるよ。けど、きみとゴハンに行くのは嫌だ」
「傷つくなー。このオレ様にそんな口利くの、お前ぐらいだぜ?」
は?
何言ってんだこいつ?
と思ったら、すぐにその言葉の意味が分かった。
どうやらコイツ、学校のなかじゃめちゃくちゃ有名人らしい。
名前は御堂ハヤト。
この世界の日本じゃ知らない人間がいない大企業『御堂カンパニー』の次男坊にして、超人気モデル。Twitterのフォロワー数も100万人超えているという化け物だった。
ちなみに女子達の間では、『ハヤト様』『白桜王子』なんて呼ばれているらしい。
……どんなハイスペック男子だよ。
が、そんなことオレの知ったこっちゃない。
オレはこの世界で普通に青春をエンジョイして、第二の人生を謳歌するんだからな!
イケメンキザ野郎なんかに構っている暇はねえ!
「よっ、オレにおごる準備はできたか?」
昼休み、またもしつこくたかってくるハヤト。
「僕ひとりで食堂で食べるから」
面倒くさいのでさっさと振り切ろうと歩き出すオレ。
が、その腕をハヤトに引っ張られた。
「うわ!」
思いのほか強い力で引っ張られ、そのまま、壁に押し付けられる。
「な、なにすんだよ!」
抗議しようとしたら、オレの頭の上に腕をついて覆いかぶさるような姿勢になりやがった。
この体制––まさか、壁ドン!?
なにしてんだよコイツ!!!!!!!!!
「いいぜ、お前。その反抗的な態度。この学校でオレにそんな態度取るやついねぇから、ゾクゾクするぜ」
サディスティックな笑みを浮かべて至近距離でオレを見下ろすハヤト。
おいおいおいおい! バカ野郎!
オレは男だ!
男を壁ドンしてどうすんだよ!
「や、やめてよ! 他の生徒たちも見てるよ!」
「いーじゃん、見せつけてやろうぜ。オレとお前がイチャイチャしてるとこ」
「な、なに言ってんだよ!」
あ、アホかこいつは!?
なにがイチャイチャだ!
ここはオレが青春をやり直してエンジョイするための学園ハーレム物の異世界じゃねーのかよ!?
「オレさ、昔から子猫とか可愛い系の生き物好きなんだよ。ああいうの見てるとイジメたくなっちまうんだよな」
「はあ?」
「猫をイジメたらかわいそうだからやんねーけど、お前なら、いい反応返してもらえそうだな」
くいっ。
ワイングラスでも持つようにオレの顎を指先で持ち上げる。
おいまさか!?
キスする気か!?
「やめ……!」
抵抗したが、遅かった。
ハヤトの顔が迷いなく近づいてきて––
オレの顔のすぐ横に移動した。
「……へ?」
「……なんてな。ガッカリしたか?」
クスクスと耳元で笑うハヤト。
こ、このクソガキぃぃぃぃぃ!
「も、もういい!」
オレは今度こそハヤトを振り切って廊下をズカズカ歩き出した。
なんなんだよこの世界! 学園ハーレム物じゃねーのかよ!
というか、なんでオレ、ドキドキしてんだよ!
あーもう、最悪だ!!!!
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