第96話 お、泳げない……
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どこで用意したのやら、ボクには似合いそうにもない可愛らしい水着の数々。
というかそんなに用意しなくてもいいのでは? と思うくらいの量が用意されていた。
その数なんと10着。
全体的には一人当たり5~6着が用意されているようだが、ボクだけなぜか2倍の量が用意されていた。
結果として、次から次へと水着を身体に当てられ、ミレ先生と千早先生、そして瑞歌先生の3名によるジャッジが行われるにいたる。
なぜこの3人なのかはわからないけど、おそらくだが、それぞれの代表者といった感じなのだろう。
ミリアムさんはボクの後ろに控え、ジャッジのサポートをしていたし、ミレイさんに至っては妖狐化した姿でプールへと飛び込んでいくのが見えた。
瑞葉に至ってはボクの横で同じように水着を当てられている。
みんな自由すぎる!!
極端な凹凸のないボクたちの身体は何か引っかかるところがあるわけではない。
なので下だけ穿いていればいいんじゃないかと思うのだが、どうも上下セットでないといけないらしい。
ちなみに、元盗賊の新人妖狐たちはほかの先輩妖狐たちについて見習いをしているようだ。
彼女たちならどんな水着を選んだのだろう?
「ねぇミレ? 下だけで良くないですか?」
「だめです」
「あ、はい」
やっぱりどうあっても上も必要らしい。
そもそも今まで水着で上を付けることがなかったので、違和感しかないんですが……。
「く、くるしい……」
たとえ引っかかるところがなくとも、締め付けられると苦しい。
この言いようのない違和感はどうしたものだろうか……。
「慣れてないなら慣れてください。そうでなければ左右に分かれたものにしますよ?」
「そ、それだけはやめてください」
「ではこの一体型では?」
「それも嫌です!」
ワンピース型水着とかビキニなんてさすがに無理です。
勘弁してください。
「ではそのままで」
「ふぁい……」
なんとか妥協できたのは、上下に分かれたスポーツタイプの水着だった。
下はハーフパンツタイプとなっているので、見た目は完全に薄着といった感じだ。
まぁそのハーフパンツの中にはパンツのような水着がもう1枚入っているのだが……。
ちなみに色は白だ。
「ふぅ、何とか終わりました……。それにしても……」
ボクはミレたちを見る。
ミカとミナはボクと同じ水着を着ているが、ミレはワンピースタイプの競泳用水着を着ていたのだ。
瑞葉は水色のワンピースの可愛らしいものを、瑞歌さんとミリアムさんはビキニタイプの水着を着ていた。
うん、見事にツルペタばかりだ。
ただし、瑞歌さんとミリアムさんを除く。
「よし。とりあえずこれでいいですね」
服を着ていないと何となく心細いけど、気持ちを奮い立たせてゆっくりと浅めのプールへと入る。
「ひゃっ、冷たっ」
当たり前のことなのだが、やっぱり冷たいものは冷たい。
でもじっくり浸けていると、どことなく温かく感じる。
意外と温度は高めなのかな?
「ミレ、ここはしっぽ付けてもいいんですか?」
「はい、問題ありません。抜け毛があったら後程清掃の時に集めますので」
どうやら問題はないようなので、妖狐の姿になってプールで泳ぐことにする。
「あ、しっぽ、つめたい……」
当たり前のことなのだが、尻尾は温度に敏感だったようだ。
どうやら身体より感覚が鋭いのようだ。
「ふ、ふぅ。な、慣れてきました……」
誰に言うでもなくボクはそう独り言を言うと、尻尾を動かして進むか試してみる。
バチャバチャ。
そう音は鳴るものの、たいして進む気配もない。
というかむしろ、藻掻いている風ですらある。
「えー。もっとうまく進むと思ったんですけど……」
なんだかがっかりだ。
しょうがない、普通に泳ごうと思って前を見ると、泳いでいるミレ、ミカ、ミナが目に入った。
そんな3人は、並んで楽しそうに尻尾を動かしながら器用に泳いでいた。
ボクにはできないことが、あの3人にはできていたのだ。
「えっ」
さらに見てみれば、瑞葉も同じようにやっているではないか。
つまり、動けていないのはボクだけということになる。
「ちょっと待ちましょう。整理整理……」
そもそもボクはそこそこ泳げていたはずだ。
なので、この身体でも泳げるはず。
試したことはないけど。
出来ないのは尻尾推進だけなはずなのだ。
「よし、やりましょう」
いざ実践!!
「とう!」
水に浮く。
手を伸ばす。
足をバチャバチャと動かし、バタ足をさせる。
す、進まない……。
「は?」
仕方ないので平泳ぎに変更する。
スイースイーっといくはずなのだが、移動距離はちょっとだった。
でも、確かに少しだけ進んでいた。
導き出される結論は……。
「ボクのイメージと体の大きさが合ってないのですか?」
16歳の男子高校生だった時のボクと比べると、手は圧倒的に小さい。
はて、小学校低学年の時はどうしていたっけ?
ふと思い出す。
「あー。ビート板を使って一生懸命バタ足していましたっけ」
その時も大した距離は進んでいなかった記憶がある。
「もしかして今のボクは、瑞葉より不器用なのですか?」
衝撃だった。
今のボクは誰よりも不器用らしかった。
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