第95話 拠点案内その2
マルムさんとセリアさんは新世界でしばらく狩りをしていました。
ミレイさんの妹のリディさんは、フェアリーノームと遊びまわっていましたけど……。
西側扉の医療区画は今後お世話になることがあるかもしれない。
ので要チェックだ。
身体が変わっても病気になるかは不明だけど、お腹痛いときとかは重宝すると思うんだよね。
体が小さいせいか、最近よくお腹が冷える気がするし……。
「では次は東のほうに行きましょう」
まだまだ知っておきたいことはあったが、あとで再確認しておこう。
「この先は複数階層に分かれています。上にではなく下にですが……」
シーラの説明を聞く限り、ここは地下へ繋がっているのだろう。
シーラに案内され、ボクたちは東の扉に入っていった。
「ここは荷捌き場からの物資の一部を使って物を作ったりする区画です。地下に大きく広がっていて、様々な物の生産を行います。そんな地下ではほかの研究所などと繋がっていて、物資のやり取りも行う予定です」
この区画は医療区画よりも細かく区切られていないようで一か所の部屋数は少ない。
でも地下へ地下へと拡張されて行っているので、総数はどこよりも多くなりそうだ。
「詳しいことは稼働し始めたときにでも案内できると思います。最新の研究としては【精霊工学】と【妖種化】ですね」
ちなみにこの【精霊工学】は元締めのようなものでもあるミリアムさんの発案だ。
当然、【妖種化】はボクの提案でもある。
これは眷属にならない妖種の生み出し方を研究するためのものだ。
簡単に言うと妖種を自然に誕生させる仕組みということになる。
地球では起こっていたことなので、新世界でもできるはずなんだけどなぁ……。
ミリアムさんの【精霊工学】は精霊にとって役立つ技術や精霊を使った技術を研究するためのものだ。
実体がなく意識のない下級精霊にも役割を持たせたり、進化させる方法を模索していくことになる。
「地下にはほか、地上側には公開できない技術の研究も行われます。液体エーテルもその1つですね」
どうやら新発見の鉱物や液体エーテル関連の研究は主に地下で行われるようだ。
となると、今後地下にはもっと大規模な研究施設が作られるのかもしれない。
「地上階は主に鍛冶や彫金、細工や調合といった一般的なものが設置される予定です」
案内された部屋には釜や調合用の器具などが置いてあった。
ここでは調薬などの研究を行うのだろう。
「鍛冶や彫金など、音が伴う施設は壁が厚くなっている上に防音加工されているので、音は外にほとんど聞こえないかもしれません」
一応は配慮されているということなのだろう。
まぁ空調がどうなっているかはわからないけど。
「では大まかな説明はしたので、次は北側に行きましょう」
シーラに導かれ、ボクたちは北側の区画へと向かった。
「北側は居住区画です。生活する上で便利な色々な設備を導入してみました。一部はアンカルの街にも繋がっています」
「アンカルの街、ですか?」
聞きなれない街の名前に首を傾げるミレイさん。
「はい。アンカルの街は私たちフェアリーノームの街です。色々なお店があるので便利なんです。人間で訪れるのはミレイさんが初めてかもしれません」
今は妖狐の眷属にもなっているが、純粋な人間でと言えばミレイさんとリディさんだろう。
そういえばリディさんはどこに行ったんだろう?
「シーラ、マルムさんとセリアさんとリディさんはどこに?」
ボクがそう尋ねると、シーラはさらに奥の扉を指し示した。
「室内プールです」
「えっ?」
突然のことでよく理解できなかったけど、室内プールって言いました?
「室内プールって?」
「ご案内しますね」
周辺の説明は一旦取りやめ、シーラは奥の扉の1つへと向かっていき、扉を開けた。
するとそこには、涼し気な水を湛えた大きくて広い室内プールが存在していたのだ。
プールサイドのビーチチェアには、マルムさんとセリアさんが寝転んでくつろいでおり、時折ドリンクをフェアリーノームが運んだりしている。
リディさんに至っては浅めのプールでフェアリーノームと楽しそうに戯れていた。
「ほ、本当にあった……」
ボクは驚いていた。
「す、すごいですね……」
ミレイさんも同じように驚いていた。
「あら、良さそうですわね。あとで使わせていただきますわ」
「私も少しいいでしょうか?」
「あ、は、はい。どうぞ?」
珍しく乗り気な二人を見て、ボクは即許可を出した。
「あ、は、遥様!?」
「あ、あわわ」
声が聞こえてしまったのか、マルムさんとセリアさんががばっと起き上がる。
「あ、大丈夫です。くつろいでいてください。狩りや探索お疲れさまでした」
二人にそのままでいいと言い、二人を労うことを忘れない。
今後も頑張ってほしいので、特権は自由に使ってほしいところだ。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
少し会えてなかったけど、マルムさんもセリアさんも元気そうでよかった。
それにしても、水着は地球のような物を着用しているようで、二人のスタイルの良い引き締まった身体が惜しげもなく披露されていた。
毛深い狼の獣人だった人狼族から、狼の耳と尻尾、人狼の能力を持った人の姿の獣人となった二人は、なんだかとても魅力的に感じた。
マルムさんは全身それなりに筋肉質だし、セリアさんもマルムさんほどではないもののしっかりした筋肉が付いている。
これでガチムチだったらそれはそれでこまったけど、この程度なら十分魅力的になるのではないだろうか?
特に二の腕とお腹、腰回りや太ももが筋肉が付いていてすっきりしている。
「主様? どうせですからプールに入りませんか?」
「え? なんでですか?」
「楽しそうだからです。シーラ、あれを」
「はい」
ミレの指示を聞いてシーラが頷くと、そのままどこかへと歩いて行ってしまった。
そして少し後、たくさんの水着を持って帰ってきたのだ。
「こ、これを、着ろというんですか!?」
「はい」
狼狽えるボクのことなど構わず、ミレは笑顔で頷いた。
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