第93話 新世界の拠点
森の入り口に盗賊の遺体をこっそり設置した後、ボクたちはそそくさとその場を離れ、拠点へと帰る。
到着後、軽く森の周囲を探査してみたところ、無事に盗賊の遺体を発見したようでざわついているのが確認できた。
それから一部のハンターが調査のために森へ入るものの、しばらくしてから同じ場所から出てきてしまい何度か挑戦した後諦めて帰ることも確認した。
やっぱり人間はこの森に入れないようだ。
「見慣れた景色に見慣れた拠点。ただいま、ボクたちの仮拠点!!」
いつ本拠点ができるかはわからないが、ここずっとお世話になっている森拠点にボクたちは帰ってきた。
森の中にある3階建ての建物というのはやっぱり違和感があるらしく、元盗賊の妖狐族たちや瑞葉は目をぱちくりさせていた。
「さて、いろいろ質問もあるかもしれませんけど、とりあえずもう一度移動しますよ」
ボクはそう言うと、みんなを連れて拠点内の転送部屋へと向かった。
そこから転移水晶に触れて回廊を開き、新世界へと渡った。
◇
新世界側の転送部屋には荷捌き場が付属しているのだが、そこには色々な素材がすでに集まり始めていた。
肉類はどこか別の場所に運ばれていったので、おそらく冷蔵もしくは冷凍するのではないかと推測している。
そもそも、そんなものがあるかはわからないけど。
「主様、これは何でしょう?」
元盗賊の妖狐族の一人が質問する。
「ここは新世界の転送部屋です。今見えている場所は各世界から入手した品物を集めて管理する荷捌き場です」
ここには現在、木材や石材、金属素材や皮革や肉、毛皮などが積み上げられていた。
どうやらいない間に狩りやら採掘やらが進んでいたようだ。
「前世ではこのような規模の場所には関わったことがありませんでした」
妖狐族の一人が荷捌き場を見ながらそう漏らした。
「この場所には色々集中するようですね。倉庫自体はもっと容量がありますから、今見ている以上に物が集まっているかもしれません」
あくまでも拠点の一区画なのでそこまで大きくはない。
でも、倉庫自体はこの場所の何十倍も収納が可能なのでできる芸当なのだと思う。
実際、ここから世界を渡り、品物を集めたり取引したりする予定があるのだ。
普通の商会よりはよほど大きいのではないだろうか? 見たことはないけど。
「お母様はここで一番偉い人なのですか?」
「はい、そうですよ」
驚いた表情の瑞葉にボクはそう返事を返した。
ふっふっふっ、お母さんはすごいでしょう!
……にしても、気が付けばお母さんと呼ばれることに違和感がなくなっている気がする。
いや、元々なかった……?
ま、まぁいいです。考えれば考えるほどドツボにはまる気がします……。
「主様、拠点の建設作業が大方完了しているようです」
瑞葉たちに荷捌き場について教えていると、ボクの横にいたミレがそう話しかけてきた。
「わかりました。行きましょう、ミレ」
「はい」
何はともあれ、拠点が大体完成したというなら見に行かなければなるまい。
ミレたちと一緒に荷捌き場から直接外に出ることにした。
まずは外から見た拠点だが、報告された通り完成しているようだった。
ただし、当初の予定とは高さが違っている。
ずっと上のほうには露天風呂があるはずなので、そこも後で確認しておこう。
「お、おかえりなさいませ、マスター」
1階の玄関から入ったボクたちを出迎えてくれたのはシーラだった。
「ただいまです。シーラ」
なんとなく久しぶりだったのでシーラの頭を軽くなでる。
「く、くすぐったいです……」
シーラは嬉しそうにしつつくすぐったそうに身を捩っていた。
「ご主人、私も~」
「私もお願いします、ご主人様」
それを見たミカとミナがボクに纏わりついてなでなでを求めてきた。
仕方なく頭をなでていると、今度はミレと瑞葉が同じような表情をしているのが見えてしまった。
結果、5人の頭をなでることになってしまったというわけだ。
「相変わらず主はおモテになりますね」
「ふふ、後で私も頼んでみようかしら。遥お姉様」
ミリアムさんと瑞歌さんが微笑ましそうにボクたちを見ていた。
ちょっと恥ずかしい。
でも実際、ボクとほかの子たちは同じような身長なので、子供同士で戯れているように見えるのかもしれないと思った。
この中で10代の少女風なのは瑞歌と千早さん、それとミレイさんだけだ。
ミリアムさんに至っては大人という感じがする。
近い人たちで言えばマルムさんとセリアさんだろう。
「この場所にもミレイさんのお部屋用意しないとですね」
新世界にも当然部屋を用意するつもりだ。
さて、どこがいいか。
現在の建物は6階建てになっていて、3階から5階が居住区になっているようだ。
「マスターのお部屋とお風呂はすでに完成しています。大方と説明されたかと思いますが、まだ一部の居住区が完成していない状態ということです。マスターのお部屋兼私たちの待機場所は一番大きな造りになっていますので、ご安心ください」
外から見た感じ、大きな温泉旅館みたいな雰囲気になっていたのでボクの部屋となっている6階は相当大きなことになっているのだろう。
というか、50人近くいるフェアリーノーム全員が押し掛けてくるのかな?
「では、ご案内します」
シーラはぺこりと頭を下げるとボクたちを案内し始めたのだった。
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