第86話 ホブゴブリン討伐戦と盗賊の調教
こっそりそっと投稿
さて、まずは安全にあの盗賊のおじさんたちを救出しなければいけない。
きっとほかの人が聞いたら、「盗賊なんてほっとけ。自業自得だ」と言い出すと思う。
でもボク個人としては、その罪を何らかの形で償ってもらわないと意味がないと思っている。
もちろん、盗賊討伐なんかの際にはいい子ぶって「殺してはいけません」などというつもりもない。
こういう場合限定だ。
当然このあと、彼らには罪を償ってもらう予定だ。
労役を科して、死後は地獄で償ってもらうことになるだろうけど。
「とりあえず彼らを救助するだけ救助します。その後でどこに引き渡すにせよ、ボクたちのところで罪の重さだけ労役を科すにせよ、何らかの方法を考えて償ってもらおうと考えています」
「わかりました。主に従います」
「罪の償い方ならお任せくださいませ。生前も死後もしっかり償わせて差し上げますわ」
「あぁ。盗賊の方にも死後の安らぎがあらんことを」
「安らぐ前に地獄行き確定ですね~。可哀そうに」
救助することに反対する人はいないようだけど、それよりも死後の話で盛り上がってるところが怖い。
今度、死後の世界のガイドラインについてしっかり考えておこう。
でないと恐ろしい拷問の世界が生まれてしまいそうだ。
新世界のほうは死後の世界について考えてなかったし。
あれ? 新世界の魂ってどうなってるんだろ?
まずい、また1つ謎が増えてしまった……。
「というわけで、ボクと瑞歌さんが先んじて攻撃する形です。行きます!!」
周囲のゴブリンは瑞歌さんに任せて、ボクは3体のホブゴブリンを狙うことにした。
瑞歌さんもそれを理解しているのか、ボクに向かってうなずくと、少しだけ後ろに下がった。
「拘束せよ」
影をググっと引っ張るようにして持ち上げ、そのままホブゴブリンに向かって掴む仕草をする。
すると、影がホブゴブリンの1体の足に巻き付く。
「グォ!?」
突然のことに対応できなかったホブゴブリンは、低い声で唸りながら地面に倒れ伏す。
「グゥ、グォ」
何やら話しかけながら残り2体のホブゴブリンが倒れた1体に近づいたのを見計らい、次の攻撃を開始。
「まとめて貫け」
倒れたホブゴブリンの足元の影が、一瞬小さくまとまったかと思うと、次の瞬間大きな棘の花を咲かせた。
「グゲェ!?」
全身を黒い棘に貫かれて背中からハリネズミのように棘を生やしたホブゴブリンたちが出来上がる。
しかし、ホブゴブリンはそれだけでは死なないようだった。
「グ、グゥゥゥ、グゥォゥ!!」
無理矢理体を棘から引き抜いて、何とか身を起こすホブゴブリンたち。
しかし、その体には無数の穴が開いており、血が止めどなく流れ続けていた。
「グゥォォォォォ!!」
周囲を威嚇するように大きな声を出し、攻撃者を探すホブゴブリン。
そこでボクはあえて姿を見せることにした。
「ここですよ」
その瞬間、一斉にホブゴブリンたちが木々をなぎ倒しながらボクのほうへ殺到してきた。
めちゃくちゃ怖い!!
「うへぇ~。何このパワー……」
ボクは妖狐族の身体能力を生かしながら、軽やかに奥へ奥へと逃げていく。
同時に、瑞歌さんのほうへ視線を移すと、瑞歌さんが残っているゴブリンの始末へと動くのが見えた。
「これでよし。しっかし、すごい迫力……」
身体能力が高くなっているせいか、そう簡単に疲れることはないものの、木々をなぎ倒しながら鬼のような形相で追ってくるホブゴブリンの姿は恐ろしいものがあった。
しかしそれもだんだんと弱弱しくなっていく。
仕舞には、ホブゴブリンは武器を振り上げ威嚇するものの、足元はおぼつかないものとなっていた。
「ホブゴブリン。こんなにタフだとは思わなかったです。でも、失血には耐えられないようですね」
いくら屈強なホブゴブリンとはいえ、その血は無限ではなかった。
最後には地面に膝をつき、武器で体を支えるまでになっている。
「じゃあ、さようなら、です。斬りおとせ」
その瞬間、ホブゴブリンの影から大きな鉈の刃のような影が生まれ、ホブゴブリンの首を勢いよく斬りおとした。
それも三体同時に。
「さて、完了っと。少しは影の使い方に慣れてきたかな? でも、ホブゴブリンとは絶対組み合いたくないですね……」
前衛盾職の人はきっと大変だろう。
というか、ゴブリンって進化するだけでこうも変わるのか……。
なかなか侮れない相手かもしれない。
「主、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっと試したかったのもありましたし。武具の回収お願いしますね」
「はい」
駆けつけてきたミリアムさんの回収を依頼して、ボクは瑞歌さんに合流しに行く。
惨劇の後だったらしく、現場はゴブリンの血で染まっていた。
当のゴブリンの死体はといえば、すでに姿形はなく処理済みだったようであった。
「お疲れ様です、遥お姉様」
ニコニコ笑顔の瑞歌さんがボクを出迎えてくれた。
その足元には、踏まれて慈悲を乞うように伏している盗賊たちがいた。
どうやら知らない間に調教済みとなっていたようだ。
「瑞歌さん、その足元のおじさんたちは……」
「はい、遥お姉様。これは葛葉お姉様直伝の調教方法ですわ」
「お、お婆様!?」
お婆様、何てことしてるんですか。
詳細はわからないけど、震える屈強な男性を踏みつけている姿を見るに、尋常ではない何かが行われたらしい。
今も瑞歌さんは嬉しそうに、頭を、背中をぐりぐりと踏みつけては蹴り上げている。
「お前たちクズ共には遥お姉様に挨拶する栄誉を与えてあげますわ。罪を償う前にご主人様にしっかり挨拶するように。ほら、さっさとやりなさい」
「「は、はいぃぃぃぃ」」
こうして、怯え平身低頭で許しを乞いながら、盗賊のおじさんたちはボクに何度も何度も挨拶をしていた。
荒くれものなはずの彼らに何があったのか、ボクはわからずじまいだった。
でも、聞いたらきっと怖いと思うのであえて聞くこともしない。
お婆様の恐ろしさをボクはまた1つ知ってしまった。
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