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第83話 構想と話し合い

意外と王都の距離が近いことに驚きました。

やばいやばい。

 出迎えてくれたガルドさんは恭しく頭を下げてボクにそう言った。

 隣にいるミーシャさんはやや緊張の面持ちだ。


「ありがとうございます、ガルドさん。お久しぶりです、ミーシャさん」

「お、お、お久しぶりです」

 何やら緊張しまくっているミーシャさんが可愛らしい。

 ミーシャさんはハイゴブリン族ではあるものの、可愛らしい外見の人なのですごくもてそうだ。


「今回は妖都関連の引継ぎと、大規模拠点建設の件で訪問しました」

「はい、聞き及んでおります。納品自体は遥様、いえ、姫様が行っていただけるとか」

 どうやら大まかなことはお母さんから伝えられているようだ。


「そうですね。うちで使う分もあるのであとでどのくらいの量がいいか相談してみます。今のところは共用といった感じに捉えておいてください」

 納品する際にはどこから運び込むかは相談しておく必要があるだろう。

 少なくとも、空間収納があるのでどこだって問題はないわけだが。


「あ、そうです。紹介しておきます。今日来ているフェアリーノームが、ミレとミカとミナです。こちらの黒髪の女性が瑞歌さん」

「お見知りおきを」

「こちらの金髪の女性がミリアムさん」

「よろしく」

「こ、こちらこそ、お願いいたします」

 ミリアムさんの紹介に及んだ途端、ペコペコし始めるガルドさんが面白い。

 さすがに大恩あるらしいミリアムさんにはそうなるよね。


「それでこちらのミリアムさんより小さめの、金髪の女の子がミレイさんです。人間で大神殿の聖女をしています」

「人間と聞いても警戒なさらないでください。大神殿はすべての生きとし生けるものを育む役割がございますので」

「は、はい」

 屈強なガルドさんがややたじろいでいる。

 ミレイさんから何かを感じるのだろうか?


「それでこっちの桜色の髪の毛の狐耳の子が千早さんです。ボクの従者兼巫女見習いです」

「よろしくお願いいたします! 妖都出身です」

「は、ははぁ~」

 千早さんのあいさつが住むと、ガルドさんは平伏してしまった。

 なぜ?


「千早さん、これはなぜですか?」

 ボクは訳も分からず千早さんに尋ねた。


「巫女見習いや巫女は国主より上の立場になるんですよ? 国母たる若葉様の直属ですから」

 なるほど、つまり上司の上司がやってきてしまった状態というわけか。


「ずいぶんすごい地位にいるんですね」

「何をおっしゃいますやら。遥様は若葉様のご息女! 実質第二位! この中で一番上ですよ?」

 ボクのほうが上でした。

 そういえばそうでしたね……。


「うぅ……。わしは、感無量です……」

「村長……」

「村長、気持ちはわかりますが、ここはしっかりと」

「そ、そうだな。妖都の庇護下に入っていたとはいえ、これからは村がさらなる発展をするのだからわしもがんばらねば……」

 どうやら今回のことは、ハイゴブリンにとっても慶事となることのようだ。

 これはボクも頑張らないといけないな……。


「これからは街を作ることになりますが、意見があったらどんどん言ってください。各種族が住める専用街、それと多種族で住める中央街など、いろいろと作る予定ですので」


 現在ある構想には、各種族が集まって住める街区と民族を異にして交流し住むことのできる中央街区の2種類がある。

 役所機能や神殿機能は別に作り、神殿最奥からボクたちの領域が始まるという予定を立てている。

 街の門には衛士を置くが、そのほかに審判門を置く予定だ。


 街の中では基本的に犯罪は起こらないと思うけど、ないとは言い切れないだろう。

 そうなった時の審判所も必要となるのだが、こちらには専用の裁判官を用意しようと思っている。

 仏教の伝承に基づいて、10人の裁判官を用意してもいいかもしれない。

 

「と、暫定的ですがこのような思想で街を作るつもりです。行き来は専用の鳥居を用意し、直接門前に転移できるようにしようかと」

 頭の中で考えた構想を紙にまとめて、ガルドさんに渡す。

 主な物流は新世界と妖都になるだろう。

 この世界に多少出すことは問題ないけど、過ぎたものを出す気はない。


「この技術の流出禁止とこの世界の街への製品輸出の制限とは具体的にどのようなことでしょう」

 紙に書かれたことを確認しながらガルドさんが質問を投げかけてくる。

 いい質問ですね! とか言ったら怒られそう……。

 でも一度は言ってみたいセリフでもある。

 

「この街への物流のほとんどはボクの世界と妖都からとなります。もちろんこの世界の町からの輸入も問題ありません。ですが、許可製品を除いて無暗に外の世界に製品や技術を流出させたくないんです。取引に来る商人には物珍しいものも多いかと思いますけどね。そのあたりは今後もう少し詰めていこうかと」

 この街のメイン金物は【妖精鉄】で作られた日用品や武具や道具になるだろう。

 その【妖精鉄】ですらこの世界の一般的な鉄とはわけが違うのだ。


「なるほど。あの採掘場からは【妖精金】【妖精銀】【妖精鉄】【妖精銅】【妖精錫】などが産出しますからな。まぁそのほかにもあるにはありますが、現状使い道がないものが多く、倉庫にたくさん眠っております。これらを無暗に外に出してはいけないということですな?」

「そうです。扱いはボクたちと妖都で決めることになるでしょう」

 正直、【妖精金】なんて外に出したら恐ろしいことになると思う。

 調べたところ、【妖精金】はそれ単体でも強力な魔法の触媒になるという。

 当然、採掘できる種族が限られているため人間の街には流通していない。


「わかりました。具体的な産出品については後ほどお渡しします」

「ありがとうございます」

 

 さて、品物などに関する話はとりあえず一旦終了。

 次は街の場所なのだが……。


「街の建設予定地にいい場所ってありませんか?」

 調査してもいいのだが、とりあえずわかる範囲でいいので尋ねてみようと思った。


「この村から北側は何もない森が広がっています。古代遺跡の類もあるにはありますが、調査はしていません。その一帯であれば好きなように開拓してもらっても問題はないと思います。この村は街ができ次第移動しても構いませんし」

「村の北側から、ですか。どこまででもという感じですか?」

 そういえばこの村の周囲だけではなく、森の全容を知らない。

 どこからどこまでがこの国で、どこからが別の国なのかも知らない。


「この森は遠くに見える山まで広がっていますが、奥に行けば行くほど魔物が強くなるのです。山には龍族がいるのですが、その関係で強い魔物が生まれているのではないかと言われています」

 そう言ってガルドさんは、かろうじて見える山の先っぽを指さした。

 思った以上に、かなり遠くまで広がっているようだ。


「山側から東のほうには海岸線がありますが、今は漁村などはありませんな。過去にはあったようですが、魔物の襲撃やら何やらで廃墟だけが残っている状態です。森の東は海まで続いていると思います。ただ、この森は大森林地帯と呼ばれる場所でして、西を除いた北東南すべての方向に森が続いています。過去に調査した時は1か月ほど探索しても森から抜けらることはできませんでしたので打ち切りました」

 残念ながら海はここからでは見ることができない。

 森の規模を考えると、王都くらいのサイズの街を1つ2つ作っても十分余裕があるだろう。

 それにしても1か月進んでも抜けられないとか、どんな大きさの森なんだろう。


「この付近には国はないのですか?」

「残念ながらアルテ村のある国以外はこの付近にはありません。山脈と海と森に阻まれているのです。特に山脈側は龍族の領域となっているので、人間は国を作ることができないのです」


 なるほど。

 そうなると後は、保護されている森の範囲と森の規模、海までの道程の確認が必要というわけか。

 あとほしいのは、ボクたちの拠点の東側がどうなっているか、誰のものかを調べる必要がありそうだ。

 もし誰かいるなら交渉するし、いないならボクたちで扱ってしまうつもりだ。


 というわけでまずは整理しよう。

 ボクたちの拠点を中心として、北側に青肌一族の村があり、北北西に採掘場があることになる。

 また、西に行くとアルテ村がある。

 王都トラムはアルテ村からおおよそ北西方向にずっと移動するようだ。

 で、アルテ村が開拓可能なのは見える範囲までで、森にはほとんど入れない状態。

 なので実質平原の開拓がメインとなる。


 ずっと進んでいくと山脈が西へと続いているらしいので、山を迂回できる方法はない。

 森は北西へも広がっているので、アルテ村の規模はそこまで大きくはできないだろう。

 ボクたちの拠点から北東にずっといくといずれは海辺に着くらしい。

 

 しかも、森の範囲のほとんどに龍族の影響があるらしいので誰も領有できない。

 ボクたちを除いて。


 それと、話を聞く限り、森を抜けるには1か月以上はかかりそうとのこと。

 とりあえず、大きな街の1つや2つ作ってもすっぽり収まるのは確実だ。

 となると、北東にあるという海までの日数と結界の範囲の確認と魔物の分布状況と強さの調査が必要となる。

 あとできれば、森の規模と全容の解明がしたいところだ。


「でもそう考えると、アルテ村付近って元々は王国直轄領だったのかな?」

 距離だけで見たら王都までは比較的近い場所と思われた。

 ざっと見積もった感じ、少なくともアルテ村から王都まで1000km以上は離れているようなので、どこかの貴族が領有していてもおかしくはないはずだ。

 

「ミリアムさん、このあたりってハンターたちが多くいるんですよね」

「そのようですね」

「新規に開拓した村、結界の張られた森、龍族の管理地、他よりも強く質のいい魔物。よく王家が直轄地にしませんでしたね」

 普通に考えると結構好条件なのでは?


「理由は簡単です。ある程度の規模以上の街を作ろうとすると、龍族が襲撃に来るからです。そうでなくとも、アルテ村の北側にかかる森にはダンジョンがありますから、魔物の暴走にも気を使わなければなりません。それと……」

「?」

「過去に異世界の勇者によって倒されましたが、魔物の王が生まれたのもこの地域なのです」

「魔物の王……」

 どうやらこの辺りにはいろいろな問題がありそうだった。

 過去に現れた魔物の王を倒したのは、うちのお父さんで間違いないだろう。


 魔物の王の生まれる土地、龍族の襲撃、人跡未踏ともいえる大森林、結界に覆われた森。

 並べてみるとものすごくきな臭い場所だった。


「思った以上にやることが多そうですね。とりあえずアルテ村の人間が入れる場所は彼らに任せます。ボクたちはそれ以外の場所と大森林の調査、龍族の調査を行います。街作りについては人員を割いて少しずつ進めていきましょう」

「わかりました」

「わかりましたわ」

「問題ありません」

「いつでもおっしゃってください」


 とりあえず今のところはこの方針で行こうと思う。

 それに、神様権限で簡単に調べたりするのはなんだかおもしろくないしね?

 そういうのはボク自身の世界でやりたい。

 でもとりあえず、ちょっとだけミリアムさんから話を聞いてみようかな。

お読みいただきありがとうございます!

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