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第74話 ミレイさんとミレと騎士団の闘い

基本的にミレは強いです。

並みの相手ならすぐ終わります。

 この世界に来てから、ちょくちょくお母さんの影響を受けた何某かに出会うのだけど、偶然だろうか?

 お父さんが勇者をやっていたとか言っていたので、もしかして前にこの辺りを管理していたのはお母さんなのではないだろうか。

 だとしたら、もっとお母さんの影響を受けた場所があるはずだ。


「さて、あとはアルテ村のほうにも何か影響を残しておきたいですね……」

 一時的に籍を置く意味でも何か商売をしたほうがいいと思う。


「う~ん……。ハンバーガーショップでもやろうかなぁ……」

 ボクがそうつぶやいた瞬間、ミレとミカがピクリと反応した。


「もしかして、やりたいの?」

 ミレに問いかけると、コクコクと頷いたので一回くらいやってみようかなと思う。

 個人的には、日本でもよく見かけるタイプのハンバーガー屋にしたい。

 とはいえ、アルテ村における影響は少なくしたい……。

 

「店舗は神都と新世界拠点において、こっちには屋台を置きますか。しばらくはアンカルの街で試作と生産をしましょう」

 この世界では絶対真似できない味をこっそり広めて中毒にさせてしまおう。

 屋台は神出鬼没なフェアリーノームたちに任せるほうがいいだろう。

 彼女たちは捕まったとしても自力で戻ってくることもできるからだ。


「でも、そういうのって利用しているようでちょっと微妙?」

 とは思うものの、ボクより安全性は高いんだよね。


「えっと、ミリアムさん、瑞歌さん、ミレイさんちょっといいですか? ミレたちが屋台をやりたいそうなんですけど……」

 三人を呼んでさっそく相談を始めることにした。

 ちなみにリディさんは、ミナの給仕でお茶を楽しんでもらっている。


「ボクの世界にはハンバーガーっていう食べ物を売るお店があるんです。簡単に言ってしまうと専用パンの間にお肉や野菜を挟んで、挟まれた具材にソースをかけて一緒に食べるというものです。お店自体は新世界とアンカル、えっと、フェアリーノームの世界、それと神都に作る予定です。アルテやそのほかには屋台という形で一時的に出店して、直接運営の店舗は置かないという形式をとろうと思っています」

 とりあえず概要を簡単に説明する。


「ハンバーガー? ですか。聞いたことのない食べ物ですね。でも主がやるのでしたらお手伝いいたします」

「私は人間の食べ物に興味はありませんわ。でも、遥お姉様がお好きなのでしたら興味がありますわ」

「新しい食べ物、ですか。いいと思います。お手伝いさせてください」

「みなさん、ありがとうございます」

 三人には協力してもらえそうなので、詳細を紙に書いて後程展開することにした。

 とりあえずソース開発と合うバンズの開発、それとハンバーグやビーフパティ等の具の開発をしなければいけない。


「あ、そうです。護衛さんたちにはお引き取りいただかないとですね。いつまでもキャンプされていては困りますから」

「たしかにそうですね。わかりました。今から行ってまいります」

「ミレ、護衛お願いね」

 ミレイさんの護衛をミレにお願いする。

 あとは簡単に引き下がってもらえればいいんだけど。

 でも、大体渋るよね?


「さて、どうなるか確認しますか」

 ミレイさんとミレが一緒に出ていったので様子を確認することにした。


 室内から領域を確認する。

 ミカがボクにお茶を入れてくれたので、ミリアムさんたちと一緒にお茶会を始めることにした。

 今回はちょっと試しに、ミレたちの持っている水晶球にボクの見ている映像を出力してみることにした。


「さっそくこの水晶球にミレイさんたちの様子を映したいと思います。うまくいくかな?」

 水晶球に手を当てて、領域の映像を出力するようにイメージを送る。

 すると、少しずつ水晶球の中に渦ができ、映像が見え始めた。

 こういう監視装置みたいなのも作りたいなぁ……。


「お、うまくいきましたね。もっときれいに大きく表示したいなぁ……」

 ボクの不満は徐々に解決させることになるだろう。

 とりあえずパソコン関係を買ったらそのあたり上手くできないか調べてみよう。

 それっぽいものが見つかったらみんなで実現する方向で……。


 ミレイさんたちはどんどん森を進んでいた。

 狙って現れた狼をミレが撃退し、謎の力でミレイさんがミレを援護する。

 ミレイさん自体も白い光球のようなもので狼を攻撃しているので、攻守どちらも担当できる力を持っているのだろう。

 すっごくファンタジー的なパーティープレイのように感じられて楽しい。


 ミレイさんたちは順調にアルテに向かって進んでいき、こっちに来た時よりも早い時間で森を出ることに成功した。

 襲ってきた狼はだいたい10頭くらいだろうか。

 ミレが笛を吹くたびに、フェアリーノームが現れて狼を回収していったので、森の中には狼の死体は1つも残っていないようだ。


「音声、拾えるかなぁ……」

 ちょっと試行錯誤を繰り返し、ミレイさんたちの声が聞こえるか実験してみた。

 結果、なんとか音声を拾うことができたので眷属のみんなの頭の中で音を再生することにした。

 誰か、水晶玉にスピーカー機能付けてください……。


「あ、お姉様の声だ~」

 リディさんが早速反応した。

 どうやら無事に音声出力ができたようだ。


『大神官【ウルス・アル・サリアス】の命により、私【ミレイ・エル・サリアス】と【リディ・エル・サリアス】はこの地に残ることとなりました。また、この地域は神域となっているため、管理者の同意を得て、私が治めることとなったことを伝えます。騎士団及びその他の者は別命あるまで大神殿にて待機せよとのお爺様のお言葉です』

 ミレイさんはそう言うと、手紙を手渡した。

 どうやら一度戻った時に手に入れてきたようだ。


『たしかに、大神官様の印も入っております。しかし、聖女様方だけを残して帰還することはできません』

 命令書のようなものを受け取っても、騎士団のリーダーさん納得いかないようだった。


『必要ありません。管理者の方より転移の石を受け取っていますのでいつでも帰還することができますし、お世話は他の者がしてくれますし、自分でもできます。護衛面はフェアリーノーム様がしてくださいますし、私自身も戦えます』

『ですが』

『くどいです。フェアリーノーム様では不満と?』

 ミレイさんが騎士団のリーダーさんにそう言うと、そのままミレのほうを見た。

 ミレはこくんと頷くと、武器である手斧を構えた。

 

 今回ミレが構えた斧はボクが改造した以前石槌だったものだ。

 妖精銀と創造スキルを利用して作った、ちょっと危ない切れ味の斧。


『正直に言えば、私は信用していません。そもそも魔物に分類されてもおかしくはない妖精族ではありませんか』

『魔物、ですか? ドワーフやエルフとどう違うというのですか?』

『簡単なことです。彼らは言葉が通じます。この言葉を解せない見た目だけの存在を一緒にするのは、あらゆるものに対する侮辱というものです』

 何やら頓珍漢な言葉を吐き続けるリーダーさん。

 どうやら差別主義者のようだ。


『ドワーフやエルフたちはフェアリーノーム様を崇めています。ご存じでしたか? それに、フェアリーノーム様は言葉が通じますし理解できます。それをあなたはご存じですか?』

 ミレがそれに同意するようにこくんと頷いた。

 すでに言葉が通じていることが実証されているのだが、リーダーさんは理解しているのだろうか。


『ミレ。どうしても相手が引かないようなら思い知らせてあげてください。呪いも可です』

 こっそりミレにテレパシーを送る。

 さて、どうなるか。


『私は言葉が通じない者との対話はできないと考えています。それに、聖女様を迎えられるのにこのような者しか迎えに寄こさない管理者? とやらも信用できません。なぜ姿を現さないのですか?』

『神が、人間の思い通りの場所へ、姿を現すと思いですか?』

 ボクにまで侮辱が及んだ瞬間、ミレイさんの声のトーンが下がったのがわかった。


『聖女様、毒されてしまったか。だから私は反対していたのだ。総員、聖女様を取り押さえ、大神殿へ帰還せよ。洗脳が掛けられている恐れがある。この妖精族は始末せよ』

 リーダーが命令を出すが、騎士団の騎士の一部が抜剣しただけで、抜剣しない騎士もいた。

 どうやらリーダーはやる気のようだ。


『エルガルド殿、我ら大神殿騎士団は聖女様のお言葉に従いフェアリーノーム様と争うことは避けたく思います。王国騎士だけで争うのがよろしかろう』

『これだから王国騎士でない者は……!!』

 抜剣しなかった人たちは大神殿の騎士団の人だったようだ。

 なるほど、王国と大神殿は確かに仲が悪いようだ。


『ミレイさん。この人はどういう人なんですか?』

 少し気になったので、彼のことを聞いてみることにした。

 どういう人で、どうしてこのような発想になったのか気になったからだ。


『遥様、申し訳ございません。彼は名を『エルガルド・セル・レイスラント』と言います。【レイスラント侯爵家】の三男で王国騎士団に所属しています。何と言いますか、彼はプライドの高い王国騎士なんです。大神殿の騎士団には所属していませんが、今回遥様の元に赴くことになった際、王家の横槍といいますか、余計な介入のせいで彼がリーダーとして送り込まれてきました。彼自身は差別意識が非常に強く、人族以外は認めようとしない人でもあります。言葉が通じればなどと彼は言いますが、ドワーフやエルフたちも彼は見下しています』

 どうやら貴族の厄介者のようだ。

 はたして、ミレにどこまで善戦できるやら。

 

『わかりました。ミレイさんの指示でミレが攻撃します。戦後処理は任せてください』

 ボクがそう言うとミレイさんは頷き、ミレに攻撃指示を出す。

 

『どうあってもわかり合おうとしないのですね。ミレ様、殺さない程度に痛めつけてください。大神殿騎士団の者は巻き込まれないよう、離れていてください』

 ミレイさんの指示を聞いて、抜剣しない騎士たちが一斉に離れていく。

 ミレはミレイさんが退避したところで護衛のフェアリーノームを呼び出した。

 5名のフェアリーノームがミレイさんを守る。


『この魔物め! 退治してくれる!』

 いきり立つリーダーさんはすごい速さでミレに迫った。

 地面を一回蹴っただけでかなりの距離を詰められたのだ。

 相当鍛えているのだろう。


 そのままリーダーさんはミレに剣を振るうが、ミレはそれをひらりと回避した。

 ちなみにリーダーさんはロングソードを両手で持っている。


『ちょこまかと!』

 リーダーさんが接近して斬り付けては、ひらりと回避していくミレ。

 どう考えても実力が足りていないように見える。


『【神よ、炎よ、我が敵を討て! フレイムボール】』

 突如リーダーさんが呪文のようなものを口にした。

 直後、オレンジ色の炎を纏った球が出現し、ミレに襲い掛かる。


 襲い掛かってくる炎の球を見たミレは何かを呟くと、炎の球に向かって指を指した。

 すると、ミレが指さした直後、炎の球は落ちることなく空中で静止したのだ。

 そしてミレはそのままリーダーのほうに向かって指を指した。

 まるでミレの使った魔法かのように、炎の球はリーダーに向かって飛んでいく。


『な、なんだと!?』

 慌てたようで、リーダーさんは咄嗟に剣でブロックするが、足掻きもむなしく炎に包まれてしまった。

 剣で魔法は防御できないようだ。

 でも王国騎士なんだし、そんなにダメージは入らないだろう。


 すると、今度はミレが一気に跳躍し、リーダーさんの剣を斧で斬りつけた。

 キンという音と共に剣は折れ、中ほどまで折れた刃先が宙を舞った。

 あっけない勝負の付き方だった。


『ば、馬鹿な……。ありえん……』

 唖然とするリーダーさん。

 獲物を失ったことだけでなく、一瞬で状況を覆されたことに理解が追い付いていないようだ。


 それもそのはず。

 ミレがやったことと言えば、攻撃を回避して魔法を跳ね返して怯んだところで剣を叩き折っただけなのだ。

 ただこれだけだ。


『ミレ様、すごい』

 ミレイさんは感動した様子。

 しかしミレはそのままリーダーさんの近くに行くと、足払いをして倒し、額に何かの文字を描いていた。


 ミレが何をやっているのか、ボクは理解した。

 彼女の使った呪いの種類がボクに流れ込んできたのだ。

【女神の呪い:能力のはく奪】:相手の能力を1/3以下まで落とし、魔法や魔術といった術の行使権をはく奪する。魔力が回復することもなくなる。三代に渡って引き継がれる重い呪いだ。

 おそらくボクの眷属ということもあって、この世界の人間にも効果を及ぼしているのだろう。

 そうでなくとも、ミレたちは一応女神なのだから。


『エルガルド様、そして抜剣した騎士の皆様。エルガルド様は敗れ、神に逆らったものとして女神の呪いを付与されました。早急に大神殿へ戻り、状況を確認してください。私は落ち着き次第、一度転移石で大神殿へ戻ります』

 一時期慌ただしかったキャンプ地は、ミレイさんの一言により落ち着きを取り戻した。

 あとに残ったのは、わなわなと震えるエルガルドさんの姿だけだった。


 それにしても、ミレイさんは転移水晶を転移石と呼ぶのか。

 それは知らなかった……。

お読みいただきありがとうございます!

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