第59話 新世界とハーンさん
ハーン:魔法と神秘と魔界の神(引きこもり気味で影が薄い)
ベルザ:鍛冶と建築と大地の神(鬼のように大きくてごつくて存在感がある)
新世界の開拓は概ね順調なようで、新しい鉱石なども続々と見つかっている。
特に属性を宿した結晶なども見つかっているため、今までいた異世界よりもずっと属性武器やそれを使った魔法などが使いやすくなると思う。
ちなみにこれは向こうだと精霊に直接頼まないと人類は入手することができないものらしい。
まぁこのあたりの情報はミリアムさんから聞いただけなので、そういうものなのだろうとボクは思っている。
「元素結晶があるならそれを使ったアイテムを作りやすくしたほうがいいですよね」
「そうですね。念のために加工はこちらのみとして、向こうには完成品を輸出する形をとりましょう」
半ばボクの参謀と化しているミレがそのようにアドバイスをくれた。
となると、システムの構築をしなければいけないわけだけど……。
「魔法、属性。う~ん。深くまで詳しい人いたっけ……?」
ミリアムさんやミレたちは魔法や属性についてとても詳しいはずだ。
セリアさんは弓使い兼魔術師という謎のスタイルらしいので、ミレたち以上の成果を期待するのは難しいかもしれない。
『ふふ。姪よ。僕のことを忘れてませんか?』
悩んでいると、突然そんな声が聞こえてきた。
『だ、誰ですか?』
『ふふ。そうですよね。僕は影が薄いですからね。忘れてしまいますよね。ハーンです。貴女の叔父の一人です。ついでに言うと若葉姉さんの弟です』
『あっ』
しまった。すっかり忘れていたよ。
地味に傷ついているみたいだし、フォローしたほうがいいよね?
『お、お久しぶりです! 神界以来ですね!!』
忘れてないよアピールを欠かさないボク。
大丈夫です、記憶にはありますから!!
『でも一言目が誰? でしたよ』
はい、アウトー!!
フォロー失敗しました。
もし過去に戻れたなら過去のボクに言っておきたい。
ハーンさんを覚えておいてあげてと。
『突然のことだったのではっきりしていなかっただけです。ほら、大丈夫ですよ?』
ハーンさんって黒髪なのに肌が色白なせいか、不健康に見えるんだよね。
でもこの手の男性って、結構女性にモテるイメージがある。
『そうかなぁ。そういえばベルザ兄さんもこっちに興味があるって言ってたから、近々来るんじゃないかな?』
『ベルザさんが?』
ベルザさんはボクの叔父さんにあたる、大柄で角のない鬼みたいな姿の鍛冶と建築を得意とする神様だ。
大地も司る時点でわかるようにとても力強い神様である。
『ベルザ兄さんはすぐ思い出せるんですね……』
『いえ、その、存在感すごいですし!』
『うん、そうですね。僕は若干引きこもりだから存在感薄いのはしょうがないですよね』
う~ん、難しい。
なんだか泥沼に嵌ってる感じがしてきたぞ?
『と、ともかく! 新世界を作ったのでいろいろと教えてほしいです』
ボクは話題を変えることにした。
このままずるずると行くのは非常にまずい。
『そうですね。では、まずは何が聞きたいですか?』
よしっ、話題変更に成功!!
『水晶球を媒介にして世界を作ったんですけど、この状態だと新世界は水晶球の中にしか存在しないことになるんですか?』
ボクの認識では水晶球はイメージするための媒体でしかないのだけど……。
『どこに創ったかによります。水晶球を通して世界を作るイメージをしたなら、新世界は世界の狭間にできるでしょう。水晶球の中に作るイメージをしたなら世界は水晶球の中にできるので他の世界からアクセスすることはできなくなります』
なるほど。あの時のボクは水晶球を媒体にすることで作った。
それがどっちかまではわからないんだよね……。
『ハーンさん、こっち来れますか?』
わからないのでハーンさんで実験しよう。
『わかりました。遙の気配を辿って行きますね』
ハーンさんとのテレパシーが切れると同時に、誰かがこの世界に入ってきたのを感じた。
とりあえず、その侵入者は許可されていない人物だということだけはボクにでもわかった。
「主様?」
心配そうにミレが尋ねてきた。
ボクの異変を感じ取ったんだと思う。
「誰かがこの世界に入ってきたのを感じました」
「敵ですか?」
「わからない……」
「わかりました。警戒します」
ミレは武器を構えると、近くにいたフェアリーノームたちに指示を出し始める。
この奇妙な違和感の正体は何なんだろう……。
「こんにちは、遥。なんだかわからないけど侵入するのに手間取りました」
「ハ、ハーンさん!?」
「おや? どうしたのですか?」
突然現れたハーンさんに驚きつつも状況を説明する。
「なるほど、自分の世界に誰かが入ってきて違和感を感じた、ですか。っとと、武器を突き付けるのはやめてほしいのですが……」
「主様、この方は?」
ミレは見慣れないハーンさんを警戒して武器を突き付けていた。
「あ、ミレ。ボクの叔父さんのハーンさんです」
「そうです。決して怪しいものではございません」
とりあえず素性だけでも明らかにしておこう。
ハーンさんは若干焦った感じでミレにそう話した。
「主様がそういうのでしたらいいのですが……。もしかして先ほどの違和感はこの方では?」
そうは言いつつもミレはハーンさんから目を離したりはしない。
「ハーンさんが違和感の原因?」
「あくまで可能性の一つです。今はどうですか?」
ミレに言われて、ボクはハーンさんを見る。
色白黒髪の不健康な美青年といった感じの風貌のハーンさん。
今は被っているフードとローブが若干乱れている。
「う~ん。わかりません。違和感はないようですが……」
「そうですか……」
「あ、あの~。多分違和感の正体は僕です。無理矢理入ってきたので異物と認識されたんだと」
ハーンさんに違和感を感じなかったので、ハーンさんではないと結論付けた。
けど、ハーンさんは自分が原因ではないかと言うのだ。
「どうしてですか?」
「実はこの世界に来るとき、神界からはアクセスできたんですが、いざ入ろうとするとよくわからない力に阻まれてしまいまして。それを突破したのが原因ではないかと」
「なるほど? それにしても、よくわからない力ですか……」
違和感の正体はなんとなくわかったものの、今度は別の疑問が浮かんでしまった。
よくわからない謎の力ってなんだろう。
「それはともかくとして、ようこそ、新世界へ」
気になることは多いものの、それらはいったん置いておくことにした。
改めてハーンさんを歓迎しようと思う。
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