第49話 神格の引継ぎ
神様なのに神事を行う際の衣装を着る!!
ボクたちの元に訪れた【三島玄斉】さんは、共にやってきた妖狐族たちに対しててきぱきと指示を出していく。
その中でボクの着替えについても意見が出された。
「姫様に置かれましては本来の意味とはあべこべになってしまいますが、【袿袴】と呼ばれる装束にお着替え願います。我らの神は若葉様及び姫様たちではございますが、この装束は、葛葉様が高天原の神々に助力を願った際に着用したものになります。それ以来、高天原への助力感謝の意を込め、神事などで余所へ赴く際はこれを着用することとしております」
玄斉さんがそう言うと、巫女装束の妖狐たちが恭しくボク用の衣装を運んできた。
これは見たことがある。神社で女性の宮司さんが着ていた正装というやつだ。
平安の男性装束より飾りが多いタイプで、やや見た目にも華やかだ。
【釵子】と呼ばれる冠と【日陰糸】【頭挿花】というものを添えている。
「それでは姫様、こちらでお着替えを」
「着付けに関してはお任せください。色々と装着しますので重くなると思いますが、姫様はほとんど動きませぬゆえ、ご辛抱いただけますと幸いです」
「姫様は輿に乗られた後は一切話してはなりませぬ。大神殿からは大神官と聖女が出てきますが、簾の中からの目配せのみをお願い致します」
「我々は神族であると同時に幽鬼です。大神官と聖女以外には目視されることもありませぬ」
「わ、わかりました……」
仕切りの中でボクは脱がされ衣を重ねられていく。
やることなすこと多くて非常に困るものの、こういうことは初めてなのですごくドキドキする。
本来は神様に仕えるものが神事を行う際に着る衣装らしいけど、お婆様の関係で正装として扱われているようだ。
お爺様たちはこういう服は着ないのかな?
しばらく後、ボクの着替えは終わり輿に乗せられる。
簾で外からの視線を遮られるので孤独な空間が生まれた。
「遥様。私はすぐ隣を歩きますので何かございましたらささやきかけてくださいませ」
千早さんが簾越しにボクに話しかけてきた。
小さな気遣いがとても嬉しい。
「ありがとうございます」
「出発せよ」
玄斉さんの号令と共に行列は動き出した。
先頭は玄斉さん含む検非違使のような服を着た男性妖狐で、その後に錫杖を突き遊環を鳴らしながら進む千早を着た妖狐女性が続く。
当然後方にも同じような隊列が続くのだが、なぜか一番後ろには麒麟が2体がいた。
光の橋を行列が進むとうっすらと霧が出始め、周囲を見えにくくしていく。
突然のことに神殿の警備兵が驚いたようで、バタバタした音が聞こえるが、次第にそれも聞こえなくなっていった。
行列が南の壁に辿り着くと、門の模様は一瞬光り壁を透過させる。
そのままボクたちの行列は大神殿内へと進んでいった。
周囲にいた警備兵は眠りに落ちたようにぼーっとしていて警備の体を成しておらず、ボクたちを止めることもない。
周囲には蹄の音と遊環の音が響く異様な空間となっていた。
そのまましばらく進むと、大神殿にある至聖所への門が開く。
行列はそのまま進み、中へ入るとお爺様を象った神像がある部屋にたどり着いた。
至聖所はボクたちの行列を受け入れてなお広い空間があり、そこにお爺様たちやお母さんの像、そしてそのほかの神様? の像が安置してあった。
やがて行列は二人の男女の前に辿り着くと、そこで停止した。
「ようこそおいでくださいました。創造神様より信託を受け、待機しておりました。わしは運命と創造の神殿の大神官の【ウルス・アル・サリアス】と申します」
「お会いできて光栄でございます。私は【ウルス・アル・サリアス】の孫娘で運命と創造の神殿の聖女でもある【ミレイ・エル・サリアス】と申します」
二人はそう告げると、膝をついて頭を下げた。
「ご苦労。私は姫様の侍従長でもある【三島玄斉】と申す。ウルス殿とは二度目か。其方の寿命の間に再び会えて嬉しく思うぞ」
「はっ。わしも再び出会えるとは思いませなんだ。若葉様と勇者様の一件以来でございます」
「うむ。此度はこの神殿の主神を【創造神アリオス】様から遥様へと引き継ぎがなされた。アリオス様は従来通りの役目に就くが、新たなる主は【御神楽遥】様に代わるものとする。祝福は我らが瑞獣でもある麒麟が行う」
「ははー。ありがとうございます」
「では姫様。引継ぎを」
玄斉さんは大神官さんたちとの一通りの会話を終えると、ボクにそう促してきたので輿から降りることとなった。
神像は現在お爺様の姿をしているがこれに触れればいいらしい。
ボクの通り道は薄布で遮られ、大神官さんたちからは見えないようになっていた。
そのまま一言もしゃべらず進み、神像に触れる。
すると、神像は淡い輝きと共にボクの妖狐の姿へと変化したのだった。
そしてそのまま促されてボクは輿へと戻る。
「引継ぎはなされた。アリオス様の意向により、表の神像に変化は起きぬ。そのことを忘れぬよう」
「ははー」
「ありがとうございます」
「では参りましょう。姫様」
玄斉さんがそう言うと、輿は再び持ち上がり行列は動き出す。
「そうだ。ウルスよ」
「はっ」
「次は我が領域へ来るがいい」
「よろしいのですか?」
「かまわぬ」
「ありがとうございます」
「では、また会おうぞ」
玄斉さんは大神官さんと話した後、ボクたちの行列に合流した。
なんだか仲が良さそうだけど、友達なのかな?
行列が大神殿の外に出た後、ボクはこっそり聞いてみることにした。
「玄斉さん、大神官さんとは仲が良かったようですけど、友人だったのですか?」
ボクがそう尋ねると、玄斉さんは驚いたような顔をした。
「姫様はよく見ておられますな。あの者とは確かに友人関係であります」
「そうなんですか? それは羨ましいです」
友達かぁ。この世界においてはボクに友達なんていないからちょっと羨ましいかも。
「姫様は焦りなさいませぬよう。時期が来れば聖女とも友人になれましょう」
「あ、あはは……」
玄斉さんは呵々と笑いながらそう言った。
友達、できるのだろうか?
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