第47話 大神殿とお婆様
王都トラム。
北側に大きな城郭を持つ円形の大きな都市を含む首都の名称だ。
東西南北に門があり、北は王城へと続く。
主要道は南大門であり、ここが一番道幅が広く活気に満ち溢れている。
西門は他よりも小さく、小型の馬車や徒歩の人間が主に使うようだ。
とはいえ、それでも普通の街の門よりは大きい。
東門は南大門よりは小さいが、北東の区画に貴族街があるので貴族と参拝者専用の門になっているらしい。
そして東門を越え大きな橋を渡ると、大きな湖の上に立つ大神殿へと行くことができる。
大神殿は東西南北に門があり、参拝者は大神殿門と呼ばれる西門のみ通ることが許されている。
南側は裏門と呼ばれ、道らしき道はなく壁に門のような模様があるだけなのだという。
当然のことながら、そこへ至る道はないのですぐ下は湖となっている。
北門は王族専用らしく、近寄ると逮捕されるか殺される可能性があるとか。
東門は神殿関係者の門であるらしく、厳重な認証装置が取り付けられているらしい。
というわけで、普通に入るとしたら西門のみになってしまうのだ。
「西門……でいいんですよね?」
問題は神体に近づけるかどうかだ。
だがその前に……。
「観光ついでに南門を見てみたいかも」
気になるのは門のような模様だ。
遺跡とかそういうのが好きなボクにとって、これを見逃す手はない。
何せここは異世界なのだ。
ほかの人だったら絶対拝むことはできない。
ボクたちの馬車は王都を通り過ぎ、ひたすら湖の外周を進み続けた。
湖は広く深いようで、中心にいくにつれて色が濃くなっていた。
大神殿はそんな湖の上に浮かんでいるような状態で存在している。
もしかしたら島のようなものがあるのかもしれないけど、湖の外周からでは何一つ知ることができない。
「ぬー。一体どうなってるんですかねぇ」
ボクは一人で考え込む。
どうしても気になるのは神殿の真下だ。
「遥様? どうなさいました?」
マルムさんがボクのほうへやってくる。
「大神殿って、島の上に建ってるのか気になりまして」
もしかしたら水面のないところに拡張したのかもしれない。
「大神殿はその昔、一本の神の杖の上に建てられたと言われています」
「ほ~ん。神の杖ですか……」
それが本当なら島などなく、何かの基礎の上にそのまま建っているということになる。
「ふぅん。なるほどなるほど」
周囲を調べていると、南門と思しき場所にたどり着いた。
遠くて見えづらいけど、確かに壁に何かの模様が描かれている。
「あれが門の模様ですか」
門の模様を確認し、それから周囲を軽く調べる。
すると小さな台座と丸い窪みがあることに気が付いた。
これは?
「マルムさん、この窪みと台座のこと、わかりますか?」
「どれですか?」
近くにいたマルムさんにそう声を掛けて一緒に見てもらう。
「う~ん……。わかりません。ですがこの丸い窪みは何かを嵌めるか載せるものと推測できます。遺跡によくあるタイプです」
遺跡によくあるタイプかぁ……。
でも、よくよく考えてみるとお爺様は王都へ行けと言っていたわけで、この大神殿についてもお爺様はよく知っているんじゃないだろうか?
『お爺様、少しいいですか?』
早速お爺様にテレパシーを飛ばして聞いてみることにした。
『おぉ、どうしたのじゃ?』
テレパシーに答えたお爺様はとても嬉しそうだ。
『サリエント王国王都トラム郊外にある大神殿南門に来ています。門のような模様とよくわからない台座と窪みを見つけたのですが、何かご存じですか?』
さすがに神様に聞くのはもずるいだろうか?
『おぉ。もうそこまで言っておったか。すまぬが、台座と窪みについてはわしはわからぬのじゃ。それを作ったのはわしの第二の妻であった葛葉なのじゃ』
『お、お婆様が?』
『そうじゃ。もしかしたら若葉あたりならわかるかもしれんが、おそらく何も聞いていないじゃろう』
『そ、そうですか……』
どうやらこの窪みはお爺様ではなくお婆様が作ったもののようだ。
『そういえば、大神殿の神像ってどこにあるのですか?』
肝心なことを聞いておかないとね!
『今いる南門すぐ奥じゃな。そこは本神殿の真裏じゃ。行きは南門からでよいぞ。渡るには光の橋を創造せよ。さすれば門は開かれるじゃろう』
『光の橋じゃ。その台座に光の玉を創造し嵌めればよい。じゃがさっきも言ったように原理はわからぬ。人間界で神界と同等の力を生み出すその装置は本当に謎なのじゃ』
お爺様の助言を聞いて橋の作り方は理解することができた。
でも、この装置はそれだけのためにあるのだろうか?
『大神殿を作ったのは人間ですか?』
誰がどうやって作ったのか、気になる。
『葛葉じゃ。そこに今の街を作ったのは人間じゃが、その大神殿の根本は葛葉が作ったのじゃ』
今ボクが見ている部分のどこからどこまでがお婆様の作ったものなのだろうか。
お婆様は何のためにこの大神殿を作ったんだろう。
『ただ神様を祀るためってわけじゃないですよね。それだったら人間だけでいいんですし』
『そうじゃのぅ。じゃが葛葉は言っておった。時が来ればわかると』
『時がくれば、ですか?』
『うむ。じゃがもしかしたら、それは今なのかもしれぬ』
『どうしてですか?』
『今回は神格の継承じゃ。そのようなことは滅多におこらぬのじゃ』
お爺様は厳かにそう言った。
この旅の間にボクは、お婆様の痕跡をまた1つ見つけたことになる。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価ありがとうございます。




