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第41話 獣人女子と悩み

 出発して森から抜けるまで、ひたすら事例を交えた授業が展開されてしまった。

 原因はボク。

 うん、いつまでも前のままの感覚じゃやっぱりだめだよね。

 

 そういえば、こんな体になる前は友達とゲームしたり遊んだりすることがメインで女の子と絡んだことはなかった。

 せいぜい最近まで近所に住む小学生の女の子に絡まれていたことくらいしか女の子との接点はない。

 あの子、元気でやってるかなぁ。

 

 

 馬車は一本道が続く平原の街道を進む。

 歩いている人や馬車に乗っている人をちらほら見かけるのだが、ここは辺境じゃないんだろうか?

 なんとなく眺めているといろんな人がいることがわかる。

 例えば武装したハンターの男女ペアや猟師が獲物を担いで歩いていたり、毛むくじゃらの狼顔の獣人男女が歩いていたりするのだ。

 商人は幌馬車や荷馬車で街道を進み、グレードがあるのか見た目も良い馬もいればロバもいた。

 ロバに関しては、荷馬車を牽かせているパターンが多いかもしれないと感じる。

 

「にしても、思ったより人が多いんだね」

 隣にいるミレに話しかける。

 ミレは身振り手振りと文字で理由を教えてくれた。


『今発展途中のアルテ村は商人たちの注目を集めている。それに伴ってハンターや学者などがこの周辺に増えている』

「へぇ~。注目度が高い村なのかぁ。遺跡みたいなのもあるのかな」

 新規開拓された村ってなんとなく夢と希望とロマンがあるとボクは思う。

 成りあがりたい人も入植してくるんだろうなぁ。

 

 これからのアルテ村はどんな街になっていくんだろうか。

 少なくとも開拓村にしては成功した部類なんじゃないだろうか。

 街の成り立ちや発展には興味があるけど、ボクたちの世界の街は発展しすぎてるので写真でしかその成り立ちを辿ることはできない。

 もしかしたら街への進化を見守ることができるかもしれないね。

 

 まぁボクはのんびりゆったり暮らしたいのでスローライフ派だけど。


 のんびり馬車に乗って移動していると、何やらちらちらと見られている。

 気になったので覗いてみると、人狼の女子二人組がこちらを見ているのが見えた。

 犬のような顔にふさふさな毛皮をしている。

 装備はレザー系の防具と短剣、弓矢などなど。

 至って普通のハンターのようにも見える。


「あのー、どうかしましたか?」

 なんとなく声を掛けてみると、二人の獣人女子は体をびくりと震わせる。

 何か後ろ暗いことでもあるのだろうか?


「あ、いえ。なんだか気になる気配を感じたもので……」

「気になる気配、ですか?」

 一人の獣人女子がそう口にした。

 なんのこと?


「実は私たち、一度女神様に出会ったことがあるんです。誰も信じてはくれませんけど……」

 もう一人の獣人女子がそのように話す。

 女神ってどの女神さま?


「人狼さんって、どの神様を信仰してるんですか?」

 これはちょっと気になる。

 今のところボクは自分の親族にしか出会っていないのだ。

 ミリアムさんを除いて。


「大多数は【戦と正義と太陽の神イーサ】様と【神狼フェンリル】様です。戦と自分たちのルーツに関係ある神様を信仰しています」

「ですが私たちがであったのは、イーサ様の妹様だそうでして、狐のような耳がぴょこんと出ている方でした」

(あ、お母さんだった)

「へ、へぇ~。で、どうしたんですか?」

「はい。私たちは人狼ですが、その……【マルム】、これ言っちゃっていいの?」

「【セリア】、言ったってわからないから大丈夫でしょ。存在しないもの」

「???」

 彼女たちはそれぞれ【マルム】さんと【セリア】さんというらしい。

 二人で話しているけど、何のことだろう。


「その女神様を見たとき、こんな顔じゃなくて人間みたいな顔になりたいって思ったんです」

「具体的には人間に耳を付けた感じですね。まぁその女神様がそんなお姿だったので、これは!? なんて思ったんですけど……」

「『旅先で自分の娘に出会えれば叶うかもしれませんよ』とおっしゃられたので、こうして旅に出てみたわけです」

「は、はぁ。またどうして?」

「だって、人間が着ているような服を着たいじゃないですか!」

「うちらの姿にあの服は似合いませんから……」

「あー……」

 どうやらこの二人は自分たちの民族衣装に嫌気がさしてしまったんだと思う。


「そんなに人間と差があるんですか?」

 ボクの問いかけに、二人は顔を見合わせてから「100年も動きがない!!」と教えてくれた。

 さすがに100年変わらないのは辛いかも……。


「で、話は戻りますけど、ボクたちを見ていた理由ってその女神様と関係あるんですか?」

「あるある」

「大ありです!」

「「気配が似ていたから!!」」

 二人が口を揃えていうものだから、ボクはついつい千早さんに聞いてしまった。


「え? 似てます?」

「そっくりです」

 どうやらボクはお母さんにそっくりだったらしい。知らなかった。


「な、なるほど。そういえばお二人はどちらまで行かれるんですか?」

 そういえば行き先を聞いていない。


「とりあえず王都まで行こうかと。そういえばこの馬車って護衛いませんよね? 大丈夫なんですか?」

「護衛……?」

 護衛、いるの? そう思って振り向くと千早さんは「護衛の、件忘れてましたね」とてへぺろしそうな顔で悪びれもせず言っていた。


「ミレ~に聞いても意味はないか」

 ボクがそう言うと、ミレはコクンと頷く。

 ミレは単体でもどうにかできそうだから論外だ。


「ミリアムさんは……」

「護衛という概念がありませんが、この馬車に必要なのかが問題だと思います」

 ごもっともです。


「う~ん……。護衛が必要ってこと、頭からすっぽ抜けてました」

 正直に話すことにした。


「そ、そうですか。もしよければなんですけど」

「王都まで一緒させてくれませんか? 護衛料金は要りませんから」

「なんでしたら食べ物分けてくれるだけでもいいです!」

「そう、ですね。う~ん、良いと思いますよ? みんな大丈夫?」

 馬車の中に声を掛けると、みんなコクンと頷いたので了承することにした。


「そうだ。お二人は口は堅いほうですか?」

 今後のこともあるので確認しておく必要がある。


「はい、拷問されてもしゃべりません」

「口の堅さだけは鉄以上です」

「ふむ。わかりました。もし余計なことを話してしまったら、夢は一生叶わなくなると思ってくださいね」

 ボクはにっこり微笑んで彼女たちにそう告げる。


「え、あ、あの?」

「一体どんな秘密が……」

 二人は戦々恐々としていたが、護衛の話を破棄しようとはしなかった。

 いい度胸してると思います。

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