第38話 金棒を強化しよう
千早さんに見せてもらった巫女見習の力は想像以上の物だった。
力を導いたり降ろしたりすることを専門とするだけあって、ボクの得た力も千早さんは簡単に使いこなしてしまったのだ。
となると、ボクにできることはある程度できるのだろうか？
「千早さんはボクの力だとどんなものが使えるんですか？」
まだ試してないけど、世界を作ることがらしい。
「遥様のスキルですと【空間収納】と一部の【アイテムクリエイト】が可能です。ですが、遥様ほどの効果は出せません。あくまでも一部の力をお借りする程度の物なので」
やや申し訳なさそうに千早さんがそう言った。
なるほど。ということは、ボクが成長すればするほど千早さんが強化されるわけか。
「ボクの眷属になったことで、ボクに影響を受けることになるってことでいいんでしょうか？」
「はい。遥様が成長されれば私も扱える力の幅が広がることになります」
どうやらボクの考えは間違っていなかったようだ。
「じゃあもっと色々試してみましょう」
「はい！」
というわけでなんとなく【アイテムクリエイト】でアイテムを作ってみることにした。
まずは一袋分のハーブを【アイテムクリエイト】でブーケガルニを作成する。
いくつかのパターンがあるようだけど、それぞれ効果が少し異なるブーケガルニが出来上がった。
フレッシュハーブと乾燥ハーブでは混じることなくそれぞれのブーケガルニが出来上がる。
「ちゃんと分別して作ってくれるんですね。すごい」
ちょっと感動。
「素材の品質次第で出来上がりの品質を操作できるなんて、このスキルはすごいですね」
千早さんも気に入ってくれたようだった。
「分けてもらった妖精銀を八角金棒と組み合わせてみようかな。」
素材と武器を【空間収納】に入れて【アイテムクリエイト】をする。
イメージの中には色々なパーツのついた八角金棒が表示されているので、その中から選ぶことができるようだ。
ボクはその中から鋭い棘と刃のついたオプションを選んだ。
硬いものに対しては装飾部分が破損する可能性はあるけど、生物に対しては有効なようでゴブリンや盗賊と戦う分には十分だと思う。
一応【空間収納】内に入れておくことで取り外しはできるらしいけど、破損したりしたらその分還元される素材は減るようだ。
「遥様、この武器はどんなイメージで作りました？」
「有刺鉄線付き金棒です」
重さで食い込んで引けば引き裂く感じのアレです。
「有刺鉄線ですか。建物の塀の上とかに付いているのは見ました」
「妖都にもあるんですか？」
古い建物と新しい建物が入り混じった妖都だから、有刺鉄線みたいなものはないと思ってた。
「はい。一部では使われていますね。なるほど、あれを対生物に応用するわけですか」
千早さんは顎に手を当てて頷いている。
何か思うところでもあったのかな？
「私も今度同じようなものを作ってみようかと思います。錘で改造している人とかはいるんですけど、有刺鉄線ですか。いいかもしれませんね」
どうやら千早さんの心に有刺鉄線が突き刺さったようだ。
生物の体に突き刺さるだけでなく人の心にも突き刺さるなんて、有刺鉄線先輩さすがです。
「でもこれで毛皮を持つ生物を叩くのはやめたほうがいいですね」
倒せるかもしれないけど、もれなく穴の開いた毛皮がはぎ取れることでしょう。
「遥様はこの方法をどこでお知りになったのですか？」
興味深そうに千早さんが聞いてきたので凶悪なボクの愛用武器を見せることにした。
「……。えぐいですね？」
「ゴブリンに試しましたけど、しっかり刺さる上に追い打ちもばっちりです。掠るだけでもダメージを与えられますよ」
ボク一押しです。
「これ、試してもいいですか？」
「どうぞどうぞ」
早速千早さんに釘バットを貸与したら嬉しそうに森の中へ入っていった。
「はい、ミレの負け。ぽっぺぷにぷにさせてね」
負けたミレが頬を膨らませながらボクにもちもちほっぺを差し出す。
空気の入ったほっぺを突っついて中の空気を押し出すと、そのままこね始める。
「もーちもちほっぺもちほっぺ。柔らかい上にすべすべ。やるねぇ、ミレ」
このほっぺの触り心地は素晴らしいと思う。
また勝ったら堪能させてもらうとしよう。
ミレのほっぺを堪能し終えると、今度はミカが棒を持って挑んできた。
よかろう。ボクが相手になろう。
こうして仁義なき、〇×ゲームが始まったのだった。
それから一時間くらい経った後、森の中からご機嫌な千早さんが現れた。
千早さんはいわゆる巫女服と言われる服を着ているのだが、その服の白い部分、白衣に返り血が付いていた。
それも結構飛び散っている様子。
きっと凄惨な戦いがそこで行われていたのだろう。
「おひゃへりにゃひゃい」
「えっと、遥様？ どうなさったんですか？」
お帰りなさいと言ったもののちゃんと発音できなかったので変な言葉になってしまった。
それもそのはず、今ボクはミカとミナにほっぺをぷにぷに揉まれていたからだ。
「ちょっとゲームをやってまして、見事に負けてしまったのです」
敗者の末路はいつも残酷だ。
「は、はぁ……」
よくわからないといった感じの表情をしている千早さんを放置し、ボクのほっぺはミカとミナによって弄ばれ続けるのだった。
