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第30話 転移水晶とお風呂

「遥ちゃん? 先にこの水晶を渡しておくわね」

 食事が終わった後みんなでお風呂に行くことになったのだけど、その時にお母さんから三角錐の形をした青みが買った水晶を渡された。

 詳しくはわからないけど、何となく力あるものだと感じることができる。


「これは?」

 ボクがそう聞くと「どんな力なのか調べてみて」とお母さんに言われたので、水晶を握りしめて目を軽く閉じる。

 手の中がほんのり暖かく、何かが詰まっていることだけはわかるけど、これが何なのかわからない。

 色々と試行錯誤して、手の中の感覚と暖かさを追うように意識してみることにした。

 すると、真っ暗な中にぼんやりとだが先ほどの寝殿のイメージが見えたのだ。

 なるほど、これは寝殿への転移水晶なのか。


「わかったらイメージして使ってみなさい。ここからならすぐ近くだから」

「はい」

 言われるがままに意識を集中する。

 再び目の前に寝殿が見えたので、(移動)と心の中で呟く。

 その瞬間ボクの体と意識はいつの間にか寝殿へと移動していた。


「これが転移? うっ、慣れない感覚のせいかちょっと気持ち悪いかも……」

 初転移成功は喜ぶべきなのだろうけど、瞼の裏に映っていた光景に移動する感覚は何というか、実に奇妙だった。

 感覚としては意識が景色に吸い込まれるようなそんな感じ。

 一気に引っ張られたかと思うと、いつの間にか到着しているのだ。

 たぶんこれは、みんなで移動するために空間に穴をあけて移動しても同じ感覚を味わうことだろう。

 要するに引っ張られるのだ。

 しかも最短距離で。


「ただいま、です。ガルドさんの時とはちょっと違う感覚でした。あっちは穴があって通路がある感じでした。そういえばガルドさんは?」

 戻ってきたボクはさっそくお母さんに報告した。

 そういえばガルドさんはどうしたんだろうか。


「すでに戻ってもらっているわ。お帰りなさい。今の使い方は一人だけで移動する場合に有効よ。みんなで移動したり空間に穴をあけて移動するには見えた景色を固定させたり共有させる必要があるから注意してね。まぁ手っ取り早いのは手を繋ぐことかしら」

「難しそうです」

 イメージの共有とか普通に生きてたら絶対使わないと思う。

 あ、でも。テレパシーってのはあったか……。


「さぁ、お風呂に行きましょう。遥ちゃんたちは明日一度あちらに戻って移動の準備しなさいね。あとでおすすめの武具を用意させておくわ」

「あ、ありがとうございます。革の胸当てとか付けてはいるんですけど、あれ、通気性悪いですよね」

「そうねぇ。胸元は特に汗をかきやすいから余計に大変よ。まぁ今いる場所は比較的穏やかな気温だからそこまで暑くはならないと思うけど、暑いときは脱いだり外したりする必要もあるから注意しなさい」

「は~い」

 お母さんの言葉に軽く返事をすると、ボクはお風呂へと向かった。



「これは……、温泉旅館!!」

 ボクたちがたどり着いたお風呂は源泉かけ流しもある良いところの温泉旅館といった感じのお風呂だった。

 いくつものお風呂に各種お湯、薬草風呂に尻尾湯などなど、様々なものがある。


「遥ちゃんにフェアリーノームちゃんたち。妖狐の姿になれるなら、たまには尻尾を薬湯に浸けておきなさいね」

 お母様がそう言うので「どうして?」と返す。

「シャンプーやリンス、香油などを浸けてきれいにするとは思うのだけど、時々変な虫や卵が付着することがあるの。それを殺すために薬湯が必要なの。温泉の中に穴が開いてる場所があるでしょう? そこに座りながら尻尾を数分間浸けておくだけよ」

「ふむむ……。なるほど?」

「よくわかってないみたいだから、いらっしゃい」

 ボクたちはお母さんに連れられて尻尾湯とやらに行くことになった。


『尻尾湯』と簡単に書かれた立札が見える。

 そこにはたくさんの妖狐の女性が座っており、雑談しながら尻尾を浸していた。


「千早ちゃん。お邪魔するわね」

「お、おじゃま、します……」

(ぺこり)

「若葉様! いらっしゃいませ!! そちらのお連れの方は……。妖狐化したフェアリーノーム? そして精霊から神格を得た子ですか。奇妙な子達ですね。それと、あなたは……」

 千早と呼ばれた妖狐族の少女はボクのことをじっと見つめている。


 この少女、見た目的には十代前半といったところか。

 幼い見た目をしていると思う。

 髪は肩口ほどまで伸びた桜色のセミロングで目の色は薄めのオレンジといった感じの色をしている。

 身長はそれほど高くはないけど、150台は確実だろう。


「この子は私の娘よ。いずれは眷属を作る予定だから、気が向いたら立候補でもしてあげてね」

 お母さんが軽くそう説明する。

 そんなお母さんに、千早さんは目を丸くして驚いていた。


「そうなのですか? 初めまして。妖狐族巫女見習の【綾辻千早あやつじちはや】と申します。まだ未熟者なので眷属にはなっていません。よろしくお願いしますね!」

 丁寧に挨拶されたので、ボクもぺこりと頭を下げる。


「ボ、ボクは、御神楽、遥、です……」

 初めての人相手だとやっぱり緊張する。


「そんなに緊張しないでくださいませ。若葉様のご息女ということは、妖狐族の長のようなものです。もっと堂々としてくださいませ」

 コミュ力つよつよな千早さんはボクにも遠慮なしにグイグイくる。

 う、うぅ……。


「だ、大丈夫ですか?」

 千早さんが心配そうにのぞき込んでくる。

 

「主はコミュ障というものらしいので問題はありません。嫌なときは嫌と拒絶できますので」

「は~。なるほど。わかります。私も昔はそうでしたから」

「そ、そうなんですか?」

「はい。巫女見習になってからどうにかこうにか慣れた次第でして……」

 驚きの事実だった。

 コミュ力つよつよな千早さんが昔はそうでもなかったなんで。


「ささ、とにもかくにもお湯を堪能してくださいませ! 尻尾湯は5分くらい浸けるといいですよ。毛や汚れなどは一回ごとに排水するので湯自体は清潔ですから」

 不特定多数が使用するものの、思ったよりも清潔だったらしい。


 それからしばらくは千早さんも含めたみんなで一緒にお風呂に入ったり遊んだりした。

 お母さんはいつの間にかお酒を飲んでいたけど、いつの間に持ってきたんだろう。

 フェアリーノームたちは迷惑にならない程度に湯船ではしゃぎ、ミリアムさんはお酒をもらって何杯か飲んでいた。

 みんなそれぞれ楽しそうで何よりだ。


「遥様は小さいのにしっかりしてらっしゃるんですね」

 ふと、隣にいた千早さんにそんな言葉をかけられた。

 しっかり……してるのかな?


「ま、まだまだです。着替えとか、手伝ってもらってますし、何よりも、装備が、よくわからない……です」

 実のところ、プロテクターにしてもずっとミレたちに装着してもらっているので、自分ではよくわかっていない。

 最近は近場での狩り程度ならミレはおしゃれ着も一緒に用意するけど、防御力は皆無っぽいのでいつまでもそれではだめだと思う。

 新しい素材とそれに見合った服、あとそれなりの見た目の防具とか、そういうことも何も知らない。

 今のボクは知らないことだらけなのだ。


「ふむふむ。では、私もついていきましょうかね。実は武具精錬とかもできるんですよ。遥様にはいろいろなお力があるようですが、知らないこと山盛りでしょう? だから教えることも兼ねて一緒に行こうかと思いまして」

 急にそんな提案をしてくる千早さんを、ボクは思わず見返す。


「ボ、ボクの一存ではなんとも……」

「あら? お母さんは良いと思うわよ? 何かを生み出すなら教えてもらって学んでみなさい。お父様の力を使うためにもね?」

 意外なことにお母さんが援護射撃をしてきた。


「あ、うん。そ、そうですね。では、いつまでかは、わかりませんが、よ、よろしく、おねがいします」

「はい! よろしくお願いしますね!!」

 こうしてボクに家庭教師が付いたのだった。

 

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