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第27話 母との再会

もう少しすると色々とできることが増える予定です!

 伝令の人が急いでいったので、ボクらはほかの衛兵さんと一緒に待機することになった。

 

 なぜかボクたちの前にはお茶とお菓子が用意される。

 あ、これ羊羹だ。おいしい。

 ふと街のほうへと目を向けるが、街は高い城壁に囲まれているせいで中を見ることはできない。

 残念すぎる。

 見たいな~。

 お願いしたら見せてくれないかな~。


「遥様は街をご覧になられたいのでしょうか」

 やけに丁寧に話しかけてくる若い衛兵さん。

 鎧のせいで無駄にかっこいい気がする。

 当世具足ってなんとなく男の子の心をくすぐってくるよね!


「見たいですけど、資格がまだないので」

 残念だけど資格がもらえるまでは我慢しておこう。

 ボクは我慢できる子なので。


「いえ、資格がないわけではないのです。ただ今しばらくお待ちいただきたいだけですので」

「?」

 念を押すかのように若い衛兵さんがそう言った。

 う~ん、よくわからない。

 多分手続き上の問題なんだろう。

 ボクはそう思うことにした。



 衛兵さんたちと話したり、ミレたちと遊んだりしているうちに時間ほど経ったらしく、外は夕暮れ時になっていた。

 夜の街はきれいなんだろうなぁ。

 そんなことを考えていると、何やらドタバタガラガラという音がして外がにぎやかになる。

 

「遥様がいらっしゃるのはこちらか」

「は、はい」

「あい分かった。急いでご帰還の準備を整えよ。私は拝謁を賜る。お召替えに関しては省略せよとのお申し付けだ」

「畏まりました。急ぎ準備いたします」

「失礼致します。御神楽遥様に武蔵国元首【大久保実近おおくぼさねちか】が拝謁を賜りたいと申し出ています。如何されますか」

 若い衛兵さんが取り次ぎ、ボクにそのように話す。

 なんだかやたらと仰々しいけどどうしたんだろう?


「え? あ、はい。構いません」

 ボクがそう言うと、若い衛兵さんが何かを話す。

 少しして、白い公家のような服を着た人物が頭を下げたまま入ってきた。

 そしてそのまま顔を上げずにこう話した。


「拝謁を賜りましたこと、光栄に思います。私は【武蔵国】国家元首である【大久保実近】と申します。この度は遠き地よりご帰還なされましたことをお慶び申し上げます。つきまして、牛車を用意致しましたゆえ、そちらにお乗り換え頂きたく存じます」

 入ってきた大久保さんは顔を上げずにそう述べる。

 そんなに丁寧に言わなくてもいいのに。

 でも、この人、妖狐なんだ。

 大久保さんの姿を見て、ボクは理解した。

 

「顔を上げてください。ボクは初めて来た異邦人です。そこまで丁寧でなくても大丈夫だと思います」

「いえ。ここで詳しく申し上げることはできませんが、決して異邦の者ではございません。国母で在らせられる若葉様がお待ちでございます」

「お、お母さんが? わ、わかりました」

「どうぞ、こちらへ」

 いきなりお母さんの名前を出されたのでびっくりした。

 大久保さんはボクの手を優しく引くと、漆塗りの牛車の前へと導く。


 うわ、すごい。牛の牽く車なんて初めて見た!!

 

「遥様。よろしければ本来のお姿にお戻りいただけますか」

「あ、はい」

 大久保さんに頼まれたので、ボクは妖狐の姿になる。

 

「若葉様と同じお姿。まさに。では、御見足を失礼致します」

 大久保さんに支えられ、ボクは牛車に乗る。


「あ、ミレたちもいいですか?」

 ボクがそう言うと、大久保さんは頷いた。


「中は広くはございません。三名までであれば……」

「じゃあ、ミレとミリアムさんで」

「畏まりました」

 そうしてミレとミリアムさんも乗り込んだ。


「出発せよ!!」

 大久保さんはそう言うと、馬に乗る。

 本来は国家元首である大久保さんが乗るべきだったんじゃないかな?

 なんかごめんなさい。


「このような乗り物は初めです。主はご経験が?」

「いえ、ないです」

 くっついてくるミレを抱きつつ、ミリアムさんにそう答える。


「にしても揺れないですね。揺れるって聞いたんですけど」

「他の世界よりサスペンションの技術を譲り受けまして、それにより揺れを軽減しております」

「へぇ~。異世界物の定番ですね」

 ボクの疑問に大久保さんが快く答えてくれた。


 牛車はゆっくりと人の歩くくらいの速度で進む。

 御簾越しで前は見えないが、先導する人たちが歩くたびにシャンという音が鳴る。

 そういえば輪を付けた錫杖を持ってたっけ。

 たしか、遊環だったかな?


 音が鳴り響くと今まであった喧騒が嘘のように静まり返った。

 ちらりと覗くと、人々は道をあけ、頭を垂れてじっとしているのが見えた。

 なんだか変な気分だ。

 普段のボクにはありえない光景。

 ただただその光景にボクは恐縮してしまう。


 やがて、長い移動が終わる。

 それと同時に誰かが言った。

「開門!!」


 ギギギという音を鳴らし、扉が開かれていく。

 その中にはさらなる道と大きな天守閣があった。

 その姿は日本に昔からある城郭のような姿だった。


「大きい……。あれ?」

 巨大な城郭を眺めていると、大きな道の脇にたくさんの人が並んで控えている姿が目に入った。

 銃を持った人や大砲の後ろに控えている人もいるし、旗を持った人もいた。

 うん、なかなか物々しい感じだ。


 しばらく進むと、天守閣へと向かう道を逸れて朱塗りの鳥居の前に到着する。

 朱塗りの鳥居は何本も何本も建っており、まるで千本鳥居のようだ。


「遥様。お迎えが参りますので、今しばらくお待ちください」

「わ、わかりました」

 大久保さんの言葉を聞いて少し待つと牛車の後ろの扉が開かれ、顔全体を面布で覆った人物が複数人現れた。


「うっ、ちょっと怖いかも……」

 牛車を降りると 両脇に同じような姿をした人がたくさんいるのが見える。

 面布のせいで顔はわからない。

 けど、男女の差だけはわかった。

 体形もそうだけど、男性と思われる人は水干を着用し、女性と思われる人は白衣と緋袴を着用していたからだ。


 ボクたちが降りると、両サイドを囲うように水干を着た人と白衣と緋袴を着た人がきれいに分かれて立つ。

 ボクたちの前に立って先導するのは狩衣を着た人物だった。

 なんだか平安っぽいなぁ……。


 それからしばらく歩き、城内にある鳥居の建つ森を抜けると大きな社殿が見えてきた。

 どうやらここが目的地のようだ。


 敷地内には狩衣を着た人物が弓や刀を持って立っていた。

 おそらく警備の人なのだろう。

 ボクたちを案内してくれた狩衣の人の後ろについて歩き、通路を進んでいく。


 いくつもの部屋、建物、曲がりくねった通路を歩くと教科書で見たことのある建物にたどり着いた。

 なんだっけ? 寝殿造りだっけ?


 建物の前にたどり着くと、扉の脇に控えていた白衣と緋袴を着た女性二名が狩衣の人の代わりにボクたちを案内するらしく交代した。


 そして……。


「おかえりなさい。会いたかったわ、遥ちゃん」

「お、お母さん!?」

 寝殿の最奥で、今のボクによく似た姿をした、記憶にない姿の母と再会した。

 でも、不思議と本人とわかる。

 

 どうやらあれが本来の姿のようだ。

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