第189話 商会設立その1
アルテへとやってきたボクたちは猟師ギルドへと向かっていたのだが、なぜか今、別の場所にいた。
理由は単純で、猟師ギルドへと急かしていた割にミレが急に思い出したようにボクを別の場所に引っ張っていったのだ。
結果辿り着いたのが、今いる別の場所というわけ。
「これは、家……ですかね?」
目の前にあるのは謎の文字が書かれた看板の付いた建物だった。
フェアリーノームの街でよく見かける文字だ。
大きさ的には小さな店舗兼住宅くらいのものだろうか?
何気に二階建てである。
「察するに、ここはミレたちのアジトでしょうか?」
ボクがそんなことを口に出すとミレは首を横に振る。
そして何やら紙に文字を書いてボクに見せて来たのだ。
『フェアリーノームの出張所兼商会です。設立しました』
「!?」
いつのまにかミレたちはアルテに出張所を設立していたようだ。
でも商会機能があるって言ってるけど、何を取り扱うのだろう?
そんなことを考えていると、一人の女性が近づいてくるのが見える。
商業ギルドの制服を着ているところを見るに、この商会の関連だろうか?
「ようこそいらっしゃいました、遥様。私は『ミレーヌ』と申します。今回、この商会の担当を任され、本日着任いたしました。よろしくお願い致します」
「あ、ども……」
現れた女性は人間。
どうやってコミュニケーションを取っているのだろうか? ちょっと気になる。
「私はこの商会専属ですので、基本的な申請や事務作業等はお任せください」
「なる、ほど? ちなみにこの商会の代表は誰なんですか?」
「遥様です」
「???」
商会の代表の名前を確認したらボクの名前が出てきた。
なんで!?
「この商会の設立を提案したのは何を隠そう私なんです。理由は単純でして、フェアリーノーム様達の品物には良いものが多いのでしっかり売っていきたいと思ったからです」
「ふむ……」
ミレーヌさんの言うことももっともである。
実際、フェアリーノームたちが扱う品物は良いものが多く露店を開けばあっという間に売れてしまうのだ。
猟師ギルドでも剥ぎ取りや解体の評判がいいのはたしかだしね?
あと気になるのは、ミレーヌさんの思惑と商業ギルドの思惑だけど、この辺りは徐々に確認していくことにしよう。
「現在この街は拡大している最中です。売上次第では店舗や商会は大きくできますし、ある程度の資金で十分な土地を買うことも可能です」
「土地かぁ……」
土地と言われてボクはこの街の周囲の状況を思い出す。
このアルテは元々辺境にあった村というだけあって広い土地がただ転がっているだけだった。
そこにダンジョンやらなにやらという要素が加わって人の集まる街ができた。
なるほど、確かにチャンスなのだろう。
でもそれならこの街の土地ってもっとお金を持っている人たちが買っているのではないだろうか?
「土地の売買って簡単にできるんですか?」
なので疑問に思ったことを素直に質問した。
「いえ、できません」
回答はこの通りでした。
簡単に買うことはできないけど土地を買うチャンスがある。
これ如何に?
「実はこの街といいますか、この地方自体に領主はいないのです。元々大神殿の管轄地域でしたので」
「大神殿が……。なるほど、だからですか」
ミレーヌさんの話を聞いて思い当たることが一つあった。
それはヒンメスさんの存在だ。
ヒンメスさんは大神殿第二級司祭という高い地位にいる司祭にもかかわらずこのアルテに赴任している。
ちなみに第一級司祭の次は大神官になるそうで、実質ナンバー3ともいえる立場になるようだ。
「私たちはそれとなく知ってはいますが、街の方や猟師ギルド所属のハンターたちは疑問に思うでしょうね」
「たしかに」
ボク自身はヒンメスさんたちについて詳しくはないけれど、なんとなく言っていることは理解できている。
この街のハンターだけでなくほかの街のハンターたちでさえ誰がこの地方を治めているのか詳しく知っている人は少ないだろう。
そもそも関わることの方が少ないわけだしね。
「ともあれ、土地のことについてはわかりました。それで商会のことについてなんですが……」
大神殿との関りがどうであれ、今のボクには土地を買うだけの実績はないので気にする必要はない。
お願いすれば買えるのはわかるけど、実力でお金を稼いでそれで土地を買えるようにしたい。
いくら世界を作れるからって好き放題したら面白くないしね!
その土地のルールがあるならそのルールに則ってこそだよね。
というわけで、さっそく運営していく商会について確認したいことができた。
「はい、何でもお聞きください」
ミレーヌさんはそう言うと、ボクを見てにっこり微笑む。
美人さんが微笑むとちょっとドキッとするよね?
「え、え~っと、商会を運営していくにあたって、何か義務ってありますか?」
というわけでまずは義務の確認。
納税や組合費等の確認が必要だと思ったからだ。
「はい。商業ギルドでは商会を設立した際、組合費を納める義務を課しています。具体的には小さな商会については年間売り上げの5%です」
「な、なかなかお高いですね……」
百万円売り上げたら大体5万円くらい持っていかれるのかぁ……。
仕入れにコストをかけてたらしばらく厳しい状態が続きそうだなぁ。
まぁうちはたぶんそうはならないんだろうけど……。
「王都の商会などは小さくても10%以上かかる場合もありますのでまだいいほうかもしれません。ですので経費については十分にご注意ください。その代わりその組合費に見合った支援はさせていただいておりますので」
「むむむ。そうですか……。とりあえず仕方ない感じですね……」
ミレーヌさんはにっこり笑顔だけどボクの心の中はブルーですよ!?
消費税のようなものだと思って頑張って許容しよう。
「私が遥様の商会の専属ギルド員となりますので色々サポートさせていただきますね。今後ともよろしくお願い致します」
「は、はい。よろしく、お願いします……」
こうしていつの間にかできていた商会に商業ギルドのメンバーが加わった。
果たしてこの商会はどうなるのだろうか。




