第186話 山田さんと建築作業と今後の予定
山田さんの欲しがっていた石臼とおまけの鉄製の道具を渡してから1日が過ぎ、翌日になった。
今日は再度山田さんの状況確認と今後の予定の確認をするつもりだ。
本人には確認していないが、山田さんはサバイバルやキャンプ、農業に関するスキルを与えられているようだった。
手早く小屋を作る様子を見る限り、個人で生活する分には今のままでも十分やっていけるだろう。
というわけで山田さん観察二日目。
今日の山田さんは倉庫の建築を開始していた。
昨日、追加で鉄製の道具を提供したこともあってか、山田さんは屋根用の板材を用意していた。
よく見ると、周囲には長さと太さを揃えた細い枝が大量にある。
どうやらいわゆるワトル壁というのを作るのだろう。
たしか山田さんの居住している小屋も同じだったはず。
「さて、今日も建築していこうと思うよ。冬があるかはわからないけど冬に備えなければいけないし、集めた資材を保管する場所を作らないといけないからね」
「なるほど、たしかに」
この辺りは比較的温暖なので過ごしやすいけど、確かに冬には備えなければいけない。
ちなみにボクの場合はほぼチートみたいなご都合主義の結果により、そのあたりの対策は完璧だ。
まぁミレたちが全部やってくれたわけで、ボクは何一つ達成していないんだけども。
もっとミレたちを労っておかないとなぁ……。
「というわけで、遥さんにはついでと言っては何ですが日干し煉瓦を作っておいてもらいます。作り方は知ってるかな?」
山田さんはどうやら日干し煉瓦の建築物も作る予定らしい。
ちなみにボクは日干し煉瓦の作り方を知っているので、頷くことで返事をした。
「型枠は用意してあるからそれに嵌めて作っておいてね。一番日当たりのいい場所も用意してあるから、干すのはそこになる感じかな」
「了解しました」
というわけでさっそく作業を開始。
用意された材料は土と砂、そして藁だ。
これらに水を加えつつねりねりしていく。
混ぜ合わせたら指定された大きさに切り分けるか、サイズを合わせた木枠に詰めて成型。
型枠を外してお日様でじっくり乾かしていく。
この工程を必要数分だけ繰り返していくのだ。
もちろんボクは泥だらけになるし、なんなら腰だって痛くなる。
思ったよりも辛い作業かもしれない。
「土と砂と藁を混ぜて水を加えてねりねり。型枠に嵌めて詰めたら型枠を外す。繰り返し、エンドレス……」
ぶつぶつと呟きながら己に与えられた仕事を着実にこなしていく。
これ一つ一つが家の壁になると思うとなんだか不思議な気持ちになる。
ちなみに竈は日干し煉瓦では問題があるので石で組んで作っているらしい。
ただつなぎ目を埋めるのに今混ぜているような感じの泥を塗りこんでいるようだ。
「一つ一つは楽しいのに終わりが見えない作業は辛く感じてしまいます……」
「たしかにそうだね。俺も家作りは楽しかったけど倉庫作りは少しだけ辛く感じるかな。強度は期待できないけどある程度しっかり作らないと中にいれたものが崩れた拍子にだめになっちゃうかもしれないからね」
「ものすごく緊張を強いられる作業なんですね」
「そうだね。日本にいたときは狩猟免許も持っていたから猟銃で鹿を狩ったり猪を狩ったりすることもあったよ。干し肉を作ったり燻製を作る小屋なんかも自前で建てたっけなぁ」
「それはすごいですね」
山田さんはボクが考える以上に色々な経験をしているようだった。
自作の燻製小屋とか、ボクは考えもしなかった。
それに猟銃を撃ったことがあるというのもすごい。
そういえばこの旧世界は一部で火縄銃の初期型のようなものを使っているらしい。
一応銃を作成する技術力は有しているようだ。
機会があれば入手してみたいけど、暴発は怖いから慎重にいきたいところだ。
「猟銃と言えば、この世界にも銃はあるのかな?」
不意に山田さんがそんなことを尋ねて来た。
なのでボクはあると聞きましたとだけ伝えておく。
「そうかぁ。ならいずれは手に入れてみたいね。でも多分めちゃくちゃ高いよね」
「ほぼ確実に高いと思います。なので猟をしたりして皮を入手して、なめしたりして売りに行くといいかもしれません。皮、需要あるようですし」
「本当!?」
「はい。ボクも前に売りに行きました。皮類や布類は必需品なんでそれなりの値段でよく売れるんです」
「なるほどね」
作業の合間に、ボクが前に経験したことを伝える。
あのときはミレたちの協力もあっていい感じの皮を大量に入手できた。
結果、とても儲かったのを覚えている。
今は新世界にかかりきりでこの世界の冒険はまだあまりできていないけど、今後少しずつ探索範囲を広げていきたいと思ってる。
特に王都や大神殿以外の場所も見てみたい。
ボクにとってのこの世界はまだまだ知らないことだらけだから。
神様になってからは色々な世界の秘密を知ったけど、それは知識としての話だけで、ボク自身で体験したことではない。
なので、まだ何にもやっていないし出来ていないのだ。
「山田さんは今後どうしたいんですか?」
ボクはまだこの世界でもやりたいことはたくさんある。
山田さんはどうなんだろうか?
「とりあえず神様に言われたようにまずは村づくりかな。それからあわよくばお嫁さん貰って家族作って、村の住人を増やしたりして外との繋がりを増やしていきたいかな。戦闘はしなくてもいいから何かいい感じの商売をするのもありかな」
「そうですね。お嫁さんに関してはきっといい人が見つかりますよ。ここからだと若干遠いですけど、アルテという場所があるのでそこに行ってみるのもいいかもしれませんし」
「アルテかぁ。落ち着いたら探索してみようかな」
どうやら山田さんはあまり大きく冒険をしたりはしないようだ。
おそらくほとんどこの辺りの開拓と貿易をメインにするのだろう。
行商も最初期だけかもしれない。
お嫁さんに関しては分からないけど、良い縁がたくさんできるようにちょっと祝福をしておこうと思う。
お嫁さんがたくさんできますように。
「よし、とりあえずなんとなく形になったから休憩しようか。まだまだ床張りとかも残ってるしね」
「そうですね。ボク、お茶入れてきます」
「あ、ありがとう」
山田さんに関しては大きな問題はなさそうだ。
とりあえずまた様子を見に来る時間を作ろうと思う。
でもその前にアルテに行ったり多少の冒険もしにいこうかな。
もちろん、ボクの仲間を連れてね。
ついでに山田さんのお嫁さん候補もこっそり探しに行ってみようかな。
5人くらい見つけられれば良いんだけどなぁ。




