第184話 やってきた転移者1
はい、ボクです。
御神楽遥です。
どうやら知らないうちにお母さんたちが日本から開拓担当者をリクルートしてきたようです。
実はボクも今知りました。
とりあえず今わかっていることは次のことです。
1つ、旧世界側の森にはキャンプや農業が得意な男性が生活を始めた。
村建設予定場所は古代遺跡からそれなりに離れた森の奥とのこと。
一番近い村がゴブリン種である青肌一族の村で、人間種の生活圏であるアルテはかなり遠く離れることになる。
人間の立ち入り制限緩和も含め対応を考える必要があるかもしれない。
2つ、新世界側には変身願望のある女性が来るとのこと。
どんな人かはさておき、どんな変身をしたいのかは気になるところだ。
ボクとしては猫系獣人か妖種にしてほしいなと思わなくもないけどね。
だって犬系っていうか狼系っていうか、そんな種族は2人いるし。
3つ、2人は何らかの事故などで瀕死だったようだけど回復させて転移されたようだ。
なので、望めば同じ時間軸なら日本への帰還も考える必要があるかもしれない。
まぁこちらで結婚すれば戻らないかもしれないけどね。
なお、この世界は一応一夫多妻も多夫一妻も可能だ。
平等にできることが条件らしいけど。
さて、その新世界に来るという転移者の女性を待っているわけだけど、もうそろそろだろうか。
ある程度特殊な能力を付与されているとは聞いているものの、そもそもが人間なのであまり危ないことはさせられない。
まだある意味旧世界の方が安全かもしれないしね。
と、そんなことを考えていると広場に敷設した門から一人の女性が姿を現した。
年のころは20代だろうか? 身長は高くもなく低すぎもしない黒髪の愛嬌ある顔つきの女性である。
「あのー、こちらに来ればいいと伺ったのですが……。わっ、なにこの子たち!?」
出てきた女性はボクたちを見て目を丸くして驚いている。
そんなに目を見開かなくてもいいと思うんですけど……。
「えっと、ようこそ、新世界へ。ボクが代表の『御神楽遥』です」
「あ、どうも。私は『椎名唯』と申しますです。遥さん、可愛らしいですね? 何卒よろしくお願いします」
「えっと、は、はい……」
よくわからない挨拶を交わすボクと椎名さん。
なぜ自己紹介の間に感想を挟んだのか。
それだけが非常に気になる。
「それで、何やら変身願望があるとお聞きしたのですが……」
ともあれ入植前に変身願望の件だけでも先に済ませてしまおう。
「あ、はい! 実は、遥さんみたいなケモ耳にあこがれていまして。自分にもあった方がいいな~って思ったんです。猫耳」
「猫耳ですか。あいにくとボクの耳は狐耳なので猫耳ではありませんが、ご要望は理解しました。結論から言うと可能です。猫耳」
「本当ですか!? 猫耳」
「えぇ、大丈夫です。その代わり種族はとりあえず人に近い形の猫の獣人になりますが、猫耳はありますよ。猫耳」
「猫耳が得られるなら構いません! 猫耳」
なんだか知らないうちにすべての語尾に猫耳が付いてしまった。
恐ろしいほどの伝染力を感じます。
さて、猫の獣人になりたいとなると、少なくとも今日一日は寝ていてもらう必要があるので実質的な行動は明日以降になるだろうと予想している。
とはいえ、猫の獣人ってこの世界にはいないんですよね。
旧世界には猫と人型の猫はいますけど、どちらかというと二足歩行する猫らしいです。
マルムさんとセリアさんの種族が二足歩行する狼の人狼でしたからね。
でも、猫耳娘が誕生するとなるとお爺様もちょっとは喜ぶかもしれない。
だって獣人増やしてほしいって言っていたしね。
「ところで、遥さんは狐の獣人なんですか?」
不意に椎名さんがボクにそんな問いかけをしてきた。
「いえ、ボクは妖狐です。日本にもいませんでしたか?」
「えぇ!? 妖狐なんですか!? というか日本に妖狐なんていませんよ!? 伝承や創作には出てきますけど……」
「えっ? そんなはずは……。あー……」
椎名さんがボクの種族について聞いてきたので素直に答えたけど、考えてみれば日本では妖種は見えないようにして暮らしているんでした。
妖狐の店員さんがいたり、猫の集会に参加する猫又少女がいたりしたのですっかり忘れていたけど。
「も、もしかして、日本に妖怪って実際にいたりするんですか? というか日本人なんですか!?」
「え、えぇ。まぁ。妖怪というか、妖種はいますよ。普段見えないようにしていますけど……」
こちらにぐいぐい詰め寄せてくる椎名さん。
圧力が強いです。近いし、怖い……。
「ストップストップです! 遥様に不必要に近づくのは禁止でーす!」
「え? えぇ!? 大量の狐娘!?」
異変を察知したのか、今まで姿を見せなかった妖狐族の侍女たちがぞろぞろと現れ、ボクと椎名さんの間に立ちふさがる。
どうやら壁役になってくれるようだ。
「狐娘ですが、私たちは立派な妖狐族であり遥様の侍女衆です。いいですか? 気になることがたくさんあるのは理解しますが、遥様に負担をかけすぎないようにお願い致します」
「あ、ごめんなさい」
侍女の一人に諭されるように言われ、気落ちしてしまったようだ。
特別に若干サービスしてあげるとしますか。
「そんなに気になるんでしたら、猫の獣人ではなく、猫又になりませんか? 猫の妖種なら猫耳欲も満たせるでしょうし、妖種のこともわかると思いますし……」
でも猫の妖種になりたい人ってそんなに多くはないんじゃないかなとボクは思う。
だって猫の獣人のほうがわかりやすくないですか?
「なる! なります! 猫の妖怪!!」
「妖種です!」
二つ返事で受け入れられてしまった。
猫耳ならなんでもいいんでしょうね。
「わかりました。ではとりあえずその話は後でということで。これから新世界のことについて説明しますね」
こうしてボクは新しい人材に新世界の目的を説明するのだった。
そういえば結局旧世界の人はどんな人なんだろうか。
今度こっそり見に行ってみようかな。




