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第183話 転移か転生か、それが問題だ

 気が付けば知らない空間にいた。

 周囲は白い空間に満たされていてどのくらいの広さがあるかわからない。

 狭いかもしれないしとてつもなく広いのかもしれない。

 ただこうも白い空間が広がっていると漠然とした不安と恐怖が押し寄せてくる。

 俺はもしかして死んだのだろうか?

 それともまだ生きていてここは夢の中だったりするのだろうか?


 わからない。

 まったくわからない。

 感覚も何もかも。


 いつまでそうしていただろうか。

 あちこち歩きまわった気もするし、立ち止まっていただけのような気もする。

 長い時間だったような気もするし短い時間だったような気もする。

 消化しきれない思いを抱えたままそのまましばらく過ごしていると、突如一人の女性が現れた。


山田正やまだ ただしさんですね? どうぞこちらへ。面接が始まります」


 女性はそう言い、手のひらを上にして前方を指示す。

 目の前に現れた女性は一言で言えばとてつもない美人だ。

 周囲が白くてわかりづらいけど、薄い灰色のような髪色をしていて、その奇麗な髪を腰まで伸ばしている。

 まるで女神のようだった。

 ただ気になることがある。

 それは、その暫定女神様の頭には狐のような耳が生えているのだ。

 狐? もしかして化かされたのか? それに面接って?

 ともあれ、このままこうしていても仕方がないと思った俺は促されるまま指し示された方向へと進んだ。


「ほっほっほっ。よく来たのぅ。まぁその椅子に座るがよい。パイプ椅子で悪いがのぅ」


 案内された場所は会議室のような場所だった。

 なぜかテレビモニターのようなものが設置されているし、会議室によくあるような白の長机に安っぽそうなパイプ椅子が設置されている。

 本当にここはなんなんだ?

 会議室には俺一人じゃなくて何人かの男女も周囲にいた。

 みんな一様に困惑の表情を浮かべている。

 気持ちはよくわかるよ。

 


「というわけでさっそく始めるかのぅ。わしはアリオス。ただの普通の神じゃ。お主らは様々な理由があって死の運命にある者たちじゃよ」


 目の前の爺さんは自分のことを神様だと紹介した。

 痛い系の爺さんか? と一瞬考えたものの否定する要素は一切なかった。

 それに、死の運命にある者という言葉も気になる。


「質問、よろしいでしょうか?」


 一人の若者が手を挙げてアリオスさんに問いかける。


「うむ、そこの若者よ。アリオスさんでよいぞ。様なんぞつけんでよいわい。さて、そこの別の若者よ、質問じゃったな? 何でも質問するがよい」

「あ、ありがとうございます。えっと、死の運命にある者とはどういうことでしょうか?」

「うむ。まだ死と決まったわけではないぎりぎりの状況にあるものじゃ。ここでの選択がその後の運命を分けるじゃろう」

「そ、そうですか。わかりたくはないですけどわかりました……」


 質問をした若者は力なく椅子に座り込んでしまった。

 やっぱり改めて死と言われるとそうなるよね。

 ところで、アリオスさん、地味に俺の心の声聞いてなかったか? 気のせいか?


「気のせいではないぞ。お主らの心の声も困惑した気持ちも伝わっておる。ゆえにじゃ、選択肢を与えよう。

 まずは現世で生き返る。大抵の者はこれを選択するじゃろう。次にわしの管理する世界の1つに転生し新たな生を得る。記憶はある程度引き継げるが条件が色々就くので注意じゃぞ。新たな生を得るという点ではオススメかのぅ。最後は残りの人生を異世界で過ごす転移じゃな。健康体にして送り出すからある意味ではお得じゃぞ」


 アリオスさんは3つの選択肢を突き付けて来た。

 簡単に言えば『生き返る』『転生』『転移』の3つだ。

 今の人生に不満がなければ大抵の人は『生き返る』を選ぶだろう。

 その証拠に何人かは生き返ることを選択している。


「では1番を選んだ者は右側の出口から出るのじゃ。生き返るじゃろう。そなたらのその後の人生に幸あらんことを」


 アリオスさんがそう言うと、『生き返る』ことを選択した人たちは右側の出口からぞろぞろと出ていった。

 部屋に残ったのは5人だ。


「あの、転生って選べるんですか? その、世界とか身分とか」


 先ほどアリオスさんに質問をしていた若者が再度を質問している。

 てっきり生き返ることを選択したと思っていたんだけどな。


「そうじゃのぅ。今すぐ選べるのは地球でいうところの近世くらいの文明レベルかのぅ。身分は好きなように選択できるのじゃ」

「なろう系ファンタジーみたいですね。じゃあ僕は『転生』をお願いします」

「俺も」「私も」

「うむ。転生希望者は左側の出口から出るのじゃ。各選択を選び終わったら条件を確認して係の者に言うのじゃぞ。お主らの次の生に幸あらんことを」


『転生』を選んだ男女3人は促されるまま左側の出口から出ていった。

 残るは俺と若い女性一人だ。

 ところであのテレビ、結局使われてなくないか?


「お主らはどうするのじゃ? 『転移』かのぅ?」


 最後まで決められなかった俺たちの前にアリオスさんがやってきた。

 転移もなぁ。どういうところに転移するんだろう?


「どのような場所に転移するんですか? 何か選べる特典やスキルなんかあればいいんですけど……」

「そうじゃのぅ。特典というわけではないが『種族』を選べる、役に立つ『スキル』を選べる、『寿命』などを選べるの3つかのぅ。外見を変えるというのも手じゃな。それと場所じゃが、何か希望はあるかのぅ? なければいいところがあるんじゃが……」

「転移も良さそうですね。なんとなく転生するのはもったいない気がしますし。私、転移を選びます」

「え、じゃあ俺も」

「おぉ。それでは場所に関して説明するかのぅ」


 女性は一瞬悩んだ後転移を選択したようだ。

 なんだかんだで俺も釣られて転移を選択してしまったけど。

 一体どんな場所に転移させられるんだろうか。


「じゃあまずはこの映像を観てもらおうかのぅ」


 アリオスさんはそう言うと、役に立たなそうだったテレビを操作する。

 そこには『新旧世界へようこそ』というカラフルでポップな文字。

 一見何もなさそうな森に建物が建っている様子が映し出されていた。

 どうやら村づくりをしてくれる人を募集しているらしい。

 新世界も旧世界もどちらも森の中で生活をして開拓するらしい。

 森の中か。キャンプやアウトドアが趣味の俺としては挑んでみたくなる。

 となると、選ぶなら旧世界かなぁ……。

 

「新世界と旧世界の二つで同時に募集をしておってのぅ。旧世界を選ぶ場合は開拓に役立つスキルを与えるのでそれらを駆使し村づくり街づくりをしてほしいのじゃ。新世界側は絶賛開発中の世界じゃ。サポートが多い分スキルは旧世界ほど多くはないがある程度与えられるのぅ。その他にも特典はあるのじゃが、まぁ募集は一名じゃな」

「なるほど。でしたら新世界側を選びたいと思います」

「ほぉぅ。よかろう。であれば新世界側の責任者のもとに案内しよう。残るそこな男子よ。そなたは旧世界側での開拓を頼むぞ」

「ええぇ!? いやまぁ良くもないですけど、まぁわかりました。その代わり役に立つスキルや道具をお願いします」

「うむ、よかろう。そなたは旧世界を選ぶ気がしておったしのぅ」


 アリオスさんは俺の顔を見ながらそう言った。


「お主、キャンプとか趣味じゃろ?」

「また読まれていましたか」

「当然じゃ。わし、神じゃもの。女性より男性のほうがお勧めしやすいとも思っておったからのぅ。ついでじゃ。良き出会いがあるように縁もつけておこう」

「ありがとうございます」


 こうして俺は先ほど案内してくれた狐耳の女神様のような女性に再び出会った。 

 

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