第178話 ドタバタお正月と体力のない遥②
「おや、かわいいお嬢ちゃんだ。新しい巫女さんかな?」
「社会勉強中? 偉いわね~」
「あ、あはは……」
ボクは現在少しの間だけ、お守りなどを販売する場所の担当を任されてしまっていた。
名目は社会勉強。
来る人来る人ボクを見ては顔をほころばせ、そっと驚かせないようにお守りなどを受け取ってくれていた。
ちなみにお金は別の人が受け取るのでボクは商品を受け渡すだけだ。
「それにしても今日は本当に人がたくさんいますね……」
「そうでしょうそうでしょう。毎年こうなんですけどね。並んでお参りしているだけだとわからないことも多いでしょ?」
「そうですね。ここからだとたくさんの人が来ているんだなぁと改めて実感できますね」
隣の巫女さんがボクの感想に同意してくれる。
それにしても、これはこれで結構貴重な体験なのではないだろうか? 普段は着ないような衣装も着られているのでなんだか楽しくなってきてしまった。
そういえばアルバイトしたことないや。
「遥ちゃん、そろそろいくわよ?」
「あ、お母さん。わかりました」
「えぇ~? もう行っちゃうの?」
しばらくするとお母さんがボクを呼びに来たので席を立つと、隣にいた巫女さんが残念そうな声を出す。
「また戻れたら戻ってきますね。今は奥のほうに行ってきます」
「奥かぁ。最近建て直されたのよね~。そういえば今日は奥のお社も参拝可能なのよね」
「えっ、そうなんですか?」
どうやらこれからボクたちが行く場所には人が訪れているかもしれないらしい。
それは困る気がする……。
「でも通路は布で隠されてるので見えないはずよ?」
「よ、よかったです……。とりあえず行ってきますね」
「は~い。でも奥のお社って何かあったかしら……」
巫女さんが再び関心を向けないうちにさっさと奥へ行ってしまおう。
さぁ、時間との勝負だよ。
◇
奥の社へは社務所からも行くことができるようで、廊下を通りあちこち曲がりようやくたどり着くことができた。
通路自体は白い布で覆われているため外から見えることはないけど、たくさんの人の声が聞こえてくる。
どうやら再建されたということで一度は見に行ってみようという気持ちが働いているらしい。
あとは新年なので縁起を担ぐ狙いもあるのかもしれない。
そんな奥の社前だが、ボクたちは問題なく無事に中に入ることができたのだった。
奥の社は少し奥に長く大きな作りになっていて、外側からは祭壇以外は見えないような構造になっている。
祭壇自体はよくある神社の祭壇と同じものになっていて、やはりというか鏡が置かれている。
それ以外にはよくわからない狐の尾のようにも見える謎の物体が置かれていたりする。
まぁ主祭神はボクとのことだが鏡を置く理由は天照様に関係していることを示すためなのだと思う。
「ようこそおいでくださいました。では高天の原へ向かいましょう」
社の奥へ向かうとそこには一人の古風な衣装を着けた女性が待っていた。
どうやら彼女が案内役のようで、その隣には妙な亀裂が存在しているのが見えた。
あれを通ることで移動できるらしい。
社の中にあった亀裂を通るとそこはボクに与えられた領地となる平原にでた。
いくつかの建物は建っているがまだ建設途中の建物もいくつかある。
そんな中、平原の真ん中くらいに幾人もの古風な服を着た人たちが座りながらお酒を飲んでいるのが見えた。
大半は見たことのない人たちだったが、一番奥に天照様がいるのが見える。
「よく来ましたね。人間界は新年ということで大賑わいでしょう。早く座りなさい。それにしても、葛葉も一緒とはね」
「お主も変わらんのぅ。どうじゃ? 小さくなったわしも可愛いじゃろ?」
むすっとした顔の天照様を揶揄うようにお婆様がくるくる回り愛嬌を振りまきながらそう話す。
すると天照様は面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らす。
「可愛いのは認めます。本来は席順などありますが、今回は葛葉の復帰祝いと遥の世界を祝して祝おうと思います。若葉も含めて私の隣に来なさい」
「うっ、はい……」
「あらあら」
「まったく、お主は素直じゃないのぅ」
ボクたちは口々にそう言いながら天照様に指定された場所に座った。
なぜかボクとお婆様は天照様を挟んで座っている。
「若葉から新しい世界の話は聞いたわ。よくやっているようね? 私が言うことじゃないけど今日を新年として新世界も祝いなさい。いいわね?」
「え? あ、えっと、はい」
「これ、天照よ。もっと優しく言うがよい。新年を合わせて一緒にお祝いしましょうってな」
「うっ、うるさいわね。そうよ。一緒に新年を祝いましょう」
「わ、わかりました」
命令口調にはやや戸惑ったものの、どうやら本音は新年を祝うことにあるらしい。
というか高天原に新年なんて関係あるのだろうか?
「何を怪訝な顔をしておる。人の世が新年だと祝っておる。それを口実にわしらは集まって騒いでおるだけじゃ。そこに関係性の深い遥が関わることで初めて別の意味が付与されるのじゃ。まぁ今までは単に騒いでおっただけ、これからは新世界の新年を神々と祝う、それだけじゃ」
「そうね。人間界の新年なんてその時々で変わるから私たちと紐づけて考える必要はないわ。理由があって祈ってくれるならそれでいいわけ。それに彼らの新年は彼らの新年。貴女や私たちの新年ではないわ」
「そうじゃそうじゃ。わしらは葛葉の子孫が新しく世界を創ったことに意味があると思っておる。少なくともわしらが意味を持って遊びに行けて、かつ騒げる環境ができたのじゃからな。これを祝わん理由はない」
「その通りだ!」
集まった神様たちは盃を片手に口々にそう話す。
どうやらこの神様たちはボクたちの新世界を祝うために集まってくれたようだ。
「あ、ありがとうございます。そして、明けましておめでとうございます」
「おう、おめでとう」
「今後も新年を一緒に祝うこと。いいわね?」
「はい!」
こうしてボクたちは高天原で2つの新年を同時に祝うのだった。
ちょっと遅れ




