第176話 大晦日と御神楽家
本日は年末の土曜日。
そのせいかあっちこっち大忙しだ。
特にお父さんは初詣の準備やらなんやらで忙しくしているらしくここ数日まともに顔を見た覚えがない。
まぁボクも新世界にいることが多いのであまり家にいるわけじゃないんだけど。
「遥ちゃんの着物は用意したし、お正月の準備はおおむね問題ないわね~」
「わしも日本の年末は久しぶりじゃのぅ」
「お母様はいなくなって長かったですからね。今は娘みたいになっちゃってますけど」
「娘みたいなものだと思えばいいじゃろうに」
「じゃあついでなので、お母様と遥ちゃんの服も一緒に買いに行っちゃいましょうか」
「お母さん、それでいいんですか?」
我が母はお婆様が若くなって戻ってきたことをこれっぽっちも気にしていないようだ。
まぁボクとしてはお婆様を見たことがないので、お婆様がいるという実感は何一つないんですけど。
どっちかというと同年代? の女の子という感じだ。
「わかったのじゃ。若葉よ、これからは葛葉ちゃんと呼ぶがよいのじゃ」
「ふふ、それもいいかもしれませんね」
お母さんとお婆様はなんだか楽しそうだった。
◇
前にもきたショッピングモールに今回もやってきた。
今回の目的もやっぱり新しい服ということなんだけど、こっちの世界で着る機会はあるのだろうか?
もっぱら最近は新世界側で着ることが多いような気がする。
ちなみにそれが原因なのかわからないけど、フェアリーノームの服飾チームとミレがやたらと新しい服を作るのだ。
そのうちボク専用の衣装小屋ができるんじゃないだろうか?
「ずいぶん賑やかじゃのぅ」
「年の瀬だけあって人が多いですよね。それにしても子供がすごく多い……」
「遥ちゃんも似たような見た目だけどね~」
「うぅ……」
これでも一応16歳だった時もあるのだ。
今はもう8歳ほどの見た目だけど……。
「遥よ、妖狐族の成人年齢は200歳じゃぞ? 8歳であろうと16歳であろうと我らからすればまだほんの小さな子供じゃよ」
「えっ? 20歳じゃないんですか!?」
「うむ。なので前の年齢だったとしてもまだ184年あることになるのぅ」
「えええええええ!?」
驚きの話だった。
ボクは年齢が半分になっただけだと思っていたので普通に成人すると思っていた。
でも実は本当の意味でまだまだ子供だったらしい。
「そうねぇ。だから恋愛とか成人するまでしちゃだめよ? 妖狐族は頭は良いけど身体はまだまだ子供なんだから」
「れ、恋愛って……」
お母さんまで妙なことを言ってくるから困る。
そもそもボクは恋愛らしい恋愛なんてしたことないんですけど……。
「妖狐族は魅力的な種じゃからのぅ。成人前の妖狐族に恋をして、結果相手が死んでも成就せんかったなんていう話は昔からたくさんあるのじゃ」
「その話だけ聞いてるとひどい種族のように聞こえます……」
見た目も愛らしい種族なのに、好きになっても手に入れることができないなんて可哀想な話だと思う。
あ、でもこの話はフェアリーノームたちにも当てはまるのか。
「仕方ないじゃろう。寿命の違いがあるのじゃからのぅ。それにしても、食品コーナーはずいぶん人が入っておるのぅ」
「お節も作るよりは買ったほうが楽という家庭も増えてますからね~。今日はそういう人がたくさんいるんですよ」
「ほぉぅ。それはそれでよいのではないか? 確かに手作りも重要じゃが……、作るストレスを抱えて新年を迎えるよりストレスなく新年を迎えるというほうが良いじゃろう」
「ちなみにうちはどうなっているんですか?」
「うちはお母様がいた時から新年のお節は新年に届くようになっているのでそれを頂きます」
「そういえばそうでしたね。でもどこで頼んでいるんですか?」
ボクの家のお節は謎に満ちている。
毎年新年の朝にお節が届いているのだ。
ちなみに誰が届けているのかは知らない。
もしかしてお父さんとか?
「御神楽家のお節は妖精郷と高天原の合作じゃよ。毎年新年の朝日と同時に我が家に宅配されるようになっておるのじゃ」
「えっ?」
「今年はもう一段豪華になっているかもしれませんね。遥ちゃん、高天原に領地貰いましたし」
「ふむ。ということは新年は朝から挨拶に行かねばならんのぅ。雄一郎の社に初詣に行くついでに向こうにも寄るとするかのぅ」
「そうですね~。あ、遥ちゃんはその後でいいので雄一郎さんの神社で巫女さんのお手伝いもね?」
「えぇ~!? アルバイトなんてやったことないですよ!?」
神社でアルバイトなんてしたことないのに突然そんな話を振られて困ってしまう。
何をどうやったらいいんですか!?
それに小さな子供が手伝いなんてしたら怒られませんか!?
「ふふ、それは大丈夫よ? 雄一郎さんの神社は実は2つあるの。遥ちゃんには妖精郷の方でお手伝いしてもらうつもりだから」
「え? 2つあるんですか?」
「うむ。あの社は表と裏があってのぅ。表は人間界にあるのじゃが裏は妖精郷にあるのじゃ。まぁ表よりも裏のほうが神々も来るので賑やかなんじゃがな」
「大体宴会が始まるのよね~。多分今年も開催すると思うわよ?」
「新年から神様が来るなんて、暇なんだか何なんだか……」
そもそも今の新年を神様はどう思っているんだろう? 実は気にしてないのかな?
そんなことを考えていると、ボクたちは前にもきた服屋に辿り着いた。
今回はどんなのになるんだろう?
「う~ん、これもいいわねぇ」
「これもなかなかじゃと思うぞ? いっそわしと遥でお揃いにするのもありかもしれぬな」
「今回は薄いピンクと白の組み合わせにしようかしら。でも少し幼すぎるかしら?」
「少々少女趣味かもしれぬが、わしや遥であれば十分似合うかもしれぬのぅ」
「じゃあ遥ちゃんは薄いピンクと白の組み合わせ、葛葉ちゃんは薄い黄色と白の組み合わせにしようかしら」
「ほぅ。中はワンピースにして白のアウターを羽織るのじゃな?」
「それともニットスカートとセーターにしようかしら……。う~ん……」
「このスカート、なかなか短いのぅ」
お母さんとお婆様は一緒に仲良く服を物色し始めてしまった。
ボクはまだこういうことに慣れていないので何をしていいか全くわからなくて困ってしまう。
前の時もそうだったけど、ボクはただひたすら着せ替え人形となるだけだ。
「いっそニーハイにしてしまうのはどうじゃ?」
「それならスカートよりはハーフパンツのほうがいいかしら? でも少し寒いわよね……。ニットタイツにしようかしら」
「うぅ……。早く終わってください……」
それからおおよそ2時間ほどかかってボクたちの服選びは終了したのだった。
ただ着せ替え人形となるだけの2時間、非常に辛かった……。




