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第170話 【閑話】TSしたい友人と知られたくなかったボクの話②

 友人が一度帰り、そして再度こちらにやってきた時、カメラとパソコンの入った大きなバッグをもってやってきた。

 完全に撮影する気満々です。

 

 それにしても、その姿のまま家に帰ったの? 強メンタルですか?

 服だけは家にあったものを着て行かせたのでだらしない格好にならずには済んだけどね。

 まぁボクが成長した時用にとお母さんが買ってくれたものだからいいけど……。

 

 あ、穿いたパンツは返さなくていいので持って帰ってくださいね? 未使用ですし。

 さすがに友人といえど、他人が穿いたパンツを穿く気にはなれないので。


「それにしても、はるって本当に女の子になっちゃったんだなぁ。部屋の匂いも違うし下着とかまで用意あるなんてさ。学校来なくて正解だったぞ? 絶対やばいから」

「あ、あはは……」


 部屋の匂いは嗅がないでいただきたい。

 でも友人の言うとおり、危なそうな友人には絶対出会わないようにしよう。

 前から思ってたけど、時々通学路の女の子を見るときの目が怖かったからね。

 特に小学生の子に対する視線。

 

「う~ん。なぁ、時々この薬貰ってもいい?」

「え? あ、うん。いいけど、もしかして嵌まっちゃった?」

「うん。なんか、いいわ」


 友人、感慨深そうに自分の姿を眺めている。

 どうやら友人は自身がTSする沼に嵌まってしまったらしい。

 お願いだからバッドエンドにだけはならないでね?


「じゃあ撮影するぞー」

「ほ、本当にやるの? 怖いんですけど……」

「大丈夫だって。そんなにほいほい人気なんかでないって」

 

 確かに早々人気が出ることなどないだろうけど、人前に姿を晒すって結構怖いのだ。

 映すというなら色々小細工しておいたほうがいいと思うし……。

 髪の色を変えてマスクして眼鏡をかけるか……。


 そうして始まった謎の動画撮影。

 厄介なことに、友人はどこで習ったのかわからない営業用スマイル全開で撮影に臨んでいるのだ。

 その上ぶりっ子全開である。

 一体誰を罠にかけようとしているのだろうか。


「はい。で、こっちの子が私の友達のはーちゃんです」

「は、はーです……。あはは……」


 後ほど動画を見直してみた結果、この時のボクの表情は完全に死んでいた。

 視線はやや左斜め下にむけて……。


「じゃ、後で投稿しておくな? コメントはあとで教えるよ」

「あ、はい……」


 地獄の撮影は無事終了。

 ボクは撮影が進むにつれて心が死んでいくのを感じていた。

 ちなみに友人は水を得た魚のようにイキイキとしていたことを添えておこう。


「さてと、ちょっと自撮りの練習をっと」


 友人、懲りずに自撮りの練習を始めた様子。

 薬の効果はまだあるので、きわどいポーズや見えないギリギリを見極めるつもりのようだ。


「なぁ、はるー。スカートってどこまで持ち上げて脚見せるほうが萌えると思う?」

「し、しりません!」


 ちなみにその撮影は過去にボクがやったことだ。

 その写真は現在もミレたちが保存しているはず。

 

「つれないなー。う~ん……。お? この角度いいな。ここまでたくし上げて……。おっ、いいねこの感じ!」


 友人、一人で大盛り上がりである。

 ちなみにボクの将来着る予定の服を着ての撮影なので、なんだかボクの中身を見られているような恥ずかしさを感じるのだ。


「しっかし、この下着さ、はるの趣味?」

「違いますからね!? お母さんの趣味です!」

「えぇ? 白地に黒のラインが入ってて黒いリボンがついている小さめの下着だぞ?」

「言わなくていいからー! それはお母さんが買ったんです! もうそれ持って帰っていいですから!!」


 今はサイズの合わない下着だが友人が穿いたのを穿くくらいなら失っても構わないだろう。

 というか、お母さんはなんでボクの将来のサイズを見込んで買ってるの?

 考えれば考えるほどお母さんの謎は深まるばかり。

 ちなみに今のボクのサイズとお婆様のサイズは全く同一だ。

 なのでお婆様の場合はボクの置き換えで済んでしまうのだ。


「将来はさておき、今は俺のほうが圧倒的に勝ってるな。見ろ、この胸の大きさ」


 友人はそういうと勝ち誇ったように胸を突き出して見せてきた。

 た、確かに大きいけど、ボクは別に競ってない……。

 ぐぬぬ……。


 それから友人は効果が切れるまでボクの部屋に入り浸った。

 さんざんよくわからないポーズを見せられたり、別動画を撮らされたりして、効果が切れるころにはすっかり日が暮れてしまっていた。


「んじゃ、帰るわ。また都合付けてこれやろうぜ!」

「あ、そうですね……」


 友人はTSすることに完全に嵌まってしまった様子。

 原因はボクなのか、それとも元からそういう才能があったからなのかはわからない。

 1つ言えることは、この友人は女子にモテるくせに付き合おうとはしないということだけだ。


「ふぅ……。疲れた……」


 友人を見送り、ボクは部屋のベッドに突っ伏す。

 思わぬ再会ではあったけど、元気そうでよかった。

 それ以上に、ボクの変化についてはあまり気にしていない様子だったし、まぁよかったといえばよかったのかもしれない。


 それから2時間ほどして、友人から動画を投稿したという連絡がきた。

 さらにその1時間後、ボクは動画のコメントを確認してみることにした。

 でもこの時の判断は間違っていたといえるだろう。

 なぜなら……。


『20:50

 ゆうま あおぎり:これは中々良さそうな子たちですね。心配なので今後も見守っていきたいと思います。特にはーちゃんですか、気に入りました』


 要注意人物ともいえる友人の名前がコメント欄にあったのだ。

 このコメントを見た瞬間、ボクの心は確かに死んでいた。

お読みいただきありがとうございます!

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