第165話 埋没した古代都市にて②
お婆様の指摘する古代文明の滅びた原因。
そのきっかけを作ったのは彼らと教授たちであることは間違いない。
まぁ教授たちは悪びれる様子などないんだけどね。
彼らにとっては何もかもがいい実験なのだろう。
現在地下にあるこの古代都市は、地上にはない技術がたくさん詰め込まれている夢のような場所だった。
たとえば日本でもまだないような立体ディスプレイの図書閲覧室、モノレールと思しき線路とそこに繋がっている長方形の箱。
それ以外にも自動車のようなものや立体ディスプレイのようにも見える大きな建物にかかった長方形の板などがあった。
明らかに今の異世界にはそぐわないそれらは、確実に外部から持ち込まれた技術だろうと思われた。
件の教授たちが原因なのか、それとも日本のような世界から太古のこの世界に転移した何者かがいたのかはわからないが……。
「これは古代遺跡というより、結晶化した現代廃墟群といった感じがしますね……」
これは完全にボクの主観による感想だ。
たぶん地球が滅びて長いこと時間が経てば似たような光景が広がることだろう。
「地上にあった古代都市群は崩壊したり地中に消えたりしているのでしょうか。となると、どこかに痕跡があったりするのかな……?」
この地下都市は多分相当広い。
まぁ拾ってこれる技術や素材なんて1つもないんだろうけど……。
「ふむ。そういえばこんな世界じゃったのぅ。すっかり忘れておったわ」
「色々な世界に侵入しましたから、さして特別感はありませんでしたわね」
「そうじゃのぅ。理外を移動する宇宙船のような巨大船もあったしのぅ」
「あの者たちは敵対しないだけマシですわね。理外がどこでもない世界なせいか、ああいった高位次元の存在も時々遭遇しますし」
お婆様たちはまた訳の分からない話をしている。
もしかすると、教授と瑞歌さんが過去に言っていた『世界を創造して回っている実験部隊』がそれなんだろうけど……。
「まぁこの場所は都市モデルの参考にするにはいいかもしれんのぅ。しばらくは鉱脈として見るのではなく鉱石で作られた大きなジオラマとして見るのがよいかもしれんのぅ」
「あ、それもそうですね。これだけよさそうなものがあるなら新世界に取り入れるのはありだと思います」
お婆様の言葉にはボクも納得だ。
早速取り入れることにしよう。
「じゃあミレ、このあたりを調べて地図を作ったり設計図を作るように設計班と調査班の子たちに頼んでおいてください」
ボクのお願いを聞いて、ミレはさっそくその場から移動してしまった。
まぁ戻ってくるのも早いだろう。
続いて探索していくと、マザークリスタルのあると思われる大きな建物に辿り着いた。
おそらくこの場所が理外と繋がっている場所になるのだろう。
「扉は開いているようですね。助かりました」
「うむ。閉じていたら壊さねばならんかったからのぅ」
「この建物は大きいだけで複雑な構造はしていなかったはずですわね」
「そうじゃのぅ。ここはいわゆる発電所みたいなものじゃし」
お婆様たちの中にある過去の記憶にはどんな光景が映っているのだろう。
見ることは可能だろうけど、今は見ても仕方ないだろう。
「入りますわよ」
「はい」
瑞歌さんの先導により、ボクたちは建物の中に入っていった。
◇
建物内はまぁ普通のオフィスのような構造をしていた。
エントランスは受付があり、エレベーターのような筒や階段がある。
奥側には開いたまま結晶化した扉があるので、あそこが今回の順路になるのだろう。
開いた扉の奥には何やら機械のような箱がたくさん並んでいた。
その先にはまた扉があり、部屋の正面には窓を挟んで未だ稼働していると思われる青い大きな水晶体が浮いている。
どうやらクリスタルまでは結晶化できなかったらしい。
この辺りが当時のミリアムさんの限界だったのかもしれない。
しかもその後ろにはまだ稼働しているゲートが存在していた。
「ほう。未だ現役とはのぅ。瑞歌よ、あのまだ開いているゲートの先に行き残党がいないか調べてくるのじゃ」
「わかりましたわ」
瑞歌さんはそう一言話すとゲートへ向かって歩いていき、その先へと入っていってしまった。
前回と同じならすがすがしい顔をして戻ってくることだろう。
「まだいるとお考えで?」
「うむ。やつらに時間の概念はないからのぅ。ちょっと遊んでいたら100年過ぎていたなどよくあることじゃ」
「理外って、完全に別の時空にあるんですね……」
「そうじゃのぅ。色々な宇宙が球形になって浮いているような世界じゃしな。例えるなら、ビー玉をたくさん沈めたプールのようなものかのぅ。教授たちが考えていることの1つに、『理外は母なる世界の海』というものがあるのじゃが、あながち間違いではないと思うのじゃ」
一体お婆様はどんな光景を見たのだろうか。
宇宙が球形かもしれないという話は、多元宇宙論などでよく見る話だが実際に見たことがないからわからない。
地球を含む宇宙も同じなのか、たまたまその宇宙群が理外に存在していただけなのかも不明なままなのだ。
「終わりましたわ、お姉様たち」
しばらくすると、すがすがしい笑顔の瑞歌さんが帰ってきた。
「うむ。ご苦労じゃったのぅ」
お婆様も察したらしく瑞歌さんを軽く労うのだった、
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