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第163話 混沌の根とお婆様

 元は石造りであっただろう古代の都市が、今や輝く色の鉱物となっている。

 そう考えると実に感慨深いものがある。

 少なくとも今見えている景色は輝く鉱物でできた奇麗な建物群なのだから。


「これができた背景を考えなければ、恐ろしく奇麗な景観なんですよね」

 原因を考えなければという条件は付くが。


「溢れる魔素と精霊力、そして混沌。これらが組み合わさって作り上げた光景というのが何とも言えませんわね」

 この世界に来てからずっと一緒に暮らしているせいか、元々理外の生き物であるはずの瑞歌さんにも大きな変化が起きていた。

 そのきっかけは眷属化なのだろうけど、今はもうただのものすごく強い美人のお姉さんといった感じである。


「ほれほれ、もっと逃げぬか。追いついてしまえば食ろうてやるぞ」

『ひぃぃぃぃ』

 何やら少し遠くの場所からそのような声が聞こえて来た。

 どうやら【混沌の根】を発見して追い回しているようだ。

 

『くそう。いい気になりやがって』

『やめろ、逃げないと殺されるぞ!? せっかく復活するチャンスを得たというのに』

『だが反撃しなければ殺される』

『いやまて、あっちに生体反応がある。取り込めばなんとかなるやもしれぬ』

『だがそれで大丈夫だと思うか? 姿こそ幼いが圧力は混沌の狐そのものだぞ』

『ええい、臆するな。あの生体反応を取り込めば……』

 発声器官がないはずの【混沌の根】からそのような声が聞こえてくる。

 おそらく念話なのだろう。

 まさかボクたちに聞こえているとは思うまい。


「ゲス共め」

 それを聞いた瞬間、瑞歌さんから重苦しい力が放たれた。

 秘められていた混沌の力を解き放ったようだ。

 その瞬間、こちらに近づいているだろう【混沌の根】は踵を返すようにして逃げ出し始める。


『は、話が違うぞ』

『混沌の海のスライムがいるじゃないか! あいつらは友好的でも非友好的でもない完全中立だろ!?』

『どうしてあそこにいる生体を守るように威嚇してくるんだ』

 彼らの念話の内容は混乱を極めていた。

 どうして瑞歌さんが味方しているかわからないらしい。


『この姿になってから記憶が薄くなっていたが思い出してきたぞ。混沌の狐に付き従うスライムは確か女王だったはず……。つまり……』

『なんてこった。それじゃあ中立だってはずのスライムどもは』

『女王の号令1つで全員敵になるってことだ』

『逃げろ! 今すぐどこかに!』

『逃げるったってどこにだよ! あっちにも逃げられないぞ』

『ちくしょう……』

「ほれほれ、もう諦めたのかの? であるなら、おとなしく滅ぶがよい」

 お婆様、楽しそうに死刑宣告を下す。

 言葉には出していないが、若干怒っているようなので彼らに救いはないのかもしれない。


「お姉様怒ってますわね。それも当然だと思いますわ」

「あ、えっと、そう、ですね?」

 瑞歌さんもお婆様に同調しているらしく、笑顔で物騒な雰囲気をまき散らしている。

 おかげで瑞歌さんとお婆様が歩くたびに【混沌の根】が虫のようにかさかさと逃げていく。

 

「さぁて、そろそろ終いにしようかのぅ」

 お婆様がそう言うと同時に、【混沌の根】の動きが鈍くなっていく。

 よく見てみると【混沌の根】の末端部分が徐々に石化していることがわかる。


「あれは?」

「お姉様が獲物を逃がさないようにしているだけですわ。ああやって徐々に石化させていって本体だけはそのまま。そして少しずつ削って死に至らしめますのよ。主に理外の者を相手にするときの戦い方ですわね」

「いやすぎる……」

 瑞歌さんの解説を聞いてボクはげんなりとした気分になった。


「クックックッ。ほーれ、逃げてみい」

『や、やめてくれえええええ』

『もう死ぬのは嫌だあああああ』

『あぁ……』

 意思の統合体でもある【混沌の根】は、自分たちに起きていることを受け入れることができないようだ。

 徐々に抵抗はなくなっていき、そして……。


「混沌の中に還るがよいわ」

 お婆様はそう言い放つと、動かなくなった【混沌の根】を踏みつけた。

 直後、キーンという甲高い音が響き渡ると【混沌の根】は徐々にその形を失っていき、やがて空気に溶け込むように消えてしまった。


「お婆様ってなかなかえげつないことやりますね……」

「それでも昔よりは丸くなりましたわ。昔はもっとすごかったですわ」

 瑞歌さんの知る全盛期のお婆様。

 知りたいような知りたくないような、不思議な気持ちだ。


「待たせたのぅ。それじゃあ後片付けをして探索を続けるかのぅ」

 ニコニコ笑顔で戻ってきたお婆様は何事もなかったかのようにボクの隣に並び、そしてボクの手を握る。

 最近のお婆様はボクと探索する時、必ず手を握るようになったのだ。

 たぶんブームなのかもしれない。

 女の子の友達同士が手を繋いでるのを見かけることがあるので、あんな感じなのだろう。


「じゃあ私も反対側を……」

 すかさず瑞歌さんがボクの空いている手を握り、それを見たミレたちがボクに覆いかぶさるように抱き着いてくる。


「うっ、重い。動けない……」

 完全に体を固定されてしまった結果、ボクはしばらく動くことができなくなるのだった。

 結局解放されたのは、それからしばらく後のことであった。

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