第159話 高天原の隠された戦い
ベルザ伯父さんと取引の話などをした翌日、ボクは旧世界整備担当のフェアリーノームと人型精霊たちから報告を受けていた。
作業は順調で調査はあらかた終了したという話を聞いてボクは安堵した。
しかし同時にちょっとした問題も発生してしまっていたのだ。
「もう一度お願いしてもいいですか?」
「は、はい」
青肌一族村郊外の開拓と調査をお願いした結果、厄介なものがでてきてしまったのだ。
「建設予定地点に地下に妖精銀の大規模な鉱脈を発見、それと同時に古代にあったという古代人の都も発見してしまいました」
「今まで気が付かなかったとは……」
あの森を管理していたミリアムさんに聞いておけばよかったかもしれない。
「主、例の地点の調査が終わったと聞きました」
「あ、ミリアムさん」
今回は簡単な報告だけだったのでミリアムさんを呼んでいなかったが、本人から来てくれたようだ。
「簡単な報告だけだったので呼びませんでしたが、ちょうどよかったです。問題発生です」
「えぇ。地下にあるもの、ですよね?」
「はい」
いつも真剣なミリアムさんだが、今は特に真剣な表情をしている。
「あそこにある都市は太古の昔に栄えていた人類のものです。ですが、すでにご存じの通り理外の者を召喚した結果、滅ぶに至りました。それだけならよかったのですが、滅んだことにより管理されていた膨大な魔力が漏れ出し、一時期死の森と化したのです。現在は通常の森と変わりませんが、一皮剝けばまだその汚染の痕跡が残る場所でもあります」
「つまり、その都市は未だ汚染されていると?」
「はい」
どうやら浄化作業が必要なようだ。
「今まで浄化できなかった理由、聞いても?」
「実は膨大な魔力のせいで理外より侵入した【混沌の根】が張ってしまい、私程度の力ではどうにかすることができなかったのです。根の除去こそ不可能でしたが、継続して汚染を除去することで現在の形を保っています。妖精銀の鉱脈はその影響で生成されています」
「【混沌の根】ですか……」
混沌の根とはなんだろう? あとで二人に聞いてみよう。
「とりあえず事情は分かりました。すぐに確認してみますので、報告がなければ解散ということで」
こうして旧世界についての進捗報告は終了した。
◇
今回問題となったのは例のごとく古代王国の件だ。
妖精銀の鉱脈があるだけなら何の問題もないが、理外の何かが関わっている時点で厄介ごとしかない。
「お婆様、ちょっと聞きたいことが……」
「どうしたのじゃ? これ瑞歌よ、もっと丁寧にやらぬか」
「も、申し訳ありませんわ」
ボクたちの部屋の中ではなぜかそば打ちとそば切りが行われていたのだ。
何でここでやっているのだろう?
「あ、え~っと、なんでおそばを?」
「ふむ、いい質問じゃな。ちょっと挑戦してみたかったのじゃ」
「あ、なるほど」
どうやらお婆様たちは何となく興味本位で始めたようだった。
「それで、遥お姉様はどうなさったのですか?」
「あ、そうでした」
イレギュラーなことが起きたので少し混乱してしまったが、瑞歌さんの一言で用事を思い出すことができた。
「【混沌の根】ってご存じです?」
「【混沌の根】じゃと?」
ボクがそう問いかけた瞬間、お婆様たちの間に冷たい空気が流れたのを感じた。
あれ? これはまずいこと?
「えっと、まずいことだったでしょうか?」
恐る恐る問いかけるが、お婆様はすぐに笑顔に戻りこう言ったのだ。
「いんや、まずくはないのぅ。むしろまだそんなものが残っておったのかと驚いておったところじゃ」
「本当に、あのクズどもは往生際が悪いですわね」
どうやら2人とも、その正体を知っているようだ。
「2人とも、それが何かご存じなのですか?」
「まぁのぅ。あれは……」
「あれはクズどもの残骸が寄り集まってできたゴミですわ」
「まぁそうじゃの。しつこい残留思念と核のゴミが寄り集まってできたカビみたいなものじゃ。核を壊せばきれいさっぱり消える程度のものじゃよ」
「え? そんなに簡単なんですか?」
何でもないように処理方法を教えてくれるお婆様たち。
たしかにボクでもできそうな内容だ。
「じゃが、それができるものであることが前提じゃからのぅ。わしと遥、そして瑞歌であれば可能じゃがほかのものでは無理じゃ」
「無能……とは申しませんが、まぁ力不足ですわね」
「高天原の神でもできることじゃがな。最悪あやつらに頼めばよい」
と、お婆様はそのようなことを言い出し始めたのだ。
どういうこと?
「ふむ、わかっておらぬようじゃな。あやつらはこの世界より上位の世界の神じゃ。つまり、この世界の神にできないことができるというわけじゃな。若葉は遥よりも力は弱いがこの世界の神よりも上位の力を持っておるし、わしはあやつら以上の力を持っておる。遥はわしと同等以上といえるじゃろうな」
「えっと、つまりあの神様たちなら理外の者とも戦えると?」
「そうじゃ。その筆頭といえるのがスサノオじゃな。あやつは理外の者と戦っておるよ」
意外な話が出てきてボクは驚いてしまった。
まさかあの平和そうな地球にも理外の者が来ていたなんて知らなかったからだ。
「そう、なんですね……」
「まぁ一般の人間にはわからぬことよ。妖精郷や高天原に関わらぬ限り知りえぬことじゃて」
お婆様はそう言って笑い、出来たそばをゆで窯へと運んで行くのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価ありがとうございます。
絵の練習もしてるので遅くなっていますが、進捗悪いです(''




