第154話 名物開発と会議
商品の話し合いをしてわかったことがある。
現在新世界では、アンカルの街の職人フェアリーノームによって新商品が作られているらしい。
どうやらまだ試験中ということもあって、ボクにまで話がまわってきていないようだった。
「ということで、現在薬剤のほかにシャンプーやリンスなども制作しています」
そう説明するのは制作作業を請け負う開発担当のフェアリーノームだ。
なんでもアンカルの街では美容関連商品の開発を担当していたのだとか。
「自然に優しい素材であればなおいいですね。あと、商品にはグレードを付けましょう。一般的に買いやすいものとちょっとした贅沢品に分けたいんです」
すべてが同じグレードでは購入者が迷ったり悩んだりしてしまうことだろう。
もちろんそれもいいのだけど、やっぱりある程度価格差や等級があってこそ選びやすくなるというもの。
そうすることで、今月は「ちょっと贅沢にこれ」という選び方もできるのではないだろうか?
「わかりました。旧世界側にも卸しますか?」
「販売場所は建設中の新都に限定します。それと、宿泊所にはお試し用の製品を設置するようにしてください」
「わかりました。開発が完了した後のテストは誰にしてもらえばよろしいでしょうか?」
「そうですね……」
開発担当のフェアリーノームからの質問に、ボクはすぐには答えられなかった。
なぜなら、ボクには善し悪しがわからないからだ。
「う~ん……。ミレたち、お願いできますか?」
「わかりました」
「お任せください!」
「いつでも大丈夫です」
「新製品楽しみです」
簡単だが会議という事もあり、ミレにミカ、ミナとシーラが一緒に話を聞いている。
なのでこの辺りは女性歴の長い彼女たちにお任せしてしまおう。
「それと新製品のクリームですが、この世界の素材で制作を試みています。素材自体は良いものが多いので何を使うか悩んでしまうほどですが、いくつか試作中です」
「そんなにあるんですか?」
「はい!」
ボク自身素材には詳しくないのだが、彼女たちから見れば優良な素材の宝庫らしい。
こういう時、自分の知識の無さが悲しくなる。
「じゃあ後は妖狐族のみなさんにもお試ししてもらいましょうか。あ、でも匂い関係は要注意ですよ」
「あ、そうですね。わかりました!」
テスターが足りなそうなので妖狐族のみんなにも協力してもらうことにしよう。
でも匂い関連は注意しないといけない。
なぜなら、妖狐族は自分の匂いが消えるのも嫌だからね。
多少は自分の匂いが残っていないと不安になるのだ。
「元々私たちも自然な香りのほうが好きですから、その辺りは問題ないと思います。でもそうですね、たしかに妖狐化してみると自分の匂いに敏感になる気がします」
妖狐化もできるミレはそのように語る。
なんというか安心感が違うんだよね。
「販売用のお土産も順次制作がはじまっているそうですよ。特に妖都で学んだ技術を生かした、アキ特製薄皮饅頭が人気のようです」
「えっ、なにそれ!? 初耳です」
まったく知らない話であった。
「アキはまだ私たちには出していませんからね。完成品ができるまでお預けです」
「悲しい……」
どうやら完璧になるまで食べられないようだ。
「ちなみに他にはどんなお土産品が用意されているんですか?」
この辺の情報をボクはもっていないので是非聞きたいところだ。
「現在、あちらの世界でも販売できるよう準備が進められていますが、羊羹などの日本や妖都にもあるお菓子のほか、ケーキやタルトなどといったお菓子も用意されるようです。ですが、こちらもまだ試作段階のようですので現物はまだありません」
「そんな!?」
どうやらこちらもお試し商品はないようだ。
ちょっと残念。
「でもこうして考えると、お土産品はたくさん用意されているんですね」
「はい。今回の件に関しては妖都で修業していたアキの発案です。他にも温泉や温泉卵についても検討していたようですよ?」
「温泉かぁ……」
個人で使う分ならミリアムさんたちに頼んでいくらでも用意できるだろうけど、宿にとなると少々難しいかもしれない。
特に新世界側でならばいくらでも採掘は可能だが、既に人類が住んでいる青肌一族の村周辺で採掘するとなるとちょっと問題が起きるかもしれない。
そもそも、あのあたりに湯脈があるかわからないしね。
「では温泉案については保留ということで」
「現状はそうなりますね。ただ何とか都合することはできると思うので、名物はどんどん作っちゃってください」
ボクにできることは商品開発ではなく、あの辺りの地形操作だろう。
ミリアムさんと相談しながら決めていきたいと思う。
「アキが色々と用意しているようですしね。そういえば今夜特製釜飯を出すと言っていましたよ?」
「釜飯!?」
実はボクは釜飯が大好きなのだ。
そっか、ここでも釜飯が食べられるのか……。
何釜飯だろうか? 豚? 鳥? 山菜? うぅ、待ち遠しい。
「そういえば酒呑童子さんが何やらおいしそうな鳥を狩っていましたね。暇だったからついでにと言っていましたよ」
「えっ、いつのまに!?」
酒呑童子さん、いつの間にそんなことやっていたんだろう?
「ちょっと前ですね。アキが嬉しそうにその鳥を受け取っていたので鳥釜飯か焼き鳥になるのではないでしょうか?」
「おぉー! 鳥釜飯!!」
鳥釜飯も無論大好物だ。
これは夕飯が楽しみになってきた。
「そっか。釜飯も良い料理になりそうですね。ミレイさんたちの評判が良かったら取り入れましょうか」
「はい、そうしましょう」
ミレの許可も出たので、今日は現地の人も含めての試食会となった。
「そういえばマルムさんたちはどうしてます?」
最近すれ違うことの多いマルムさんとセリアさんの動向が少し気になる。
「基本的にハンターとしての腕を鈍らせたくないようで、周囲の警戒と少しだけ遠くに遠征をしていますね。今回の商品開発にも多大な貢献をしてもらっていますよ?」
「え? そうなんですか!?」
ミレの報告を聞いてボクは驚いていた。
まさか、間接的に商品開発に関わっていたとは。
「妖都との取引で入手した小豆や葛以外にも、お米などの穀物類の原種など、様々な植物を発見していますからね。同行させている同族ともうまくやっているようです」
「へぇ~」
本来はボクがしっかり指示を出したり見守ってあげるべきなのだが、ちょっと自身のことで色々と忙しくしていた。
今度マルムさんたちと一緒に出掛けてみようかな。
慰労も兼ねて。
「でもそうなると、今はマルムさんたちを呼び戻しにくいですよね」
ここまで大活躍してくれているとなると、簡単に担当を変えるわけにもいかない。
「そうですね。今はまだ彼女たちの力が必要です。それに眷属になったせいかあまり疲れを感じたりはしていないようですよ?」
「そうなんですか?」
「はい」
「まぁ半妖種といった感じですもんね」
どうやら新たな種族となったマルムさんたちは、この妖力も存在している新世界にしっかりと順応しているようだ。
半妖種とは言うものの、そんな種族はないので彼女たちもれっきとした妖種として扱ったほうがいいだろう。
「商品開発やらなんやらで忘れていましたけど、功労者に何か領地とか褒章を与えたほうがいいのでしょうか?」
この辺りのことは疎いのでさっぱりだ。
でも、ミレは察してくれたようでちょっとしたアドバイスをくれた。
「彼女たちには今は不要です。彼女たちが子を持った時にでも、その子に与えてあげてください。『今から偉くなってくださいね』なんて彼女たちに言っても困惑された上に拒否されるだけですから」
「そ、そうですよね」
なんとなく何かをしてあげなきゃいけないんじゃないかと思ったけど、自由を愛するマルムさんたちのことを考えれば余計なことをしないのが一番かもしれない。
もし必要なときは二人が何かを言うだろうから、その時に聞いてあげよう。
ボクは会議の途中ではあるものの、そう心に決めたのだった。
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ブックマークや評価ありがとうございます。
街づくりとは何だろう。
物語を書きながらずっと考えています。
まぁまだ人もほとんどいない世界ですけどね。




