第152話 ポーションと霊薬とハンターたちの懐事情
薬学関係の研究が始まり、医療施設の建設も始まった。
現在ボクは自作した錬金釜とにらめっこしながら、アルム草のポーションを作っているところだ。
今回はいくつか実験も含めているので、ちょっとオーバースペックなものもできるかもしれないけど自重はしないつもりだ。
「ええっと、【アルム草】と【シマの葉】を刻んでから薬研でまとめて磨り潰す……」
ここで出てくる【シマの葉】とは、味や性質は【アルム草】と全く同じものだ。
組み合わせて使うことで回復力を少し強化することができるらしい。
ボクが習ったことによると、合成の魔法陣を刻んだ錬金釜で作るポーションは、基本的に効果がプラスされていくらしい。
つまり加算方式というわけだ。
だけど、入れた種類によっては反転してしまったりすることもあるのだとか。
これだけ聞くとマイナスされたのでは? と考えてしまうのだが、これもまたプラスの効果なのだという。
つまり、すごく回復するポーションに毒性を与える素材を加えると、すごく毒を与えるポーションになるというわけだ。
もちろん、同じものをベースにすればいいかというとそういうわけではないらしく、素材によっては効果が消失することもあるのだという。
「全部がいい方向に働くかと思えば、マイナス効果の方向に転換しちゃうプラス要素もあるのかぁ……。何言ってるんだろう」
自分で言っていて訳が分からなくなる。
「ええっと、【シマの葉】に【フユキギの葉】を入れると、水になる……。は?」
ちょっとまって、なんで水ができるの!?
もはや意味が分からなかった。
「ええっと、これを【効果の対消滅】という……。はぁ……」
どうやら混ぜたものがまずかったらしく、効果そのものが消えてしまったらしい。
これはちょっと材料を調べないとかな?
「ええっと、検索っと……」
ボクは頭の中で【フユキギの葉】について調べてみた。
【フユキギの葉】
雪山に生えている樹木から少量取れる素材。
魔力を回復させる効果を持つ。
体力を回復させる効果を持つ素材と混ぜた場合、お互いを別の要素に置き換えようとするため効果が消失する。
「ふむ……。で、【効果の対消滅】とは?」
【効果の対消滅】
とある物質ととある物質を混ぜた際、お互いの効果が浸食し合い効果が失われること。
俗にいう相性の悪い素材のことである。
「はぁ、最悪だ……」
どうやらボクはやってはいけない組み合わせをしていたようだ。
こんな風に失敗するなんて思いもしなかったよ……。
「んと、次は……【ケナシの実】か」
今回は事前に調べてみることにする。
【ケナシの実】
滋養効果を強化する。
様々な回復系素材の効果をアップさせる。
造血効果を持つ。
ツルツルした丸い実が特徴。
「ハンマーで砕いて薬研で潰せばいいのかな?」
効果に問題はないようなので【アルム草】と【シマの葉】と一緒に混ぜることにした。
「次はこの塊を水の張った錬金釜に沸騰させてから投入っと」
葉っぱ物は青緑だけどケナシの実は肌色に近い白と黄色を混ぜたような色だ。
塊なのでちょっと見た目が汚い。
「よし、沸騰した。投入っと。次は混ざるまでかき混ぜる」
魔法陣自体は徐々に効果を及ぼすらしく、かき混ぜることで促進させることができるようだ。
なので混ざるように工夫しながらかき混ぜていく。
すると、ミントグリーンに近い色合いに変化してしまう。
「おや? これはまた不可思議な色ですね。えっと次は液を掬って蒸留器へ」
ミントグリーンの液体を蒸留器へ移し、火をつけ蒸留させていく。
しばらくすると先端から透明の液体が出てくるのが見えた。
「ここまでは大丈夫っと」
状況を確認し、蒸留しきるまで待つことにした。
それからしばらくすると完全に蒸留が終わったようなので、出来た液体を入れ物に入れたまま取り出す。
そして最後に成分分析をする。
「ええっと……。【高品質な中級回復ポーション】か。まぁまぁいいんじゃないですかね?」
つけられている名前を見る限りかなり良さそうではある。
そして大事な中身だが、傷の修復促進と体力の回復、造血効果、痛み止めなどの効果がついているらしい。
この辺りは素材によるところが大きいのだろう。
というわけで、【シマの葉】と【アルム草】をちょっと調べてみる。
【シマの葉】
滋養強壮の薬を作るのに使う薬草の1つ。
基本的に苦いが体力を回復してくれる効果がある。
痛み止めと傷の修復促進効果も持つ。
葉の先が尖がっているが丸みを帯びているのが特徴。
【アルム草】
滋養強壮の薬を作るのに使う薬草の1つ。
基本的に苦いが体力を回復してくれる効果がある。
葉の先がギザギザしているのが特徴。
どうやら痛み止めや傷の修復促進効果については【シマの葉】が関わっているようだ。
ということで、素材によって効果が変わることが分かったので加算加算で効果を積み上げていこうと思う。
「ええっと、なになに?」
薬学研究のフェアリーノームから貰った資料によると、ポーションに加算できる効果には上限があるようだ。
詳しく調べてみると、そもそも1瓶に入る容量にも限界があるのでどうしても制限がかかってしまうということのようだ。
それに一回で1瓶飲まなければいけない場合、その人の体の容量もあるので大きくすればいいというわけでもないらしい。
「ある程度取捨選択するか、もしくは先に加算し続けた強力な原液を用意する必要があるというわけですか」
つまり、人間たちで作れるポーションには制限があるということのようだ。
もし市場を独占できるくらい素晴らしい効能のポーションを作るなら、ボクたちの能力をフル活用すればいいということか。
「主様? どうしました?」
いつの間にかやってきたミレにボクの独り言を聞かれてしまった。
恥ずかしい……。
「いえ、少しポーションの作成をしていまして……」
「ポーション、ですか?」
そう言うとミレは興味深そうにボクの手元をのぞき込む。
「なるほど。これはポーションではありませんね。霊薬ですね」
「えっ? 霊薬?」
ミレは突然そんなことを言い出す。
「使った素材は【アルム草】に【シマの葉】、【ケナシの実】ですね?」
「は、はい」
「これはこの世界で新たに開発された私たち用の霊薬のレシピです。それにこの材料、あちらの世界にはありませんよ?」
「えっ!?」
これにはさすがのボクも驚いてしまった。
まさか、これらの素材がすべて新世界のものだったなんて。
「旧世界ではどんな材料を使っているんですか?」
「まずはこの【ヒノエ草】ですね。単体だけでも苦いですが回復効果を望めます。基本は【アルム草】と同じですが、人間に【アルム草】の霊薬を飲ませると、重傷でなければ即時回復してしまいます」
「えぇー……」
どうやらあの子に教えて貰った材料は、この世界のものだったようだ。
「【シマの葉】に似た植物は【メメ】という植物の葉ですね。魔力が高い場所に生えます。【ケナシの実】であれば【クギの木の実】です。これは比較的多く生えている樹木で、あちらの拠点周辺にも群生していますよ」
「そ、そうなんですね。知らなかったです」
あの周りに生えていたのか……。
「毎日の食事の時に木の実を出していたと思いますが、あれですよ? 焼くと香ばしくておいしいんです」
「えぇ!?」
たしかにクリみたいでおいしい木の実があったことは覚えている。
まさかあれだったなんて……。
「じゃあ人間たちも【クギの木の実】を食べたりするんですか?」
「いえ、あれは生えている場所が特殊ですし、人間たちの住む領域にはあまり生えておらず希少なので高価なのでほとんど食べないでしょう。それに人間たちには効果が高いので一日数個食べるだけで十分だったりします」
「へ、へぇ~……」
なんと、あのおいしい木の実は高価らしい。
もしかして、最初からあれを売ってればよかったのでは?
「ですが主様? クギの木の実は流通しづらい分特定されやすい品でもあります。下手に売れば狙われるかもしれませんよ?」
「あう……」
どうやらミレにはお見通しだったようだ。
「ともあれ、回復術が使えるメンバーがいないパーティーは、高価でもこれらの素材で作ったポーションを飲んでなんとか怪我を治したりしています。まぁほとんどのパーティーは薬草を煎じた軟膏を使ったりしていますけどね。軟膏は安いので」
ボクよりもよくあの世界のことを知っているミレだけに、なんとなく腑に落ちる話だった。
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設定はまとめ中ですので、いずれ分類して出そうと思います。




