第146話 教授の頼み事
教授に案内された場所は屋上にある小さな小屋だった。
その小屋の扉に教授が向かうと、おもむろに扉を開ける。
「この中ですぞ」
教授はそう言うと、小屋の中へと入って行ってしまった。
「わっ」
小屋の中にはまた別の空間が広がっていたのだ。
そこには様々な道具が置かれていて、たくさんの研究員たちが飛行機のようなものを作っている最中だった。
「主要な研究員たちがいないと思ったらこんなところにおったのか」
「航空機、ですの? 空でも飛ぶ予定がおありで?」
お婆様と瑞歌さんはこの場所を知っているようだった。
「いえいえ。実はこれ、航空機型の宇宙船なんですよ。今後近隣の宙域を探索するのが研究員たちの仕事になりますからな」
そういわれて、ボクは周囲を見回した。
周囲にはたくさんの研究員たちが存在している。
あるものは首なかったり、あるものは獣顔だったり、またあるものは普通の人間だったりするのだ。
とにかくたくさんの種族が集っているようだった。
「では改めまして、ようこそ、我らが研究所へ。主殿」
教授がそう言った瞬間、周囲の研究員たちがみなこっちを向き、お辞儀をしたのだ。
「えっと、教授? 彼らは?」
ここにいる研究員たちはどんな人たちなのだろうか?
「彼らは私よりも力は弱いですが理外に通じるほどの力を持った人間たちなのですよ。その上研究が大好きな者たちでしてな。まぁ寿命がいささか長い程度なので、いずれは転生するか別の姿になって研究を続けるか選んでもらう必要はあるのですが……」
教授の言葉を聞いてボクは改めて研究員たちを見た。
首のない姿をした者もいるし、骸骨姿の者もいる。
彼らはそういう種族なのか、それとも姿を変えた者なのか。
「なるほど、です」
「つきましては、主殿にお願いがあるのですが」
「?」
何やら神妙そうな雰囲気を醸し出す骸骨教授。
表情は読めないが、やや困り顔をしているようだ。
「私ではどうにもならない部分。つまり、彼らの姿を彼らが望む通りにしていただきたいのです。まぁ寿命は彼ら次第ということで」
「なるほど。年齢と知識はそのままで転生をしたいということですか」
「えぇ。その通りです。見返りとしましては、研究員の貸し出しと研究所の利用権を出しましょう」
「ふむ……」
研究所が利用できることはうれしいけど、新世界にも施設を作っている。
いずれはここに負けない設備を作りたいと考えているので、どうするか非常に悩むところだ。
でも、ここを利用したからといって作っている施設は必要ないということにはならないと思う。
「悩むのぅ。じゃが、利用はさておき、研究員の貸し出しは受けておいて損はないかもしれぬぞ?」
「そう、ですね……」
ノウハウと知識は大切なものだ。
新世界の研究の発展のためにも、ある程度経験のある研究員に来てもらいたい。
「わかりました。それでお受けしましょう。新世界側にも研究施設はあるので、そちらの発展にも力を貸してもらいますが」
「御意に」
というわけで教授からの手助けの約束を得られたので、まぁ彼らの転生に関しては少しあとになるけど。
「後ほどどうしたいのか瑞歌さんに聞いてもらいますので、その後という形になりますが大丈夫ですか?」
「えぇ、もちろんです」
教授も納得してくれたので、後ほど転生を行おう。
「それで、なんでまた宇宙を探索しにいくんですか?」
「えぇ。前もお話ししたかと思いますが、我々の研究の1つに世界の解明というものがあります。その第一歩として今まで調べた作成済みの宇宙と新しく作った宇宙を比較検証したいと思っていたのです。ところが今までは新しい宇宙を見つけることも新しく作ることも叶いませんでした。なので、どうにかできないか試行錯誤していたのです。ですが、今回! 主殿のお力のおかげで私も宇宙を創ることが叶ったわけです。これはまたとない機会。世界究明という大命の一端をようやくつかむことができるのです!!」
「あ、は、はい」
教授の熱量はすさまじかった。
早口で捲し立てられるだけでなく、圧がすごかったのだ。
それにしても、そんな壮大な研究をしていたなんて。
「この航宙機を使い、成分やそのほかのものを調べる予定です。もちろん、航宙艦の作成も行う予定ですが」
「う、宇宙船?」
「その通りです」
「わぁ」
教授はどうやら宇宙船を作るつもりのようだ。
わ、いいな。
いつか乗せてもらいたいかも。
「興味をお持ちのようですな。まぁ今すぐにというわけにはいきませんが、いずれということで。今は主殿はやらなければいけないことが山積みでしょう」
「あ、そ、そうですね」
残念。
遥の冒険宇宙編は開拓が終わるまでお預けとなってしまったのだった。
「今優先すべきことは、新世界の開拓と流通環境を作ること。それから旧世界に新世界へと繋がる都市を建設すること。ですかね」
旧世界側はまだ手が回っていないので少し後回しになるが、新世界が落ち着けば開始できるだろう。
それと同時に、各地の聖域についても調査しなければいけない。
これは希少種族たちについて調べたり保護することが目的だ。
もしかすると派遣隊だけで済んでしまうかもしれないけど。
「あ、ところで発電所の件ですけど」
「おぉ、そうですな。まずは太陽光発電のほうを先に設置してしまいましょうか」
「やた」
これで教授に頼みたかった電気問題はひとまず解決だ。
あ、でも新世界のエネルギー問題もあるのか。
それも一緒に考えないとだめか……。
開拓だけだと思っていたものの、エネルギー問題という大きな課題が現れてしまった。
ぐむむ。難しそう。
◇
その後ボクたちは新世界へと帰還した。
「ミレ、進捗はどんな感じですか?」
教授たちの研究所入り口から出てすぐの場所にミレがいたので、現在の進捗状況を確認することにした。
「おかえりなさいませ、主様。かの者たちの作った世界はどうでしたか?」
「思った以上に普通の世界でした。宇宙まで創ることができたそうです」
ミレにそんな質問をされたので、見てきたことを簡単に伝えた。
すると、ミレは驚いたような顔をした。
「まさか、かの者たちにそんなことができるなんて……。えっと、進捗についてですがおおむね良好ですね。現在予定されている建物は大半が完成しました。足りないのは住居等でしょうか」
ミレはそう簡単に報告をしてくれた。
現在新世界では主要な施設と拠点で働く人たち用の住居を作ったところだ。
そのほかの移住者たちの住居や商店街などはまだまだ建築中となっている。
「そうですか。商店街などの状況はどうなっています?」
「現在は住居の建築中ですが商店街は必要な部分だけは完成しています。ですが、今後の人口増加量によっては商店街も大きくしていかなければいけないでしょう」
ボクはミレに案内されるままに建築地へとやってきた。
精霊たちやフェアリーノームたちが建築を行っている中、妖狐族を中心とした女性陣は完成している商店街に荷物などを運び込む仕事をしているのが見えた。
「割り振りとかはきめているんですか?」
商店街なので、どこに何を入居させるか決めてから建築しているはずだ。
「文明度は低いですが、一般的な鍛冶屋や武具商店、アクセサリーなどを扱う商店や雑貨商店、符呪などを行うお店や本屋などなど、とりあえず必要になるものを用意しています。現在拠点付近にある飲食店以外の、新しい飲食店に関してはこれからになりますね」
「新しい飲食店は気になりますね。バリエーションは欲しいですし」
一応ある程度の飲食店はあるのだが、人が増えれば足りなくなるのは間違いない。
それに料理も幅広いほうがいいと思うので、バリエーションは増やしておきたいところだ。
よし、もう少し拠点開発をがんばるぞ!!
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