第145話 教授の手助け
教授たちの拠点というか研究所はまるで城塞だった。
あちこちにパイプが伸びていて、いたるところから蒸気が噴出しているのが見える。
「教授ー! ちょっとうるさくないですかー?」
「なんですかな?」
これでも大声を出しているのだが、聞こえにくいようだ。
現在城門とも呼べる門を抜けたところなのだが、歯車が回りピストンが稼働していてものすごい騒音を立てているのだ。
どうやら機械式巻取りの城門のようで、蒸気の力を利用して門の開閉を行っているようだ。
「これー! すごいですねー!」
「そうでしょうそうでしょう! 実に気に入っていましてね」
話すだけ大声を出さなければいけないとはこれ如何に。
しかし、褒められてうれしいのか教授はご機嫌そうだった。
ボクたちが入ってきた門は全員が入ると勝手に重い音を響かせながら閉じてしまった。
しかし、その先にあった光景はもっと驚くべきものだったのだ。
「小型の移動用蒸気機関車?」
目の前には先ほど乗ってきたSLよりも小型の立ち乗り式の蒸気機関車が走っているのだ。
大きな城門前広場には機械式噴水があり、歯車の音やピストンの音と共に水を噴き出して見せていた。
奥には歩行者用の道と石造りの商店街があり、色々な人が歩き回っているのが見える。
特に驚いたのは、魔法使いのようなとんがり帽子を被った人類もいることだろう。
「これは驚いたのぅ。魔界の魔法使いや魔女たちまで出張ってきておるのか」
「魔法使い、ですか?」
「そうじゃ。魔法族ともいうべき者たちじゃな。時々魔族などと呼ばれることもある、魔法の扱いにたけた人間たちじゃ」
どうやらボクたちが出会ったのは、なかなかに珍しい種族の人間だったようだ。
彼らは肌の色も地球人類と同じだし、見た目も変化はない。
外見だけで見極めるのは非常に困難だろう。
「彼らのような種族はどこにでもいるのですか?」
隣にいたお婆様に確認する。
「もちろんじゃよ。わしら妖種が日本におるように、魔法族も世界中におるのじゃ。普段は目に見えないがのぅ」
「へぇ~」
そういえば、ボクたちのような妖種のことも人間たちは知らなかったのを思い出した。
つまり、彼らやボクたちのように隠れて住む種族がまだまだほかにいるということなのだろう。
「さて、進みますぞ」
ボクたちは小型の蒸気機関車に乗り、巨大な城砦内の通りを進んでいく。
時々ゴブリンのような種族やドワーフのような種族を見かけたが、フェアリーノームのような種族を見かけることはなかった。
「ミレたちみたいな種族はいないんですね」
「そうじゃな。ミレたちのような種族は独自の世界を持っておるからのぅ。出向かなくてもどうにでもなるのじゃろう」
お婆様の意見としては、ミレたちフェアリーノームは独自の世界で完結しているので外の世界に出なくても問題がないとのこと。
逆に言えば、魔法族たちは外の世界に行かなければいけない理由があるのだろう。
「ところで教授ってどんな種族だったんですか?」
「私ですかな? なにも珍しくはありませんぞ。過剰に研究にのめりこんでしまった人間でしたからな」
「なんと!?」
意外な話だった。
まさか彼らが元々人間だったとは思いもよらなかったからだ。
てっきりスケルトンか何かだと思っていたのだ。
「そんな驚くようなことでしたかな? まぁ今の見た目からでは想像できますまい。こう見えて、私は元々魔法族だったのですよ。それから科学にも興味を持ち、学び今に至ると」
どことなくニコニコしたようすで教授はそう教えてくれた。
「珍しいのぅ。おぬしが自分語りをするなど」
「いえいえ。少々興が乗ったというだけですよ」
蒸気機関車はいくつもの通りや門を越え、街を越え巨大な城の手前の駅で停車した。
目指すべきはあの城なのだろうか?
目の前に聳える巨城は、石と機械によって形作られていた。
城内には蒸気設備があるようで、城の至る所から白い煙を噴出させている。
「目的地はあの城……ではなく、その手前のドームです。そこが研究所ですぞ」
教授は一旦城を指さすと、茶目っ気たっぷりにそう言い手前にある巨大なドームを指さしたのだ。
ではあの城は一体何なんだろうか?
「教授よ、あの城はなんじゃ?」
お婆様が聳え立つ巨城を見ながらそう問いかける。
「あの城ですかな? 技術力を誇示するためだけに築城したものなのですが……。ふむ。主殿に差し上げましょう」
「へ?」
突然教授にそのような話を振られてしまったせいか、思わず変な声が出てしまった。
「城のようなものを作ったところで我々には必要のないものでしてな。主殿の滞在拠点にちょうどいいでしょう」
一体教授は何を言っているんだろうか。
あんな大きな建築物をほいほいと人にあげるなんてどうかしていると思うんですが。
「おぬし、変わったのぅ」
「そうですかな?」
お婆様にそう言われ、教授は「なにかおかしなことでも?」と言わんばかりの反応を返した。
「いや、言うまい。であれば、遥を城主に据えるが良いかのぅ?」
「もちろんですぞ。その方が箔も付きましょう」
何やら話がどんどん進んでいってしまっていて、ボクの理解が追い付いていない。
というか、お城なんてもらっても使い道ないんですけど!?
「はっはっは。主殿も困惑しておるようですな。いいでしょう。城の方は後程案内するとして、先に研究所へ参りましょう」
混乱するボクを見た教授は、さっそく研究所の扉を開けた。
ドームの中は不思議なことに会社か何かのロビーのようになっていた。
カウンターがあり商談スペースがあり、奥には扉とパーティションに仕切られた空間が存在している。
上下の移動はエレベーター式のようで、ガラス張りの箱が上下を移動していた。
しかも室内には、先ほどまでのスチームパンクな様相は一切なくなっていたのだ。
「では説明いたしますぞ。この研究所ではありとあらゆることを研究しておるのです。例えば一階奥は素材の制作や利用法の確立などを行っておるのです。あとは発電関連ですな」
「発電!!」
「おや? 主殿、どうなさいましたかな?」
「あ、いえ。発電と聞いたのでちょうどよかったなぁと思いまして」
「ほおぅ?」
教授の説明の中に発電という言葉があったので、思わず反応してしまった。
教授にものすごく注目されている。
「もしかして、電気が必要でしたかな?」
「あ、はい。ノートパソコン用に」
「ふむ。いいでしょう。電力供給はお任せください」
「あ、ありがとうございます」
教授には何から何までお世話になりっぱなしのような気がする。
なんだか悪いなぁ……。
「では説明に戻りましょう。研究所地下には各種素材を使った技術開発を行っております。薬などもその1つですな。それから外部農園には新たな食料となる植物を生産しております。まぁまだ研究段階なわけですが」
「農園、ですか」
「そうです。環境要因や病気に強い作物や味の良くなるものとかですな。あとは魔法族用に魔法触媒の開発なども行っております。まぁこちらは2階フロアになるわけですが」
どうやらこの研究所にはいくつかのフロアに分けて研究するものを変えているようだ。
素材の開発や制作、利用法、発電などは1階。
それらを使った技術開発関係は地下階。
魔法技術や触媒の開発に関しては2階と決めているようだ。
付属している外部農園がどのくらいの規模かはわからないけど、今後必要になる作物なども出てくるかもしれない。
なにより、環境要因に強い食料というのは大事になる。
「では、移動しますぞ」
そう言うと教授はエレベーターを動かした。
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