第142話 神様は意地悪
さて、高天原の土地をもらったはいいものの、ここはどういう風に使うべきなのだろうか?
妖精郷にも領地があるわけだし……。
「高天原には通常の人間を招くことはできないけど、女神などの神性があるものなら招くことはできるわよ。事前に私が審査することになるけどね」
天照様は豊かな胸を張りながらボクにそう教えてくれた。
この女神様、何気にスタイルいいんですよね。
「う~ん。何か欲しい物とかありますか?」
「そうねぇ。貴女の新世界の商館をここに作りなさい」
「商館、ですか?」
「えぇそうよ。高天原にはない産品があると嬉しいわね。代わりに高天原の産品を新世界に出してあげるわ」
「なるほど……」
天照様の意見はもっともかもしれない。
あとはどんな産品を出せるかだけど、今のところは【月の雫】とかだろうか?
「天照様、産品というわけじゃないですけど、この【陽光インゴット】と【陽光結晶】なんですが」
そう言ってこの前作った素材を天照様に見せてみた。
するとーー。
「ほかには?」
「え? 【星光】と【月光】で同じものがあります。それと、それぞれの【雫】と【水差し】ですね」
天照様に言われるがままに作った素材を見せてみた。
新しいものとしては【太陽の水差し】と【星明りの水差し】、それと【太陽の雫】と【星の雫】だ。
あ、【恒星炉】なんてものもあったわ。
「……。全部買い取ります。あるだけ渡して頂戴」
「え? あ、はい」
いくらでも作れるので特に問題はないのだが、どうしたのだろうか。
「あらあら。とんでもないものを作ったわね~。天照様の神剣のグレードがまた1つあがるわね」
「貴女の娘、ちょっと有能すぎないかしら? 私の側近にしたいんだけど」
「それはだめです」
「一考くらいはしなさいよ」
何やらお母さんと天照様が言い合いをしているが、放っておこう。
それにしても、この素材は気に入ってくれたのかぁ。
もっと作っておこうかな。
「軽く調べてみたけど、この【恒星炉】とかいうもの、とんでもない代物ね。宇宙にある大質量の恒星と同じくらいの力を秘めてるのがもうすでにバカ。これを使えば神器なんていくらでも安定的に生み出せるじゃない。高天原の鍛冶屋は失職確定ね」
さらっと恐ろしいことを言いだす最高神。
失職だけはやめてあげてください。
「これに値する高天原の産品は今すぐには用意できないわね。代わりに国津神の領分だとは思うけど、天津神の一柱に加えてあげるわ。独立神群でいいから加わっておきなさい」
と、天照様がそのように話す。
けど、ボクにはそれが何なのかわからない。
「遥ちゃん? これは葛葉お母様と同じ待遇ってことよ。今後遥ちゃんは神社で祀られる神様にもなるってことよ」
「えっ」
「とりあえず雄一郎さんにあとで遥ちゃん像を用意してもらわないとね」
「ええええええええ」
何やらおかしなことが起きてしまったようだ。
神社にボクなんかが祀られたら恥ずかしくて死んじゃうんですけど!?
「何もおかしくはないわ。他の神群だって有能な子はほしいのよ? それに、天津神の一柱になったからと言って義務は発生しないわ。そのあたりは安心しなさい」
「わ、わかりました」
良いのか悪いのかわからないけど、ボクはこれを了承した。
こうしてボクはほかの世界の神群の後ろ盾を得たのだった。
◇
その後しばらく商館についての相談を3人でしていた。
結果から言うと、産品については高天原には神性を宿した鉱石もあるので、それらを取引に加えることになった。
あとは細工物といったところだろうか。
それ以外で言うと、召喚の建物は平屋建てだが規模の大きな屋敷を作ることになった。
そこに様々な市や店を設けて取引を行うのだ。
イメージとしては小規模な砦のような感じになるだろう。
「妖精郷の方はどうしましょうか」
「そうねぇ。御神楽家本邸もあるものねぇ」
「じゃあ街の草案をこっちで用意するわ。それを見て修正指示を頂戴」
「わ、わかりました」
「遥ちゃん、新世界の方はどう?」
「お母さん、この前来てましたよね? まぁぼちぼち勝手に建物が増えてます。一部人間も受け入れてますけどね」
とりあえず簡単に近況説明だけしておく。
そういえば、人狼の子はどうなっただろうか?
たぶん慌ててるだろうなぁ。
「何笑ってるの?」
「あ、いえ、新しい住人の子が人狼という種族だったんですけど、人間と同じ見た目になりたいというのでボクの血を与えておいたんです」
「へぇ~? それでどうなったのか楽しみにしているのね?」
「そうです。すでに同じことをやった人がいるので問題ないことはわかってるんですけど、抜け毛の量が多くてびっくりしてたなぁと思いまして」
「ふふ。今度見に行ってあげるわ」
それからしばらく、こんな風に他愛無い話をして時間を過ごした。
◇
「さて、そろそろ人間界に戻りましょうか」
天照様の一言により、ボクたちは神社の社へと戻ってきた。
すると、お父さんが慌ててやってきたのだ。
「若葉さん!? 遥が天津神になったってどういうことですか!?」
慌てふためくイケメンお父さんの顔はなんだかすごく面白かった。
「あら、耳が早いのね? 天照様のおかげでそうなってしまったわ。この奥の社をそのまま遥ちゃんの社にするから改装していいわよ」
「え? 急にそんなことを言われてもなぁ……」
お母さんの無茶ぶりを聞いて困り顔をするお父さん。
どうやら天照様だけが無茶なことを言うってわけじゃないようだ。
お母さんも天照様と変わらない部類の人だったと、今日初めて知った。
「まぁまぁ。ほら、可愛い可愛い娘が神像になるのよ?」
「いやまぁ娘も可愛いけど、息子の時も可愛かったよ?」
「な、何の話をしてるんですか」
この夫婦は何を話しているんだろうか。
というか、息子の時も可愛かったとか、地味に恥ずかしいんですけど……。
「子供が出来ても仲良しな夫婦というのはいいものね。とりあえず雄一郎、貴男は神像を用意することを優先しなさい。社は手配するわ」
「え、あ、はい。かしこまりました」
お父さん大慌てである。
「さて、次はっと……」
あとはすぐにやることはないわけなんだけど、さて、どうしたものか。
「そういえば、遥は学校どうするの? 今の見た目だと小学校が一番いいと思うけど」
突然天照様にそんな心配をされてしまった。
学校かぁ。
忙しくてそんな暇なかったんだよなぁ。
「さ、さすがに小学校は嫌です……」
女子に混じってドキドキしながら着替えをするとかどうなの!?
それはさすがにボクが耐えられない。
というか、絶対見ちゃうじゃん!!
「何変なこと考えてるのよ」
「か、考えてないとですよ!?」
「遥ちゃん……」
お母さんがなんだか悲しそうだ。
それにボクを見る天照様の目も若干冷たい気がする。
「し、仕方ないじゃないですか! 前は男の子だったんですし……」
ちなみに新世界の方では意識する暇はあまりなかった。
フェアリーノームたちとは散々一緒にお風呂に入ったけど、彼女たちはそもそも小さいし、全裸で走り回るのでそういう目で見ることはなかった。
どっちかというと自分の姿を自撮りすることに精を出していたくらいだしね……。
「ふぅん。まぁいいけど。自撮りに嵌って変な写真を送るようにはならないようにしなさい。と・く・に、SNSで貴女は写真を載せることは禁止よ。いいわね?」
「ふぁい……」
天照様に釘を刺されてしまった。
やる気はないけど、自撮りを載せるとか少し気になっちゃうじゃないですか。
まぁ変なコメントついても困るし怖いし……。
「遥ちゃん。お母さん悲しいわ」
「な、なんでですか!?」
ボクは良い性格をした二人に、散々振り回されてしまったのだった。
新世界のみんなはボクに優しいので、なかなか疲れるなぁ。
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