第141話 妖精郷と高天原
数時間ほど色々な人と面接をした結果、第一次募集である程度色んな種族の妖種を集めることができた。
妖狐もいればぬりかべ種族やがしゃどくろ種族、猫又もいれば天狗系も鬼族もいるし、何なら雪女までいる。
一応妖精郷に住所を持っているということなので、通いで新世界と行き来してもらうことにした。
もちろん、向こうにも居住区を用意するので、どちらに住んでも問題ない。
「とりあえず今回はここまでとします。次回近いうちに開催しますので、その時は追って妖精郷のほうに告知を出しますね」
今回眷属にできなかった人たちにはそのように説明して一旦解散してもらう。
環境の問題で眷属にすることができない種族もいたのだ。
「遥ちゃん、ずいぶん色々な種族がきたわね」
「はい。まさか人魚や河童まで来るとは思いませんでした。環境が整っていないので今回は見送りましたけど、仲間としては面白いかもしれませんね」
まだ新世界側には水棲妖種を住まわせられるほどの水環境が整っていないのだ。
「それにしても……」
社の外を見る。
そこには社をのぞき込んでいる大きな一つ目の男の姿があった。
ほかには姿が見えていないらしく、騒ぎにはなっていない。
「異世界に、おらに似合う嫁っこはいるだか?」
「だいだら法師さん、ごめんなさい。今はまだ巨人族はいないんです」
「そうだか……。めんこい嫁っこがいたらいつでも眷属になるからな」
「あ、はい。わかりました」
だいだら法師さんはそう言うと社の外から去っていった。
「う~ん、巨人族、ですか」
「なかなか面白いメンツが集まっているじゃないの。だいだら法師が興味を示すなんて珍しいわね」
天照様も面白いものを見たという顔をしている。
「それにしてもだいだら法師が嫁探しねぇ。日本じゃ無理だから異世界へと考えるのは悪くないわね」
「だいだら法師さんの子供も大きそうですよね」
これはボクの素直な感想だった。
「ところがどっこい、あそこまで大きくなるのはそんなにいないのよ? 最近は人間サイズまで小さくなったりするらしいから」
「え?」
あのビルよりも大きそうなだいだら法師さんが実は希少種?
「先祖返りした個体なのよ。過去には巨人族がいたってのもあって」
「そ、そうなんですか」
「そうよ? だからあの子は珍しいタイプね」
「へ、へぇ~」
はたして、新世界や旧世界などの異世界に巨人族はいるのだろうか。
「さてと、妖精郷を案内するからついてきなさい。ついでに高天原にも来るといいわ。まぁ田舎だけど」
「え、今からですか?」
「今からよ。若葉、貴女も来なさい」
「仕方ないですね」
お母さんも渋々天照様の言葉に従うようだ。
まぁ偉い人だし、仕方ないか。
「そんな顔しないの。ちゃんとご褒美は用意してあるわ」
と、突然天照様がそんな言葉をかけてきた。
顔に出てたかな?
「そんな不満そうな顔されたら困るじゃない」
「遥ちゃん、顔に出てるわよ」
「あれ?」
どうやら顔に出ていたようだ。
「ほら、いくわよ」
「うー、はい」
こうして天照様に拉致され、ボクたちは妖精郷へと足を踏み入れたのだった。
◇
妖精郷は桜の花が咲き誇る、少し不思議な場所だった。
今いる場所は神社のような場所で、目の前に見える光景は日本とあまり変わらないように見える。
なぜかというと、ビルも建っていればアスファルトの道路もあるのだ。
そして道端の木には桜の木が多く、満開の花を咲かせているのが印象的だった。
「近代化してるんですね。イメージと違いました」
これはボクの嘘偽りのない本音だ。
「昔は江戸時代のような風景だったのよ? それが少しずつ日本の歴史を辿るように変化していった結果ね。日本にいた妖種がこっちに来たのも大きかったわ」
「そうなんですか? 昔ってどのくらい前?」
「百年くらい前ね。後追いって感じで時代が進んでいったわ」
「ひゃ、ひゃくねん……。かなり昔ですね」
百年前とは驚いた。
でも歴史的に見ても地方の田舎はまだ江戸時代に近い暮らしだったのかもね。
だとすると、妖精郷は日本の地方と同じような進化をしたのかもしれない。
「じゃあさっそく転移するわよ。まぁ場所はそう遠くはないんだけど」
「!?」
天照様がそう言った瞬間、景色が一気に変わり、アスファルトの道が途中で途切れた原っぱのような場所に出た。
ここは一体……。
「この道から先はしばらく行けば繁華街も駅もあるわ。この原っぱから先は貴女の領地。屋敷に街を作りなさい。あと、私の滞在用の屋敷もお願い。職人は高天原から出すわ」
「えっ、えっ?」
話がトントン拍子で進んでしまうため、ボクは若干混乱している。
ええと、郊外に領地があって、いくらでも拡張していいと。
それと、天照様の滞在用の屋敷も作ってほしいと。
うわあああん、やることがいっぱいですううう!!
「あらあら、遥ちゃん混乱しちゃったわね。天照様? いじめすぎ」
「え? あ、えっと、そ、そんなつもりじゃないのよ? 言い方はあれかもしれないけど、可愛がっているつもりだし……。可愛がらなかったらこんなにほいほい領地や役割を与えたりはしないわよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「そ、そうよ。だから色々あげてるんじゃない」
「そうだったんですね……」
どうやらボクは天照様に可愛がられていたようだ。
もしかして素直じゃない感じなのだろうか?
「はぁ。仕方ないわね。ともかく、ここから見える範囲は好きに使っていいわ。名のある妖種の屋敷なんかはほとんど街みたいなものだったりするもの」
天照様の言う街みたいな屋敷とはどういうことなのだろうか?
街そのものが屋敷ということなのか、屋敷の中に街があるのか……。
すっごく気になる。
「じゃあここにいつでも来られるよう、転移水晶を渡しておくわ。次は高天原よ」
「あ、はい」
ボクが返事を返したのを確認してから、天照様は再び転移した。
◇
やってきた場所はまたまた不思議な場所だった。
まず平原である。
ここはさっきと同じなのだが、空がおかしい。
「空、真ん中を中心に星が回ってる?」
見上げた空には星が輝いていた。
ただし、ちょうど中心の一点を軸にして見える星々が円を描いて動いているのだ。
「世界の中心だからね」
「世界の中心、ですか?」
「そう、世界の中心よ。星々の海も含めてすべての中心なの」
天照様はただ一言だけ静かにそう語った。
ボクは再び上を見上げる。
星々はただ静かにぐるぐると円を描くようにゆっくりと回り続けている。
今見える空は黄昏時に近い色合いだ。
何時なのかはわからないけど。
「あれ? 何か音が聞こえる?」
耳を澄ますと遠くから祭囃子のような音が聞こえてきた。
誰かいるのだろうか?
「天照様、祭囃子のような音が聞こえます」
天照様にそう言うと、ボクはその方向を指さした。
「また宴会しているのね。暇があればすぐ宴会をするんだから」
天照様はうんざりしたようにそう言う。
誰が宴会をしているんだろうか?
「誰だろう? って顔してるわね? 知らなくてもいいわ。酔っ払いに絡まれると面倒だし、あいつらは厄介だから」
「そうですね。遥ちゃん、今宴会をしているのはおそらくスサノオ様たちよ。関わると面倒だからやめておきなさいね」
「わ、わかりました」
天照様の話を聞いていたお母さんがそっとボクにそう教えてくれた。
「スサ君もそうだけど、みんな酔っぱらうと面倒なのよ。まぁ酔っぱらってなくても面倒なんだけど。さて、ただ原っぱを上げただけじゃ意味ないわね。簡単な屋敷を作ってあげる。改造は中で自由にできるわ。私も滞在するからよろしくね」
天照様はそう言うと、パンと手を叩いた。
すると、5階建ての大きな広い屋敷が突然現れたのだ。
「ちょっとごついかもしれないけど、模様替えや外観の変更は中で出来るからあとでやりなさい。後、この屋敷の作り方は後で教えてあげるわ」
天照様は優しく微笑みながら言う。
こんなに大きな屋敷をいきなり作り出すなんて、天照様すごい。
ボクもこの術を覚えたいなぁ……。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価ありがとうございます。




