第140話 天津神と眷属面接
お父さんが宮司を務めている神社の奥、そこには一棟の古びた社がある。
全体的に少し古い作りというだけでボロボロというわけではないのだが、歴代の宮司はなぜか立て直しを行わなかったそうだ。
理由は不明というが、実際には神社自体には主祭神はいるものの、この社には主がいないので高天原からの許可が出ていないというのが理由だそうだ。
ちなみにこの理由は、天津神を認識できる宮司しか知らないそうだ。
なのでほかの人に聞いても「わからない」という返事が返ってくるのだ。
ちなみに、ボクがこの話を知っている理由はただ1つ。
その原因が突如やってきたからに他ならない。
「ふぅん。君が、ねぇ?」
「えっと、あの……」
やや小柄だが気の強そうな目つきをした少女が、ボクの顎を撫でながらそう呟く。
「まぁいいわ。貴女、この社の主をやりなさい。これは天津神としての命令です」
「え、はい?」
何の前触れもなければ何か繋がる話もなく、突然そのようなことを言い渡されてしまった。
なぜ?
「ちょうど葛葉がいたらここを任せようと考えていたのよ。貴女は葛葉と共にあるようだから適任でしょ?」
名前も知らない女神の少女に、そのようなことを言われてしまった。
黒い髪、黒い瞳、巫女服のような服を着た謎の少女である。
顔は強気そうな目つきを含めても可愛らしく、美少女といっても過言ではないだろう。
「天照様? 突然そのようなことを娘に言われても困ります」
お母さんがやんわりと目の前の神様をたしなめてくれた。
ていうか、天照様!?
「若葉、貴女いい加減高天原にこない? 良い領地あるからあげるわよ?」
「天照様、私には家庭もあるので今は無理です」
お母さんは何と天照様の誘いを軽く断ったのだ。
「う~ん、じゃあ、遥ちゃんでどう?」
「それなら構いません」
「じゃあ決まりで」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?」
話がいきなりボクに飛んできたかと思ったら、あっという間に勝手に決まってしまったのだ。
ストップをかけないほうがおかしい。
「別に義務は求めてないわよ? ただこの社の祭神として崇められつつ信者を増やして、眷属や移住者を増やしなさいと言っているだけ。あとついでに高天原に領地あげるから好きに使ってね」
「それってついでに言うことですか!?」
この女神様、もしかして、少し変わってる?
「領地なんていくらでもあるんだからついででいいの。それより貴女が作ったっていう新しい世界の話が聞きたいわ。私、こう見えて世界を作ったことがないから」
「異世界の話でいいんですか?」
「えぇ、構わないわ。私も分体を使って異世界を冒険したことあるし」
「そ、それはどうなんですか?」
うん、確実に破天荒な神様なのだろう。
「ええと、それじゃあ……」
こうしてボクは今までの話を披露してみせた。
恥ずかしいことも失敗したことも、すべて包み隠さずに。
「ふふ、それは面白いわ。それにしても酒呑童子の別個体ねぇ。別個体と言いつつもおんなじ性格なのは笑っちゃうわ」
どうやら天照様が一番気に入った話は酒呑童子さんの部分のようだ。
話を聞いている限り、知り合いなのだろう。
「貴女もあの子に似ているのね。高位次元神の力を得たという点も似ているし。そういう運命なのかしら」
「あの子、ですか?」
「まぁその話はまた今度ね? 言い忘れていたけど、妖精郷にももう一つ御神楽家の屋敷と領地を用意します。新しい領地は葛葉が管理するでしょうから、若葉たちの領地と遥ちゃんたちの領地で協力して運営していきなさい」
またまた唐突にボクたちに領地が増えることになった。
それにしても妖精郷かぁ……。
「妖精郷へ居住できる者は神族と妖種、許可された人間や眷属とされているから、注意するようにね。詳しいことは若葉に聞きなさい。私もそのうち遊びに行ってあげるけどね」
「えっと、はい。あ、ありがとうございます」
どうやら許可さえあれば妖精郷にも人を連れてくることはできるようだ。
まぁそのあたりは後程考えよう。
「さて、今協力できるところはこんなものかしら」
「あ、あの」
ボクは思い切って疑問をぶつけてみることにした。
「何?」
「な、なんでここまでしてもらえるのかなと……」
「そんなの決まっているじゃない。面白いことをしているからよ。私も遊びに行ける世界が増えるし、楽しめるでしょ? それに異世界の物品は妖精郷を通して高天原にも渡ってくるし良いことばかりじゃない。あとはそうね、新神へのお祝いも含めてるわ」
どうやらこの破格なプレゼントは、今後の天照様の楽しみのための先払いという意味も含まれているらしい。
「普通の新神には領地なんて与えないくせに」
「それはそうよ。ただの新神にあげる領地なんてあるわけないじゃない。面白いことをやっていて、しかも着実に成果を出している可愛い子だから優遇しているのよ。それに葛葉の件もあるし」
お母さんの軽口に対して、天照様はさも当然のことのようにそう言うのだった。
「あ、あの、葛葉お婆様とはどのような関係だったんですか?」
これはずっと気になっていたことだった。
「古い友達、ね」
「そ、そうですか」
「そうよ。詳しくはまた今度ね? ほら、眷属希望者が待っているからちゃっちゃと面接しちゃいなさい。私が後ろで見ていてあげるから」
「は、はい」
どうやら今日の面接は最高神も見守るようだ。
き、緊張する……。
というわけで、さっそく妖種の面接が始まったのだが、今回は色んな種族が来ているようだ。
「えっと、まずは種族と得意なことをお願いします」
「はい。私の種族は大元が【ぬりかべ】という妖怪でした。人化できるようになってからは徐々に人型に近づくようになり、私の世代ではほぼ人間と変わりません。守ったり囲ったりすることが得意です」
「なるほど、珍しい種族なんですね」
「はい。数は少ないです。一緒に来た友達はもっと珍しいです」
「なるほど、わかりました」
面接に来た少女は背の高い珍しい種族の少女だった。
どうやら何かやりたいことを探している最中らしく、ダメ元で新神のボクの元へきたようだ。
たくさん人が欲しいので、何かやりたいことを見つける手伝いが出来たらいいけど……。
それから一通り会話をして、ぬりかべ種族の少女を眷属に加えることにした。
「種族と得意なことをお願いします」
「種族はがしゃどくろと呼ばれる怨念の集合体と雪女のハーフです。私はそのような父の妖力とそれを精として孕んだ母の子として生まれました。得意なことは死者との会話や命令と成仏、あとクーラーとか冷蔵庫のようなこともできます」
「が、がしゃどくろですか。また珍しいですね」
「はい。宗教関連の仕事とか神殿の運営のようなことができればと思っています」
「なるほどです。そのあたりはたくさん仕事があるのでぜひお願いしたいです」
こうして、がしゃどくろと雪女のハーフの少女を眷属にすることにした。
「種族と得意なことをお願いします」
「烏天狗です。得意なことは情報の取り扱いといろんな術の行使ですね。何でもできます」
「向こうの世界にも烏天狗さんとか大天狗さんがいるんですよ。色々と交流できるかもしれませんね」
「異界の天狗ですか。すごく気になります!!」
どうやらこの少女は好奇心旺盛なようだ。
天狗族は足りないのでぜひ来てもらおう。
「種族と得意なことをお願いします」
「えっと、ぐ、狗賓、です」
「狗賓、ですか?」
目の前にいるのは狼耳の生えた幼めの少女だ。
背中には天狗の翼があるので、天狗種族だということがわかる。
「狗賓は希少種族よ。数は少ないのにやたら有能なの。愛でるのにもちょうどいいから眷属にしなさい」
ボクが判断に悩んでいると、天照様からそのような助言が出た。
希少種族かぁ。
知ってみるためにも眷属にしてみようかな?
「じゃあお願いします」
「は、はい!」
狗賓の少女は輝くような笑顔でそう返事を返した。
こうして、面接という長い戦いが始まったのだった。
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