第137話 新世界は今日も賑やかです
森の拠点から新世界拠点へと移動する。
通路を開いての界渡りのため、気分が悪くなる子はいなさそうで安心した。
暗いゲートを抜けると馬車は大きな明るい室内に到着した。
荷捌き場だ。
「みなさん、お疲れ様です。今日はまず一日ここでゆっくり過ごしてくださいね」
無表情なアズ以外の少女たち8人は、今いる場所を見て驚いた表情をしていた。
転移部屋に隣接するこの荷捌き場は、今日も今日とて人がたくさんいるからだ。
何台もの馬車が荷捌き場に入っては荷物を降ろしたり積んだりしているし、出発する馬車に至ってはゲートを開いて旅立っていくのだ。
どこをどう見てもあっちの世界にはない光景だろう。
「あの、遥お姉様? 瑞歌お姉様? ここはどこなのでしょう」
前衛盾役の貴族の少女がおずおずと質問を投げかけてきた。
「ここは簡単に言うと異世界ですね。あ、いつでもあっちの世界には戻れますので安心してください」
「い、異世界~!?」
どうやらみんな驚いてしまったようだ。
たしかに、いきなり異世界だなんて言われても困るよね。
「はい。みなさんの部屋は用意させてありますので、街中を見学したりして適当に楽しんでくださいね。人間の住人なんて基本的にいませんから」
人間と妖狐の間状態になった人はいるけどね。
「あ、お帰りなさいませ、遥様」
「ただいまです、ミレイさん」
「せ、聖女様!?」
ボクが帰ってきたことを察知したのだろう、ミレイさんが迎えにやってきたのだ。
それに少女たちが反応している。
「あら? あなた達はエナと一緒に冒険をしているハンターの子たちですね?」
「は、は、はい!!」
回復役の子以外がそう返事を返した。
どうやらあの子が【エナ】らしい。
「ミレイ様、大神殿にいらっしゃらないと聞いておりましたが、この場所でお会いできるとは思いもしませんでした」
回復役の少女ことエナは女性用の神官服を着ている。
そういえば大神殿の神官さんの服って見たことなかったわ。
どおりで知らないわけだ……。
「えぇ。私は今、こちらにいらっしゃいます遥様にお仕えしておりますわ」
「はい? ミレイ様が遥お姉様にお仕え……。えっ?」
そんなことを言った後、エナさんはしばらく言葉の意味を考えていたようだが、不意にその表情が変わった。
「え、お姉様がまさか、そんな!?」
「エナ、どうしたのよ」
「ちょっとまってくださいね、エリー」
「え、あ、うん……」
前衛盾役の少女のうち、エリーと呼ばれた少女はエナさんにそう言われ黙ってしまう。
あれ? よく見てみるとエリーさんの耳って尖っている?
「エリーさんってエルフ系なんですか?」
思わずボクはそう尋ねてしまった。
「そうですよ、遥お姉様。私はハーフエルフなんです」
意外にも気にしていないのかエリーさんは素直に教えてくれた。
「普段は隠ぺいとかしてるんですか?」
「ギルド内ではそうしてます。アルテのギルド見ましたよね? ちょっと顔が良いとすぐにナンパしてくるんです。あそこの男たち」
「あ、あぁ~……」
エリーさんは忌々しそうにそう語る。
そういえばやたらと酒呑童子さんが絡まれていたっけ。
瑞歌さんも絡まれていたけど、なんだかんだ言ってすぐぶっ飛ばしてたような気もする。
「どこのギルドもああなんですか?」
「おおむね……と言いたいところですけど、今のアルテは特にひどいですよ。アルテ北にダンジョンが多くあることもあって一攫千金狙いの男たちが山ほど押しかけてきているんですから」
「な、なるほど」
どうやらアルテはアルテで問題が山積みなようだった。
「あの、遥お姉様」
そう言って声を掛けて来たのは、もう一人の盾役であるマリアさんだった。
「どうしました?」
「じ、実は、武具を見たいと思いまして」
少し顔色を窺いつつ自身の要望を伝えてくるマリアさん。
貴族のお嬢様のはずなのに少し小動物みたいで可愛らしい。
「そうですね、ちょっとみなさんで行きましょうか。ミレイさんも一緒に行きましょう」
「はい」
というわけでミレイさんを引き連れ、荷捌き場の外へと出ることになった。
「あれ? 市場ができてますね」
いつの間にか広場に市場が出来ていた。
「露店商の方の種族ですが、見たことありませんね」
盾役のマリアさんが見ているのは、なぜか当世具足一式を売っている妖狐族の露天商の女性だった。
「!?」
短剣職の少女が何かを見つけたようで激しく反応した。
「どうかしましたか? カゲツ」
「あの短剣、ほしい」
【カゲツ】と呼ばれた少女はマルムさんたちと同じ人狼族の少女だ。
人間型獣人になる前のマルムさんたちと同じ種族なので、シャープな当然狼のような顔をしている。
「あの鎧、不思議ですね」
どうやらマリアさんは当世具足が気になるようだ。
「ひぃっ!?」
そんな中、突如露店前に現れた当世具足を身に着け、鬼のような面頬を付けた妖狐族の男性が現れた。
見慣れないその姿に、少女たちは軽く悲鳴を漏らす。
「あぁ、すまない。具足に興味があったようなのでね」
そう言って笑いかけてくる妖狐族の男性。
どうやらパフォーマンスのために着用しているようだ。
「おや? これはこれは酒呑童子様ではないですか。それと姫様、このような世界を用意していただきありがとうございます。おかげで新しい商売が出来そうです」
さすが妖狐族というべきか、酒呑童子さんのことは知っているようだ。
というかボクのことも知っているってことは、実近さんの関係者だろうか。
「あー、お前は確か衛兵隊の鎧鍛冶師だったか」
「鎧鍛冶師?」
「おう。実近のおっさんの直轄だな」
どうやら実近さんの関係者で間違いないようだ。
「実近さんかぁ。お母さんの言っていた計画本当にやるのかなぁ」
妖都移転計画というか世界融合計画は本気でやるつもりのようだ。
「こちらの衛兵隊にも具足を支給することになりましたからね。今露店で販売している物はややグレードを落としたものにはなっていますけど」
「へぇ~」
戦国時代の具足の写真で見たような物も並んでいる。
これを着用して戦陣を組むわけか……。
うん、どう見ても怖い。
「遥様、お帰りなさい」
「お帰りなさい~」
「あ、マルムさんにセリアさん」
露店を見ていると、不意にマルムさんとセリアさんに声を掛けられた。
「なんだか前よりも強くなりました?」
「お、わかります?」
「遥様の眷属になって、この世界で大型獣を狩りまくっていたらいつの間にか強くなっていましたね~」
マルムさんはただでさえスレンダーな美人さんだったのに、美しさと強さに磨きがかかったように輝いて見えていた。
セリアさんも魔力量が増大し、その上妖力まで身に着け始めていたのだ。
これはもう新種の妖種認定をしてもいいかもしれない。
「ところでその子たちは? どこかで見たことあるなぁ」
「あら? カゲツちゃんにミルフィーちゃん」
マルムさんはうろ覚えのようだが、セリアさんは知っていたようだ。
ちなみにミルフィーと呼ばれた子は魔法職の子だ。
雰囲気がなんとなくヒンメスさんに似ている。
「え、だれ、ですか?」
「もしかして、セリアさんですか?」
「そうそう。そして、こっちの黒いのがマルムよ」
見た目が完全に変わってしまったせいか、アルテ所属のハンターの少女たちには判別が出来なかったらしい。
「え、マルムお姉ちゃん!?」
「あ、カゲツもいたのか。相変わらず小さいな」
「ち、小さくないです! というか姿がすっかり変わっています。もしかして前々から言っていた願いが叶ったんですか?」
「そうそう。遥様のおかげでね~。いや~、本当に嬉しいよ」
「ず、ずるいです。私も同じようになりたいです」
「だって。遥様、どうでしょう?」
ほのぼのとした姉妹の会話だったはずなのに、なぜか急にボクに話を振られてしまった。
どうといわれてもなぁ……。
「えっと、カゲツさん次第じゃないかと」
「だってさ」
「遥お姉様、お願いします!」
「え? あ、はい」
割と食い気味にお願いをしてくるカゲツさんにボクは若干引き気味だった。
まぁいいならいいですけど……。
「じゃあ今日の夜にやりますね」
「お願いします」
こうしてカゲツさんの眷属化を行うことになったのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価ありがとうございます。
今後は開拓を続けつつ日本からも移住者を募集することになります。
技術導入を目指せ!!




