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第136話 狼と拠点と少女たちの役割

 大きく遠回りをすることになったが、ボクたちの馬車は拠点への帰還を始めていた。

 ダンジョンに設置していた転移水晶は、強力な隠ぺいをしたまま置いてきたので拠点から転移することもできる。


「馬車旅は相変わらず順調ですね」

 旅というほどの距離ではないのだが、揺れない馬車に乗ってペガサスさんに牽引されているというのは中々心地が良い。


「遥、狼の群れが付近にいるようだぜ?」

「狼ですか……」

「あの……!」

 さて、どうしよう? そんなことを考えていると不意に背後から声がかかる。

 振り向いてみると、8人の少女のうちの1人がボクの背後に立っていた。


「どうかしましたか?」

 何かやりたいことでもあるのだろうか?


「狼退治、私たちに任せてくださいませんか?」

「構わないですけど、酒呑童子さん、何頭います?」

「20頭だな。まぁまぁの規模だ」

 ふむ、20頭か。


「じゃあ10頭はお任せします。残り10頭はボクたちで処理しますね。もし手に負えないときはボクたちに擦り付けてください」

 どんなにベテランであってもミスをすることはあるので、いつでも対応できるようにしておこう。


「はい!!」

 少女の元気な返事を聞いて、ボクたちはさっそく狼の元へと向かっていく。


「森の中に狼が集団でいますね」

 現場付近で気配を辿ると、森の中にたくさんの狼がうろついているようだった。

 ちょうどお食事中のようで、獲物は大きなヘラジカのような動物だということもわかった。


「でっけー鹿だなぁ。野生の鹿って寄生虫多いのによく生で食えるよな」

「うへぇ」と呻きながら酒呑童子さんはそう感想を口にする。

 むしろ、ボクは酒呑童子さんなら生でもいけるかもって思っていました。

 

「遥お姉様、瑞歌お姉様、酒呑童子お姉様、行ってまいります!」

 8人の少女たちはそれぞれ役割が決まっているようで、盾役2名、戦士2名、短剣職1名、弓職1名、魔法職1名、回復職1名という構成だった。


「盾役2人なんですね?」

「はい、私がメインでこの子がサブです」

「長時間戦うときは交代して引き受けたりするんですよ」

 まるでゲームみたいな戦い方で面白いなぁ。


「では、先に突入します」

 そう言って一礼をして去っていく少女たち。

 彼女たちはそのまま、弓職の攻撃を皮切りに、狼たちとの戦闘を開始した。


「さて、こちらも半分引き受けましょうか」

「おうよ」

「では私と瑞葉は休憩場所を用意しておきますわね。アズラエルさんは結界の準備を」

「わかりました」

「お母様、頑張ってください!!」

「はい!」

 瑞葉の応援を受けて、ボクたちも早速動くことにした。

 最初に切り崩しに動いたのは、ミレたちだ。

 小さい彼女たちは狼から見れば絶好の餌でもあるのだ。


「ミレ、ファイト、です」

 ミレたちは手を振ると狼の群れに突っ込んでいく。


「アオオオオオン」

 少女たちを取り囲もうとしていた狼は、新たに現れたおいしそうな少女を獲物として認識したようだ。

 しかも数は3人。

 シーラは戦闘向きではないので後方待機をしている。


 狼たちが来たことを確認したミレたちは、さっそくボクたちのほうへと逃げてくる。

 当然その後ろを狼たちは追う。

 武装した大きめの少女たちよりも薄着の幼い少女たちのほうが狼にとっては襲いやすいと見えるのだろう。

 牽制に10頭残して、きれいに10頭がこっちへ向かってきたのだ。


「てやぁ!」

「そっち行きましたわ!」

「任せて!」

 10頭の群れに翻弄されつつも盾役2人が上手く攻撃をさばきつつ、1頭1頭確実に仕留めていく。


「射貫く!」

 隙を見て弓職の少女が狼の頭部に矢を命中させた。


「キャウン」

 何が起こったのかはわからないが、射貫かれた狼は頭から吹っ飛ぶと一回転して地面に転がってしまった。

 その身体は地面に落ちた後もピクピクと痙攣している。


「まだまだ行きます!」

 吹っ飛ばされた仲間を見て、ほかの狼たちは警戒しながらも少女たちを睨みながら唸っている。


「【炎よ、穿て!】」

 魔法職の少女がそう唱えた瞬間、5本の炎の矢が狼たちを襲った。

 1頭の狼はそれを寸でのところで回避したが、「甘い」といって突っ込んできた短剣職の少女によって首を引き裂かれてしまった。

 どうやら一撃離脱型のようだ。


「みなさん、回復しますね」

 そう言って回復職の少女は杖をくるくると回して、地面を杖の石突で叩いた。

 すると、魔法陣が広がり地面から光の粒子が立ち上る。

 それを受けて、盾役たちは回復しているようだった。


「おいおい、やるじゃねえか」

「驚きましたわね」

 酒呑童子さんも瑞歌さんも少女たちの戦い方を見て感心している。

 たしかに危なげない戦い方だし、思い切りもいいと思う。

 実は結構ランクが高いんじゃないのかな? そんな子が抜けて大丈夫?


「堅実な戦い方が人間らしくて好感が持てますわね」

「ああいうのはオレたちにはできないからな。おらよ!」

 酒呑童子さんに向かってきた狼は、酒呑童子さんの一撃によってきれいに吹き飛ばされてしまった。

 彼女にとっては狼なんて物の数じゃないのだろう。


 それからしばらくしてすべての狼を討伐し終えたようで、少女たちも狼の死体を引きずってこちらに合流してくる。

 良い戦いだったのか、返り血を浴びながらも一様に笑顔だったのが印象的だった。

 まるでスポーツでもしていたかのようなノリだ。


「お姉様たち、どうでしたか?」

 少女の一人がボクたちに感想を求めてくる。


「素晴らしいです。なかなかの連携だったと思います」

「あ、ありがとうございます!!」

 攻撃を受けては吹き飛ばし、注意を逸らしては攻撃を加える。

 魔法や矢で牽制しては隙を見て一撃を与える。

 それが彼女たちの戦い方だった。


「お姉様たちの戦いも見てましたけど、一言で言って凄まじいですわね」

「狼がおもちゃか何かのように飛んでいきました」

「お姉様たちを敵に回したらと考えると怖いですね……」

 どうやら彼女たちもボクたちの戦いを見ていたようだ。

 まぁすごいのはボク以外の子たちなんですけど。

 特にミレたちは斧を持ったりして果敢に飛び掛かるので、怖いことこの上ない。


「では獲物は到着したら解体しましょう。ミレ、仕舞っておいてください」

 ミレたちにお願いすると、20頭の狼を次々と【空間収納】に放り込んでいく。

 あっという間に奇麗になったので、あとは返り血などを落として馬車に乗り込む。


「さぁ、出発です」

 一息ついたところで再び馬車が動き出す。

 

「じゃあ森の奥に入りますね」

 そう言った瞬間、少女たちの顔が真剣な表情になる。


「お、お姉様? 森に人間が入ることはできないのでは?」

「ハーフエルフやエルフ、ハイエルフなどのエルフ種族は何とか入れますけど、人間はダメだと聞いたことがあります」

 どうやらパーティーにエルフ系の子がいるようで、こういった森の情報明るいようだ。


「大丈夫ですよ。ボクが許可を出していますから」

「えっ?」

 少女たちはボクの言葉の意味が分からないようで、混乱したような表情をしている。

 馬車はそんな少女たちの懸念を置いてけぼりにしながらどんどん進んでいった。


 馬車は進み、やがて大きく拓かれた場所へとたどり着いた。

 そう、ボクたちの拠点だ。


「森の中に大きな木の家……?」

「ここがお姉様たちの拠点、なんですの?」

 少女たちの驚きようは中々だ。


「そうですね。まぁここは仮拠点ですが。色々考えたんですけど、みなさんにはこのまま本拠点のほうに来てもらいます。あとでこちらに戻ってくることになるとは思いますけど」

「本拠点……?」

「はい。このまま馬車で移動しますね」

 ボクはそれだけ伝えると、拠点の転移部屋へと馬車を進めるのだった。

お読みいただきありがとうございます!

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