第135話 森へ帰ろう
瑞歌さんが手に入れてきた理外の者の核。
1つはこの世界に【亜神】が侵入しないようにするために使うとしよう。
【亜神】こと【理外の者】は、力を手に入れて通常人類よりも上位の存在となったが神に至れない者のことだ。
大抵は手に入れた尋常ならざる力を使って、世界で暴れたり復讐をしたものが行き着いた姿である。
そんな【理外の者】だが、混沌で生まれた瑞歌さんや教授たちのようなタイプは別の理由でそうなったようだ。
まぁボクのお婆様の場合はほとんど復讐のような理由なんだけど。
「さて、まずはこの核をどうしようかなぁ……。【アイテムクリエイト】で何か作れないか確認してみよう」
さっそく黒い結晶を【空間収納】に放り込む。
それから適当にリストを確認しながら作れそうなアイテムを探した。
「ふむふむ【ゲートガーディアンの製造】に【空間守護者の製造】ねぇ」
大層な名前ではあるのだが、いまいちピンとこない。
特に【空間守護者の製造】が一番よくわからないのだ。
「瑞歌さん、【空間守護者】ってなんですか?」
ちょっと唐突だろうか? 問いかけられた瑞歌さんがぎょっとした顔をしている。
「遥お姉様、それをどこで知りましたの?」
「え? スキルに載っていたんですけど」
「スキルに、ですか……」
瑞歌さんはそう言うと黙り込んでしまった。
そしてしばらくして口を開いた。
「それは【流浪の船団】とか名乗っている別次元からやってきた存在が作り出した防衛者ですわ。一体作るだけでも十分クズどもを防げますわね」
そう説明する瑞歌さんの口から、また新しい言葉が出てきたのだ。
【流浪の船団】ってなんなんだろう?
「その【流浪の船団】というのはどんな人たちなんですか?」
船団というくらいだからたくさんの船のようなもので移動しているのだろう。
「謎が多いし目的もわかりませんわ。ただ彼らは人間型をしていますの。つまり、人類に繋がる何かですわね。敵対してきたクズどもを時々狩っているようで、クズどもは彼らを恐れているようですわ」
瑞歌さんの説明を聞いても回答につながる答えは得られなかった。
「まぁ今考えても仕方ないですね。とりあえずこの黒い結晶から作れるようなので、最低でも【理外の者】くらいの力がないとだめなんでしょう」
まぁこの2つを作るのは少し後回しにしよう。
まずはこのダンジョンの探索を資源の回収をしなければいけないからね。
というわけで、ボクたちは手分けしてダンジョン内を物色して回った。
このダンジョンの管理権限はボクにあるらしいので、何の抵抗もなく昔の資料や素材などが集まっていく。
まぁこのダンジョンを開放することがあったら少し中身を入れ替えておこうかな。
「じゃあ帰りましょう。ところで、行方不明者はどうやって運びましょうかね……」
「お母様、このダンジョンには排出機能があります。最初に死んでしまった人たちを地上に送ったのもその機能によるものです」
「排出? 脱出とは違うんですか?」
そういえば誰もいないのに死体が上げられていたっけ。
てっきり下まで降りて探索したのかと思ったんだけど……。
「脱出機能は任意の場所へ出ることができますが、排出機能は崖の上の地表に転送するだけです。このダンジョンに入ったのは、私たち以外では先ほどの行方不明者さんたちだけです。記録によると僧兵さんたちは濃度の高い魔素の影響を受けて撤退したようです」
「なるほど。では、行方不明者さんたちは地上へ排出しておきましょう。それと、侵入口となった穴は修復します」
「わかりました。私がやっておきますね」
瑞葉はそう言うとコアをいじりはじめた。
その瞬間、ゲートのある部屋の壁に光が走る。
「お母様、修復機能正常に作動しました。これより、3人を地上に排出します」
「お願いします」
そういった瞬間、手当てをされた3人の姿が掻き消えたのだ。
「スクリーンに映しますね」
瑞葉の言葉から少し後、空中投影型のスクリーンが現れダンジョン周辺の様子を映しだした。
『おい、ニム様だ! ほかにもいるぞ!!』
『脈は……。あるな。死んでいないようだ。外傷もない』
『急いで搬送の準備をしろ』
地上では僧兵さんたちが、突如現れた行方不明者たちの対応に当たっていた。
大急ぎで検査をしたり調べたり、搬送の準備をしたりしていて大変そうだ。
『しかしなぜ急に』
『わからん。神殿を調査してみよう。降りるぞ』
『はっ』
やはり突然行方不明者が現れたことで僧兵さんたちは不信感を持ったようだ。
数人が崖下へと降りようとしている。
「彼らは降りてこられるんでしょうか」
「いえ。このダンジョンは完全に目覚めました。侵入防止機能が動作しているため崖下に降りることはできません」
瑞葉がそう言うや否や、スクリーンからは慌てたような声が聞こえてきた。
『な、なんだこれは!? 降りることができないどころか侵入することもできないとは』
『どうやら亀裂に沿って結界が張られているようです。これは一大事です、報告しなければいけません』
『監視員と護衛を残し、他は一時神殿に帰投する』
どうやら彼らはこの異常事態を報告することにしたようだ。
スクリーンには馬に乗って走っていく僧兵たちの姿が映っていた。
「あ、これどうしましょう」
僧兵さんたちが大挙して押し寄せてきたら大変だ。
「この結界でしたら彼らには破れませんわ」
「はい。どこからでもコントロール可能ですので、1回帰ってもいいと思います」
どうやら瑞歌さんも瑞葉も同じ意見のようだ。
であれば、残してきたみんなと合流して森に帰るほうがいいだろう。
「では、馬車まで戻りますよ」
こうしてボクたちは馬車の場所まで転移した。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
ボクが来ることが分かっていたのか、転移した直後にアズラエルにそう言われてしまった。
「ただいま、です。すごいですね、アズラエルさん」
いったいどうやって感知したのだろうか? そう思って言葉をかけたのだが、アズラエルさんには首を傾げられてしまった。
「すごい、ですか?」
「はい。ボクたちが来ることを分かっていたようでしたので」
ボクの言葉を聞いたアズラエルさんは、優しく微笑むと「もちろんです」と返してきた。
それもまるで当然かのようにだ。
「天使族は常にご主人様の居場所がわかります。なので例え姿をくらまされていても見つけることができるのです」
どうやら彼女たちにとっては本当に当然のことだったようだ。
「アズラエルさん、名前を短くして呼んでもいいですか?」
フルネームでもいいのだが、呼びやすいほうがいいだろう。
「もちろんです」
アズラエルさん、即答である。
「じゃあ……、【アズ】で」
「かしこまりました」
アズさんはニックネームをつけられたのがうれしいのか、珍しく嬉しそうな表情を見せてくれた。
「じゃあアズさん、みんなで森に帰りますよ。準備をしてください」
「仰せのままに」
そう返事をしたアズさんは、休憩設備を展開していた馬車周辺の片づけを始めた。
すると、馬車の周囲にいた少女たちが集まり、みんなで片づけを手伝いはじめた。
「よし、ボクも手伝いますね」
「お母様、私も手伝います」
「しゃーねーなー。オレも手を貸してやるぜ」
「では、私はミレさんたちと一緒に周辺の警戒をしておきますわね」
こうしてボクたちは準備と整え、森へと戻ることになった。
新しく住人となるアズや8人の少女たちが馴染めるよう最善を尽くそうと思う。
まぁ問題は、ちゃんとした建物はまだ新世界にしかないことなんだけどね……。
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