第134話 ダンジョンコア再起動
瑞葉はダンジョンコアに近づくと、確かめるようにペタペタとその丸いボディを触り始めた。
しばらくすると、首を傾げた瑞葉がこっちを向く。
「お母様、この子眠っています。どうやら過負荷がかかってしまったらしく、自分で再起動できないようです。困りました」
瑞葉ではどうすることもできないのだろうか? 眉をひそめてむむむと唸っている姿が見える。
「瑞葉ではできないのですか?」
「今の私ではだめです。あ、そうです。お母様なら大丈夫なはずです。お母様がこの子の再起動が出来れば私もこの子とそれに連なる子たちを再起動する権限を得られますので」
瑞葉は両手を合わせて組み、祈るようにしてボクにそう提案した。
やり方は瑞葉の時と同じで良いのだろうか?
「わかりました。とりあえずやってみますね」
瑞葉のお願いとあればやらないわけにはいかない。
さっそく機能停止しているダンジョンコアに触れてみる。
「あー。なるほど、ここがだめなんですね」
触った瞬間、コアの何がダメなのかという情報が頭の中に流れ込んできた。
なんとこのコア、この球体の中にまるで電子基板の回路のようなものが作られているのだ。
つまり1つのコンピューターといえるというわけだ。
人間でいえば脳の神経細胞のようなものだろうか。
「う~ん。修復には、そうですね。月の雫を使ってみましょうか」
月の雫を片手の手のひらに垂らし、ボクを経由してコアの中に送り込む。
そして送り込まれた月の雫を修復する箇所に配置して、繋ぎなおす。
これにより、このコアは自身の意思で再起動することができるだろう。
しばらくすると、コアは再起動ができたようで周囲に明かりが灯り始めていく。
すると室内がだんだんと照らされ、その全容が見えてきたのだ。
「この部屋は球体なんですね」
「なかなかの大きさの部屋だな。一体誰が作ったんだ?」
どうやら酒呑童子さんも興味があるようだ。
「う~ん。古代の人、でしょうか? それとも教授たちか……」
どちらが作ったのかはわからないが、この球形の部屋は奇妙なブロックを隙間の無い壁で構成されていた。
ボクたちが入ってきた場所だけが唯一の出入り口のようだ。
「あ、お母様。再起動が完了したみたいです。私でもアクセスできるようになりました」
そう言って瑞葉は、コアを操作して色々なことをやってみせた。
魔物を作り出したり、部屋の一部をカフェに変えてみたりと結構やりたい放題だ。
「ダンジョン内カフェテリアが出来ちゃいましたね」
「えへへ」
結局瑞葉は、このコアルーム? と思われる場所にカフェテリアを作り出してしまった。
そして今、ミレたちも含めボクたちは全員ティータイムへと移行していた。
「こういうのもなんだけどよ、なんでここでケーキとか出てくんだ?」
そう言う酒呑童子さんの目の前には、イチゴのショートケーキが置かれていた。
しゃべると粗暴な感じなのに、いちいちチョイスが可愛らしい。
「周囲の魔素などを使って生み出しているんです。今回はお母様の使用した月の雫からエネルギーを得ています」
得意げにそう語る瑞葉だが、ボクは疑問を抱いていた。
そもそも、ダンジョンコアはなんで物を生み出せるのだろうかと。
これは言ってみれば、ボクやお爺様の力そのものといってもいいだろう。
「お母様? どうなさいました?」
「いえ、なんだかコアって不思議だなと思いまして」
小首を傾げながら問いかけてくる瑞葉に、ボクが考えていることを話した。
すると、意外な言葉が返ってきたのだ。
「ダンジョンコアのルーツは異界の環境開発ツールだと、古い記録に残っています。つまり、住めない環境を住めるように改造したり、何かを対価にして何かを生み出せるようにしたりする道具ということです」
「テラフォーミングとかそういうことですか」
どうやらダンジョンコアは元々、そういった通常状態でない環境用に作られたもののようだ。
ということは、技術の流入元はもっと別のところなのだろう。
「ですので、たとえこの世界が汚染されて破壊されつくしてしまったとしても、再生させることが可能なのです」
「へぇ~」
思った以上にダンジョンコアは万能なようだった。
さらに言えば、これは緊急事態用のツールなのだ。
「そういえば、瑞葉はこのコアが上位のコアだと言っていましたね。どういう意味ですか?」
気になるのはここに入る前に言っていた瑞葉のセリフだ。
「はい。今は私のほうが性能的に上ですが、もともと私はここのコアよりも下位のコアでした。上位のコアはある程度力が溜まると新しいコアを生み出すことができます。私にはそう言うことはできません」
どうやらダンジョンコアは、より上位のコアが新しいコアを生み出すことで増えているようだ。
つまり、瑞葉の母役的なコアもいるということだろうか。
「瑞葉はどうやって生まれて来たんですか?」
少し気になるので聞いてみることにする。
「意志の無いコアはより上位のコアから生まれます。コアとしての私を生み出したコアは寿命を迎えてしまったようで消滅しています。なので私のお母様はお母様だけです」
「そうなんですね。寿命、あるんですか」
瑞葉が体を寄せてきたので、頭を軽く撫でてあげる。
「えへへ~」
何が嬉しいのか、だらしない笑顔で瑞葉は笑っていた。
「しっかし、お前ら仲良いよなぁ」
「そうですかね?」
何やら酒呑童子さんがむっとしている様子。
「最初は戸惑いましたけど、今はなんだかんだ言って親子関係を楽しんでいますよ」
これはボクの噓偽りのない本音だ。
「まぁなんだかんだで言って面倒見のいい葛葉の孫ってんだから間違いではねぇか。そういうところは葛葉に似てるよなぁ」
「そうですかね?」
この返し、二度目になってしまった。
でもボクとお婆様はそんなに似ているのだろうか?
「黒いお母様は怖くて凛々しくてかっこいいです。お母様は優しくてあったかくてほんわかしていて可愛いです」
「はは、言うじゃねえか」
「えぇ。ボク、かっこよくない?」
「はい。お母様は可愛らしいです」
「えぇー……」
ショックだ。
瑞葉はボクのことをそういう風に思っていたのか……。
「いいじゃねえか。可愛かろうとよ」
「だって~……」
ボクが何とか抵抗していると、ちょんちょんとボクの腕をミレが突いた。
「どうしたんですか? ミレ」
ボクがそう言うと、ミレはボクの頭を撫でて来た。
どうやら慰めているらしい。
「あ、私もやりたいです!」
「んじゃオレも」
「あ、はい……」
なんだかわからないうちに、ミカやミナ、シーラまで参加してボクの頭を撫で始めたのだ。
はげないか心配になってきた……。
「ただいま戻りましたわ」
そんなこんなでバタバタしていたティータイムも落ち着いたところで、やっと瑞歌さんが戻ってきた。
その手には20個もの黒い結晶があった。
「それ、どうしたんですか?」
瑞歌さんが手に持っている黒い結晶を指さしながらそう尋ねる。
「あぁ、これですの? ゲートの向こう側がダンジョンみたいになっていたので攻略してきましたわ。ついでに最奥にクズどもが20体もいましたので殲滅してきたのでお土産にと思いまして。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
この結晶を持っていると、蹂躙されていった理外の者のことを思い出してしまった。
おそらくこれも、瑞歌さんが高笑いと共に蹂躙した結果なんだろう。
「瑞歌さん、やっぱり強いですよね」
「そうでしょうか? 葛葉お姉様はもっと強いですわ。それにお姉様もクズどもの身体を容易く引き裂いたではありませんか。誰にでもできる芸当ではありませんわ」
瑞歌さんは微笑みながらそう言うと、ボクたちと一緒の席に着いた。
これはもう少しティータイムが続きそうだ。
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