第125話 エディとアズール
少し胸糞悪くなる可能性があります。
本作ではあんまりシリアスな状況は作らない予定です。
さて、話は変わり酒呑童子さんたちの様子はどうなったかを確認してみよう。
ボクたちはお茶会を一旦停止し、酒呑童子さんの様子を見に行くことになった。
何やら件のエディさん? と酒呑童子さんがハーレム加入をかけて戦うそうだ。
場所はギルド内訓練場とのことで、久しぶりのバトルということで盛り上がりを見せていた。
さて、そんな二人の様子はどうかというと、方やエディさん? は鼻息を荒くして素振りをしていた。
酒呑童子さんが加入したらどんなことをしてやろうか、そんな下種なことを考えているのだろう。
なんとなくほかのメンバーとのやり取りを見ていたが、彼はマウントを取りたがる人種のように思えた。
たぶん支配欲が強いのだろう。
「エディ、負けたら承知しないわよ」
「大丈夫だって。俺が負けたことなんてないのは知っているだろう?」
「俺は負けない! この聖剣アズールがあるんだ!」
得意げにそう語ると、一本の剣を高々と掲げた。
アズールという名前だそうだが、刀身は黒い。
どう考えても変だ。
「ねぇエディ? その剣、【魔剣アズラエル】じゃなかったっけ?」
「俺が持つんだから聖剣なんだよ!」
「そういうものかしら?」
二人の会話から分かったことだけど、あの剣は【魔剣アズラエル】というらしい。
地球では死を司る天使の名前だったかな? 断罪とかそういう意味もあるようだ。
ということは、それに応じた能力があるのだろう。
「酒呑童子さん、気を付けてください!」
「大丈夫だ、任せろ!」
ボクの心配をよそに酒呑童子さんはやる気満々な様子だ。
それにしても……。
ボクはちらりと件の魔剣を見る。
すると魔剣がピクリと動いたような気がした。
「お姉様? あの男の能力ですが」
「どうしました?」
瑞歌さんがそっとボクに耳打ちして教えてくれた。
「あの剣がすべての元凶です。周りの女性もあの男の力も、すべてあの剣によるものです」
「周りの、女性……」
そう言われてエディさんの周囲を見る。
集まって応援する女性たち。その姿はハーレムそのもの。
「魅了?」
「そうです」
どうやらあのハーレムはまやかしのものだったようだ。
「この聖剣アズールは持ち主となるものが現れたときのみ装備することができるという! つまり、俺が勇者というわけだ!!」
自信満々にそう宣言するエディさん。
観衆はよくわからないが大いに盛り上がっている。
たぶん彼はマイクパフォーマンスの才能があるのだろう。
ハンターができなくなったら是非ともプロレスラーの仕事を紹介したい。
煽りに煽るけど弱いマイクパフォーマンス担当として。
「それでは両選手、入場!」
訓練場であるはずなのにまるで闘技場であるかのようだった。
最近全く会えていないけど、イーサさんはこういうの好きそうだよね。
イーサさんが落ち着いたら開催してあげようかな?
「この戦いを戦と正義と太陽の神イーサ様に捧げるものとする!!」
2人が入場し終え、司会者がそのように宣誓する。
その瞬間、一瞬空が煌めき薄っすらと人影が見えるのをボクは見てしまった。
「イーサ神の承認が下りた! 始めええ!!」
それにしても司会者のテンションがすごく高くてボクは驚いた。
ちらりと空に目を向けると、人影ことイーサさんはバツの悪そうな顔をしてその場所に佇んでいるのが見えた。
しきりに謝っているところを見るに、厄介ごとは片付いていないようだ。
イーサさんかわいそう。
「さぁ、両者配置につきました。司会の合図と共に真っ先に動いたのは自称勇者のエディ君だ! 相変わらず速い!!」
視線を訓練場に戻してみると、すごい速さでエディさんが酒吞童子さんに近づいているのが見えた。
たぶん剣の力なのだろう。
対する酒吞童子さんはといえば、面倒くさそうにあくびをして佇んでいる。
「おおっと、酒呑童子ちゃんはエディ君の動きを追えていないようだ! いまだその場に佇んでいるううう!!」
進行役の人のテンションがおかしい。
なんか競馬の実況中継を見ている気分になってきた。
「さぁ、エディ君、一撃をはなあああつ!!」
進行役の人の実況通り、エディさんは今まさに酒呑童子さんに一撃を放とうとしていた。
しかしその瞬間。
「よう。遅かったじゃねえか」
「なっ!? がっ!?」
酒呑童子さんはそう言うと、急接近してきたエディさんの顔をガッと掴んだ。
「んじゃ、あばよ」
その直後、酒呑童子さんはエディさんの顔面を掴んだまま空に放り投げ、そして……。
「おらぁ!!」
一言気合を入れるようにして吠えた。
その瞬間大気が震え、訓練場の床にひびが入り、観衆がひっくり返った。
後に残ったのは、主を失った魔剣アズライールだけだった。
「ちっ、あっけねぇな。んじゃ、オレは戻るぜ」
そう言って宣言を待たずして酒吞童子さんは訓練場を後にした。
それからしばらくすると、「ああああああああああ」という情けない声と共にエディさんが空から降ってきて、衝撃をある程度吸収出来そうな馬車の屋根に突っ込んでいった。
なんとも情けない終わり方である。
「酒呑童子さん、手加減しかしてませんでしたね」
「あたりまえだろ? 素手でだって殺せちまうんだから手を抜くに決まってんだろ」
酒呑童子さんはさも当然のようにそう言った。
放り投げられただけで済んだエディさんは幸運に感謝しないとね。
「さあて、食べ損ねたケーキを食べますかね~」
酒呑童子さんはウキウキでボクたちのお茶会に参加していった。
甘いものも好きだなんて、かわいいところがあるじゃないですか。
その後……。
「はっ。私は何を? ここはどこかしら」
「は? おい、ちょっと」
「きゃっ、貴方誰!?」
「えっ、ちょっと待てよ!?」
「確か仲間と冒険していたはず……。あっ、いたいた」
「もうみんなどうしたの」
「わからない」
エディさんの剣による魅了の力が消え、女性たちは正気に戻ったようだ。
そして、エディさんのことなどすっかり忘れてしまったように彼女たちはその場を後にした。
「なんでだ? どうしてこうなった?」
みんなが去った後、エディさんは地に膝をついた。
そして、一本の剣が浮かび上がり黒髪の少女の姿となってエディさんの前に現れた。
背中に翼が生え、頭にはヘイローが付いている。
いわゆる天使というやつだ。
「あ、アズール」
彼はその天使をアズールと呼んだ。
どうやら彼はその天使を知っているようだった。
「正統なる所持者を見つけるために貴方を運び手に選んだことは謝ります。そして、そのために貴方の魅力を増幅させ、彼女たちを付き従わせたことについても謝罪します。これは幾何かのお礼です」
アズールと呼ばれたその天使は、エディさんに手をかざすと、傷を治して何かのスキルを与え、そしてたくさんの黄金を落としていった。
「ちょっとまてよ、アズール。それじゃまるで、俺に魅力がないみたいじゃないか」
アズールの言葉にショックを受けるエディさん。
「貴方の才能は並のものでした。しかし出会う運命力がありました。それを利用した私が悪いのです。貴方にはこれからもその地位を維持し続けるだけのスキルを与えました。ただし、解けた魅了までは戻りません」
「それは、つまり、どういうことだよ。俺は選ばれたんだろ?」
聞きたくないのだろう、エディさんはわなわな震えながらそう口にする。
「確かに私は言いましたよ? 『あなたを運び屋として選びました。主となる者の元にたどり着くまであなたをサポートします』と。彼女たちとの出会いは、私が増幅した魅了の力によるものでした。それについても謝罪します。貴方に幸多からんことを。私からも祝福を」
アズールさんはそう言うと、エディさんのおでこに口づけをした。
どうやら何かの加護を与えたようだ。
それにしても、まさか都合のいい部分しか聞いていなかったなんて。
そしてエディさんを放置し、アズールさんはそのままボクのところまで飛んでやってきた。
さて、ちょっとだけこの悪い子な天使にはお仕置きが必要ですね。
それと、まぁエディさんも悪いのかもしれないけど、あとでサポートしてあげましょう。
今後の彼の成長のためにも。
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