第123話 猟師ギルドと白狼
僧兵に護衛されているという時点で目立つことは予想されていた。
でも、そんなにガン見しなくてもいいんじゃないでしょうか。
そのくらい周囲の人やハンターたちが見てくるのだ。
「ご不快でしたら人払いをなさいますが、如何致しますか?」
護衛をしている僧兵さんが申し出る。
そこまでしてもらう必要はないので丁重にお断りしておこう。
「だ、大丈夫です」
「問題ありませんわ。お姉様はそのようにおっしゃっておりますわ」
すぐに僧兵さんにそう伝える瑞歌さん。
「かしこまりました」
しかし、今のボクたちは外から見るとどんな感じに見えるのだろうか?
でもそんなことを気にしてはいられないので、出来るだけ顔を出さないようにしつつ無難にやり過ごそう。
奇異の視線にさらされ続けることしばらく、ギルドの入っている建物までたどり着くとギルド職員の案内により裏に馬車を進めた。
馬車はその先にある車庫に駐車するようだ。
「お話は伺っております。こちらから執務室までお進みください」
見たことのないギルド職員の人の案内により、ボクたちは直通の階段を使ってギルドマスター執務室へと向かう。
ギルドマスター執務室は全体的に質素な造りになっているのだが、素材が良いのか落ち着ける香りと雰囲気があった。
まるで森の中にいるかのような気持ちになれる。
「お呼び立てして申し訳ございません。私はアルテ村猟師ギルドのギルドマスター兼大神殿第二級司祭の【ヒンメス】と申します」
柔らかく微笑みながら会釈をする若い男性。
薄い黄緑色の髪が目を引く美男子なのだが、なぜか人間とは違う雰囲気を感じる。
これはなんなんだろうか?
「えっと……」
「あぁ。これは失礼致しました。私の出自は北の森の聖域でして、種族はハイエルフというものでございます。人前ではエルフで通しておりますが」
「あ、そうなんですね。失礼しました。知らない気配だったので……」
「失礼だなんてとんでもありません。お好きに寛いでいただければ幸いです」
ボクが頭を下げるとヒンメスさんは慌ててそう言った。
どうやらまた失敗してしまったようだ。
「勘違いされては困りますので、先にお伝えしておきます」
「?」
ボクの様子を見たヒンメスさんは優しく微笑みながらこう告げる。
「我々は創造神アリオス様を主神としてお祀りしています。ですが同時に、そのお孫様でもある遥様も我々のお祀りする神なのです。ですので、我らのことは手足のようにお使いください」
「あ、ありがとうございます」
なんとなく見透かされたような気がして少し照れ臭い。
「遥様、少し失礼致しますね」
そう言ってヒンメスさんは、ボクの頭に手を置き軽く撫でるようにしてから何かを髪に挿した。
「えっと、あの?」
「おいおい、やるじゃねえか」
「下賤な……」
「え?」
ボクが戸惑っていると、酒呑童子さんと瑞歌さんが不機嫌そうに言った。
何が起きているんだろう? と思っていると、ミレがボクに鏡を見せてくれた。
するとそこには、淡い白い花が一輪挿してあったのだ。
「ハイエルフの魔法で作り出しました、神に捧げる親愛の花です。アリオス様には大変好評をいただいておりまして、毎年お供えさせていただいております」
「そ、そうなんですね」
ミレにちらっと見せてみると、ミレは嬉しそうに微笑んでいた。
どうやら似合っているらしい。
「あ、ありがとうございます。お礼といってはなんですが、これを」
そう言ってボクは月光インゴットで作ったネックレスを渡した。
【月世界のネックレス】
月光から生成されたインゴットで作られたネックレス。
魔力や精霊力が回復し、低級の神術を行使できるようになる。
また、在るだけで毒や瘴気などを浄化する。
「こ、これは!?」
「お姉様? そのような大層なものを簡単にお与えになってはいけません」
「まぁまぁいいじゃねえか。敬虔な信徒は大事にしねえとな」
驚かれたり怒られたりして忙しいので、さくっと教えることにする。
「月の光から作ったインゴットが素材になっているネックレスです。魔力や精霊力の回復効果のほか、周囲の浄化や低級神術が使えるようになります」
「なんと!?」
どうやら驚かせることに成功したようだ。
まぁ低級の神術って言っても、そう大したものは使えないわけなんだけど。
「これは秘宝級になりますね。大神殿にどう報告したものでしょうか」
どうやら贈り物は想像以上の混乱を引き起こしてしまったようだ。
ちょっと口添えしておこうかな。
「大神殿にはミレイさんを通して報告しておくので安心してください」
ミレイさん経由で連絡しておけば問題ないだろう。
それにしても月光インゴットでそこまで驚かれるとは。
「お姉様? お忘れになっているようですが、この世界に月光から作ったインゴットなどというものは存在しませんわ。唯一無二ですのよ?」
「あれ? あ、そうでした。ま、まぁいいです。一応所有制限と所有条件付けておきますね」
悪いことには使わないとか、悪い人になったら無効とかそういった簡単な制限を付け加えておいた。
これで悪用されることはないだろう。
「こほん。今回お呼びさせていただいたのには理由がありまして、1つは顔合わせとご挨拶、そしてもう1つは北の神群からの依頼であるものを探してほしいそうでして、森へ入る許可をいただきたいのです」
「う~ん。制限をかけててもいいなら構いません。ちなみに依頼の内容はお聞きしても?」
「当然です。南方へ逃げた白狼を討伐してほしいという依頼です」
白狼、どこかで聞いたことがあるような……。
あっ。
「ちなみにどんな狼なんですか? その白狼というのは」
念のためにボクが討伐した白狼が同じ白狼なのか確認しておこう。
「元々はフェンリル様の配下だったらしいのですが、離反して南方へ逃亡したらしいのです。普通の人間の攻撃は一切効かず、物理攻撃も魔術攻撃も効きません。血の色は金色とのことなので倒せば確認はできるらしいのですが……」
間違いない、あの時の狼だ……。
「えっと、その、大変申し訳ないのですがだいぶ前に倒してしまいました。これがその骸です」
ヒンメスさんに申し訳なく思いつつ以前討伐した白狼の遺骸を執務室内に出す。
「本当ですか!? えぇ、ここでいいのでぜひ出してください」
「一応血はある程度抜けていると思いますけど、傷口には付着したままだと思います」
そう言うと、ボクは別の机に白狼の遺骸を載せた。
まだ奇麗なままの白狼の遺骸は今にも動き出しそうだ。
傷口は小さく、そこから金色の血が見えている。
「おぉ~。これはまさしく。話には聞いていましたが、美しいものですね」
どうやらヒンメスさんがこなすべき依頼は解決したようだ。
「ありがとうございます。これを後程北の神群に納めさせていただきます」
「はい。解決してよかったです」
ヒンメスさんは実に機嫌が良さそうだ。
「本当はこの依頼、どうしたものかと思っていたのです。森には入れない上に普通に倒すことはできませんので」
しばらく毛皮を撫でていたヒンメスさんだが、突然思い出したようにこう言った。
「報酬といいたいところなのですが、現在報酬がありません。後程お渡しできるかと思いますが」
「いえいえ、気にしなくていいですよ。たまたま襲われたので撃退しただけです」
不可抗力というやつです。
「しかし……。遥様は現在ランクは最低ランクでしたね。2つくらいあげてみませんか? 義務とか更新についてはどうにでもできますから」
「か、考えておきます」
「良い返事を待っております。それはそうと、今日は本来予定があったのではないですか?」
こんなやり取りをした後でランクアップの話なんかしたら癒着を疑われそうだ。
まぁランクを上げるかについては後で返事をしておこう。
「はい。こちらの瑞歌さんと酒呑童子さんの登録をしたく」
「はい、かしこまりました。ではこちらで済ませてしまいましょう」
そう言うとヒンメスさんは二つ返事で了承してしまった。
話が早くて助かるけど、いいのかなぁ?
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