第120話 星光結晶と月明かりの水差し
月明かりの水差しは夜に使うとして、さらに月光の吸収率を上げるアイテムを作ることにした。
リストに月明かりの水差しを作成したことにより開放されたようなのだ。
その名も【星光結晶】だ。
説明を読む限りでは、星に関連したものであればすべてに効果を及ぼすようで、効率よく光を吸収し、各生産物の生産量増産を促してくれるそうだ。
「というわけで、【星光結晶】を作ります。今後陽光関係、月光関係、星光関係の武具や道具を作る際に必要になるかもしれません」
「はい!」
ソラの元気な返事を聞いてから早速作業に取り掛かった。
今回必要なのは各光インゴットの粉末だ。
これをどの炉でもいいので、坩堝で溶かして混ぜる必要がある。
「まずはインゴット1つ分を粉末にっと」
スキルだよりで申し訳ないが、【アイテムクリエイト】を使ってインゴットの粉末を用意する。
3種類の粉末があっという間に用意できたので、これらをすべて坩堝に投入する。
「それでは、ざざざーっといれていきます」
坩堝に粉末を入れると、坩堝の奥がキラキラと輝き始めた。
どうやら粉末の状態でも光るようだ。
ちなみに、坩堝から漏れた粉末は光となって消えていくので周囲には何も残らない。
後片付けも楽で大変便利だと思う。
「それではこれを坩堝で溶かしていきます」
「はい!」
またまた元気よく返事をしてくれるソラ。
なんだか料理番組をやっている気分になってきた。
「蓋を閉めてスイッチオン」
「オン」
フローティングウィンドウの【起動】ボタンを押して作業開始だ。
それからしばらく時間が経つと、ピピピという音が鳴った。
月光炉を見てみると、乳白色の液体が溜まっていることが確認出来たので完成はしていると思う。
あとはこれをどうするかだが……。
調べてみるとこれに温度はないそうだ。
坩堝で溶かしているのに温度がないとはこれいかに?
とはいっても、触るのは怖いのでこのまま結晶化作業に移ることにした。
結晶化作業は炉の中で行えるらしく、坩堝の中身を型に流し込み炉の上部にある引き出しに入れるだけのようだ。
というわけで早速、型を取り出し坩堝を傾けて中身を移す。
その後、炉の上の引き出しにしまうと、フローティングウィンドウから結晶化を行う。
しばらく時間が経つと、再びピピピという音が鳴る。
引き出しを開けて確認すると結晶の付着した株のようなものができていた。
【アイテムクリエイト】の説明によると、これを再び放置しておく必要があるようだ。
時間が経つと結晶が大きくなり、自然と分離するらしい。
それからしばらく、合流したミレイさんとソラと一緒に遊びながら待っていると、パキッという音が聞こえた。
「遥様、何か音が」
「できましたか?」
「あ、確認してみますね」
ミレイさんとソラが音がしたほうを気にし始めたので、様子を見に行くことにした。
といっても、すぐ近くなんだけど。
「あ、伸びた枝が折れてる」
株は成長して枝を伸ばしていたようで、一本の枝が株から落ちて転がっていた。
全体的に乳白色なのだが、中はうっすらと反対側が透けて見えるくらいの透明度がある。
「きれい、ですね」
「すごく不思議です」
出来上がった星光結晶は四角推柱のような形をしている。
底面というか、下側が長方形になっていて、先のほうが四角錘になっているのだ。
「きれいだけど、これで効果あるのでしょうか?」
一言でいえばキラキラ輝く水晶なのだ。
本当にこれで集光力がアップするのだろうか。
「そろそろ日も傾いてきましたし、やってみませんか?」
「あれ? いつのまに」
そういえばご飯を食べるのを忘れていた気がする。
まぁともかく、食べる前に実験だ。
少しずつ月が見え始めていたので、さっそく月明かりの水差しと星光結晶をもって外に出る。
外にはちょっとした櫓があるので、今回はそこを作業場所として利用することにした。
早速櫓に上り、月明かりの水差しを設置。
少し待ってみると、月明かりを受けて水差しの底がキラキラと輝き始めていた。
「一応結晶が無くても少しずつ溜まるんですね」
どのくらい溜まるのかはわからないが、すぐに水かさが増えないことを考えるとかなりかかるのだろう。
「では早速結晶を設置しますね」
どう設置すればいいかは不明だが、とりあえず落とすつもりで水差しの上に置いてみよう。
「そりゃ」
水差しの真上に星光結晶をかざして手を放す。
「えっ? う、浮いてる……」
「これは、驚きました」
「アンカルの街にあった水晶みたいに浮くんですね」
「あ、そういえばそうですね」
フェアリーノームたちが守っていた水晶球も確かに浮いていた気がする。
ちなみにこちらにあるのも同じだ。
月明かりの水差しの真上を浮かぶ星光結晶は、月明かりを受けて下にキラキラと光の粉を降らせていた。
ボクが腕輪をつけながら手をかざした時と全く同じ光景だ。
あとは液体が溜まるのを待つだけだ。
「とりあえず、ご飯に行きましょうか。今日はほとんど食べられてませんし」
まだ遅い時間ではないので、急いで食堂に行こう。
ボクたちはそのまま拠点の食堂へと向かった。
食堂ではマルムさんやセリアさんをはじめ、妖狐族のみんなもそこにいた。
「食堂賑わってますね」
ボク自身は部屋にいるときは部屋で作ってもらえるので、階下の食堂を利用することはあまりない。
「最近はここ以外にも食べられる場所が増えましたので、そちらに行く人もいるんですよ」
そう語るのはソラだ。
そういえば、外ではみんな何を食べているんだろう。
「外ではなにを食べてるんですか?」
「色々ですね。最近は唐揚げのおいしいお店も出てるのでついつい寄ってしまいます。この食堂は全体的においしいのですが、人が多いですからね」
「そういえばそうですね」
拠点の誰でも食べられる食堂はとにかく人が多い。
味については不満が出ないのでおいしいレベルだと思うし、ボクもそう思っている。
「私は上の食堂と遥様のお部屋くらいでしたね」
ちなみに、この拠点にはいくつかの食堂がある。
前に見て回った時よりも拡張したらしく、2つくらい食堂が増えていたのだ。
「遥様、ご存じでしたか? 拠点内の荷捌き場手前にアイスクリーム屋がオープンしたんです。クレープもいっしょに食べられちゃうんですよ」
「えっ!?」
初耳である。
本当に知らない間に何かが増えているので、把握しきれないのだ。
「クレープとはなんですか? アイスクリームというのはこの前遥様にいただいたやつですよね。冷たくて甘くておいしい」
「そうですそうです。よく覚えていましたね。クレープは色々な具材を焼いたクレープ生地で巻いた食べ物です。甘くておいしいものもあれば食事系のもあったりするんです」
「あまくて、おいしい……」
そう説明した瞬間、ミレイさんの反応が薄くなってしまう。
どうやらクレープに思いを馳せているようだ。
「この前日本で買ってきたという【ツナ】と【マヨネーズ】と【ウィンナー】を使ったお食事クレープを食べたんですが、おいしかったですよ」
どうやらソラは一足先に色々と食していたようだ。
それにしてもお食事系か。ハムとかもあるのかな?
「クレープ、すごくすごく気になります」
彼方から戻ってきたミレイさんがボクたちの会話に参加した。
「じゃあ軽く食事を済ませたら行ってみましょうか」
「はい!」
「はいです!」
ほかの子たちには悪いけど、一足先に冒険させてもらおうかな。
でも、夕食をほどほどにしないとボクのお腹ではクレープが入らないかもしれない。
小さい体って不便だ……。
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