第118話 星光インゴット
研究員のフェアリーノームに案内されて辿り着いた場所は、天井がガラスで覆われた空の見える場所だった。
中央に台座のようなものが用意されている。
「すでにある程度説明は受けているかもしれませんが、この妖銀の腕輪は液体エーテルに浸して、吸収させた後に精錬した成果物から作られています。言ってみれば遥様の力をとてもよく受け継いだ金属とも言えます」
そう言ってボクに見せてくれた新たな妖銀は薄っすらと青白く発光していた。
「こちらの杯は同じようにして作られた妖銀と上質な妖精銀の合金で作られました」
同じようにして見せられた杯は薄っすらと白く発光していた。
「そしてこの2つを台座に設置して、遥様のお力を一部流した結果、なんと月の光を受けた腕輪から煌めく粉末状の物質が精製されたんです。杯にはその粉末が溜まっていることも確認しました」
「え、どういうことです?」
胸を張って成果を報告するフェアリーノームの研究員の言葉に、ボクはついていけてなかった。
どうしてそうなるのだろうか。
「詳しいことは研究中ですが、杯がない状態だと粉末は消えていました。また、ほかの金属や妖精銀で試したところ、同じような事象を確認できませんでした。このことから、遥様の影響を強く受けたものは特別な性質を持つと結論付けました」
何やらよくわからないけど、すごい実験が行われているような気がした。
でもこれが何の役に立つのだろうか?
「ほかの人の力では駄目だったんですか?」
「はい。瑞歌さんなどにお願いしてみた結果、何も起こりませんでした。この腕輪は遥様のお力がないと先ほど説明したような効果が発生しないようです」
「な、なるほど」
未だによくわかっていないのだが、とりあえずボクの力と影響があれば新しい物質を生み出せることだけはわかった。
「この2つは遥様にお渡しします。星見台を後程作りますので、そちらでいろいろ試されてはいかがでしょうか」
そう提案され、ボクは腕輪と杯の2つを受け取ることになった。
星見台かぁ。
そう聞くと望遠鏡を置きたくなるなぁ。
「なんというか、すごそうなものができましたね」
受け取った腕輪と杯を見ながらミレイさんがそう感想を漏らした。
「腕輪はいいとして、杯はなんだか不用意に使わせるのはまずいような気がします」
この杯、持っていて思ったのだが、妖力と神力を供給しているようだ。
特に使っているわけではないのだが、ボクの妖力の総量を埋めようとするように若干ずつだが送り込まれている感覚がある。
「ミレイさん、今日の魔力残量とかどうですか?」
ちょっと試したいことができたのでミレイさんに問いかけてみる。
「魔力は特に使っていませんが、妖狐化していた影響で妖力のほうが減っていますね」
どうやらボクの知らないところで妖狐になって楽しんでいるようだ。
「人間以外の種族に自在になれる感覚って楽しいですか?」
「はい、とっても。体も軽くなりますし、今まで知らなかった力を使えるので楽しくて仕方ありません」
ミレイさんはそういうと、ぴょこんと耳と尻尾を出現させてみた。
元が美人さんだけあって妖狐になっても可愛らしい。
「ぉ~。お似合いです」
「あ、ありがとうございます」
ボクが褒めると、嬉しそうに頬を染める。
「ちょっとその状態で杯持ってみてください」
「あ、はい」
ミレイさんの手を握ると、その手に杯を持たせた。
「えっ!? どういうことです!?」
直後、体を一瞬びくんとさせた後、ミレイさんが驚いた顔をしてボクを見た。
「どうです?」
「妖力が一瞬で回復しました。ほかには体の疲れが取れたのと浄化されたような気持になりました」
「あ、やっぱりですか」
ミレイさんの反応からわかったこと。
この杯には、力の回復やけがの回復、体の浄化を行う機能が備わっているということだ。
有体に言うなら、これは【聖杯】である。
「大神殿であれば神器として大切に保管されることでしょう」
ミレイさんはボクに杯を返しつつそう言った。
うん、外には出さないようにしよう。
「話によると月の光を粉末のようにできるようですね。太陽ではだめなのでしょうか」
なんとなく気になったので腕輪をつけて試してみる。
ガラス張りの天井に向かって太陽に手を伸ばす。
すると太陽に照らされた手の先から金色の粒子が溢れ始めたのだ。
「おぉ?」
唐突に変化が起きたので慌てて手を引っ込めると、金色の粒子は輝き消えてなくなった。
これはつまり、光を素材に変換できるということではないだろうか。
「研究していた時は太陽光で試しましたか?」
念のために確認。
「はい。太陽、星、月、それぞれで試しましたが、私たちで出来たのは月光のみでした」
「ふむふむ」
これはおそらくボクによるところが大きい気がする。
つまり、フェアリーノームたちだけでは月光にのみ反応した可能性がある。
後ほどボクも月光や星光で試してみようかな。
「ミレイさん、しばらく暇をつぶしておいてください。夜また実験するので」
「わかりました。では人員手配の準備を進めておきますね」
ミレイさんはそう言うとボクと別れ、先ほどまでやっていた仕事に戻っていった。
さて、あとは夜を待つだけだ。
夜。
研究所内のガラス部屋で昼間と同じように作業を行う。
まずは月が見えていない今のうちに星光で試そう。
腕輪を着け天高く手を伸ばす。
すると指先のほうから淡く輝く白い粒子が溢れだしたのだ。
これはおそらく星光の粒子なのだろう。
慌てず杯にそれを集める。
「ふぅ。とりあえず成功ですね」
杯の中には乳白色の液体が溜まっていた。
触れたときは粉末、集めると液体。
この物質は本当によくわからない。
「これ、固められませんかね」
なんとなくそう思ったのでこの液体を元に【アイテムクリエイト】を行うことにした。
リストを探っていくと特殊素材の中に星光インゴットなるものを見つけることができた。
インゴットである。
固まるのか。
「お、遅くなりました」
「遥様早いです」
研究員のフェアリーノームとミレイさんが合流したので、今起きたことを説明した。
「なんというか、何が起きているのかわかりませんね」
ミレイさんは理解が追い付かない様子。
「新素材。星光インゴット。ぜ、ぜひ作っていただけませんでしょうか!?」
研究員のフェアリーノームが食い気味に懇願してきた。
彼女にとってはすごいものなのだろう。
「わかりました。少しやってみますね」
一先ず今ある分でインゴットを作成してみることにした。
星光インゴットは杯1つ分で1つ作成することができるようだ。
「できました」
【空間収納】内に収めた杯の中身が消え、代わりに乳白色のインゴットが現れたのだ。
「はい、どうぞ」
さっそく研究員のフェアリーノームに渡す。
「あ、ありがとうございます! うへへ、新しい素材だ~。それにしても滑らかな手触り。触った感じは滑らかな金属インゴットという感じですね」
研究員のフェアリーノームは触ったり撫でたり叩いてみたりして色々と実験していた。
それによって出た結論は非常に残酷なものだった。
「ハンマーで叩いてみた結果、傷一つつきませんでした。温度による変成も失敗しました。加工不可能です」
古の女神といえど加工不可能とのこと。
「ちょっと【アイテムクリエイト】を試してみていいですか?」
「どうぞ! お願いします」
研究員のフェアリーノームはボクに星光インゴットを手渡してくれた。
「じゃあさっそく」
このインゴットから作れるものは何があるだろう。
そう考え、リストを確認する。
すると星光インゴット1個で星光インゴットのハンマーができるらしい。
そのほかには、星光インゴット20個と太陽の火種で星光炉というものができることが分かった。
さらに確認すると、月光からも太陽光からも同じように作ることができ、それぞれにハンマーと炉があることがわかったのだ。
「これは、どうにかなるかもしれません」
「ほ、ほんとうですか!?」
ミレイさんを置いてけぼりにし、ボクと研究員のフェアリーノームは盛り上がる。
この素材、面白いかもしれない。
早速、今作れるインゴットの量産を時間が許す限り始めるのだった。
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