第116話 会議のお供に軽食を
守善さんのお屋敷での会話の後、ボクたちはそのままお母さんの社へと向かった。
そしてお母さんに出迎えられた後、なぜかお話は新世界でねと言われ、そのまま新世界へと戻ってくるに至った。
場所はボクの部屋。
参加者はお母さん、酒呑童子さん、心優さん、ミユキさん、大天狗の高野縁さん、烏天狗の烏丸衣音さん、なぜか連れてこられた三峰守善さんの6名とボクだ。
「じゃあ今回の会議を始めるわね。議題はかねてより話し合っている、遥ちゃんの新世界と私たちの世界の融合計画ね」
会議は唐突に始まった。
しかもちっとも穏やかじゃない内容の会議がだ。
「世界の融合などと軽々しく言いますが、そもそもあの巨大な島が入るスペースなどあると思いますか?」
最初に発言したのは大天狗の高野縁さんだ。
縁さんはすべての天狗たちを取りまとめているのだという。
「私の世界は星じゃないからちょっとした規模の小大陸が入るスペースがあれば十分なんだけど、遥ちゃん、容量どうかしら?」
「え? あ、はい。少しお待ちを」
お母さんに言われて手元の水晶球で世界の情報を確認する。
この水晶、実はあまり使い勝手が良くない。
いずれはディスプレイ型にしたいなぁ……。
「容量は十分にあります。水位の上昇はありますが、水位に合わせて各島も上昇するようにしておきます。ミリアムさん、管理する精霊にそう伝えてください」
「わかりました」
ボクのそばに控えていたミリアムさんは、すぐに今の話を自然環境を管理する精霊に伝えに行った。
「遥さん、この世界は自由に調整することはできるのですか?」
ボクのやり取りを見ていた縁さんは突然そんな質問を投げかけてきた。
「惑星なので自由にとはいきません。何かを追加するなら何かを調整する必要がありますね」
小大陸を受け入れるくらいなら大丈夫だが、大陸となるともうちょっと色々調整をしなければいけないかもしれない。
「惑星タイプというのはよくわかりませんが、自由に拡張というわけにはいかないのですね」
縁さんは実に興味深そうだ。
まぁ世界を作ったりいじったりすることなんてそうそうないだろうから気持ちはわかる。
「神族とは面白いものですね」
縁さんは身長の高い黒髪の美人さんだ。
年齢はわからないけど、お母さんくらいの年齢なのだろう。
そんな縁さんが子供のように目を輝かせながら話を聞いてくるのだ。
「私には世界を作る力などありませんので、いつも若葉を羨ましく思っていました」
どうやらお母さんの眷属というわけでもないらしい。
「眷属になれば創造の一端くらいは扱えると思いますけど」
「若葉にも言われたのですが、それは保留しているんです」
「ふむ……」
どんな理由があるかわからないけど、保留しているなら仕方ない。
いつか理由を教えてくれることを祈ろう。
「あ、遥ちゃん? 徐々に融合させていきたいのだけど、対象地域は立ち入り禁止にできるのかしら?」
「あ、それは大丈夫です。もし面倒なことが起きても瑞歌さんがいるので何とでもなります」
「たとえ空間が捻じれてもどうにかしてみせますわ」
ボクたちの中では最大戦力ともいえる瑞歌さんだ。
たとえ惑星が割れてもどうにかしちゃいそうな感じもする。
「話はわかりました。ですが、それらは先に民に伝えなければなりません」
そう話すのは、烏天狗の烏丸衣音さんだ。
いおんって名前の時点で可愛らしい感じがするのだが、本人はきりっとした美人さんだ。
見た目は高校生のようなのだが、お母さんと同じくらいの年齢らしい。
「それはやっておくから心配しないで。実際に話が進むのはもっと後よ」
「それはわかっているつもりです」
この世界融合の話が進むのは、もう少しこちら側が準備をしてからになる。
ボクの世界は惑星を擁する宇宙で、お母さんの世界は平面上に作られた疑似世界だ。
なので、融合すること自体に問題はないのだが、色々な影響を考慮して準備をしなきゃいけないのだ。
ちなみにお母さんの世界の話は、お婆様の記憶から知ったことだ。
「みなさん、お茶とお菓子で休憩しませんか? 色々作りましたのでお好きなものをどうぞ」
ここで会議を一時中断して、アキの作ったおやつを食べることにした。
何人で作ったのかはわからないが、ケーキ類のほかにお団子やおはぎも一緒に用意されている。
「アキ、おはぎってどこで覚えたの?」
「妖都です」
どうやら妖都では本当に料理修行もしていたようだ。
以前味の再現をしたりして再現度を高めているって話してくれたことがあった。
まさかここで実践してくれるとは思いもしなかった。
「あら、このおはぎ美味しいわね」
アキの手作りおはぎを一口食べてお母さんはそう漏らした。
「妖都で覚えたらしいです」
「そうなの? すごく優秀なのね」
そう言うとお母さんはアキの頭を優しく撫でた。
「あ、あはは。ありがとうございます」
アキは撫でられて照れている。
「お、師匠。このおはぎ美味いな!」
酒呑童子さんは両手におはぎを持って頬張っている。
その表情は輝くような笑顔をしていた。
にっこにこなのだ。
もしかしておはぎが好きなのかな?
「酒呑童子さん、もしかしておはぎ好きですか?」
「おう!」
酒呑童子さんにそう言うと、短くも威勢のいい返事が返ってきた。
どうやら本当に好きなようだ。
「お姉さん、このケーキ美味しいです」
とことこと近くに寄ってきたミユキさんが、手に持っているケーキを見せてくれた。
「チョコケーキ? いや違う。これ、ザッハトルテだ!!」
一見普通のチョコケーキに見えたのだが、表面が光沢を放っていた。
ミユキさんに差し出されたフォークから一欠けらだけもらって味を確かめてみたところ、何とも言えない濃厚な味わいを感じた。
「驚いていただけましたか? 前に見せていただいた動画を参考に作ってみました」
「ほぇ~」
どうやらボクの知らないところでチャレンジしていたようだ。
「ザッハトルテ? とはなんですか?」
ボクとアキのやり取りを見ていたミユキさんがきょとんとした表情で質問してきた。
「一言でいえばチョコケーキの王様ですね」
ボクも数回しか食べたことがない。
なぜかお父さんがこれを気に入っていて、たまに買ってくることがあるのだ。
「チョコケーキ美味しいです。ザッハトルテ美味しいです」
ボクの話を聞いたミユキさんが、ザッハトルテをもぐもぐと食べながらうわ言のように呟いていた。
ミユキさんは完全にこのケーキに嵌ったようだ。
「妖都にはケーキはありましたが、このようなものはなかったです」
「そうなんですか? 心優さんたちは……お母さんと一緒に食べてますね」
心優さんに話を聞いてみようかと思ったものの、お母さんと一緒にフェアリーノームたちに給仕されながら食べていた。
守善さんはといえば、お茶とおはぎで一息ついている姿が見えて、ちょっとほっこりしてしまった。
「いや実においしいですね。さすがは姫様の眷属様」
守善さんがそう褒めるとフェアリーノームは「えへへ」といった感じで照れていた。
「フェアリーノームも男性と話せるのか」
「特に何もなければ話しませんけど、主人の話が絡めばその限りではないですからね」
ボクが驚いていると、アキがそう説明してくれた。
どうやら状況によってはフェアリーノームでも男性と話すことがあるようだ。
「そうです、主人。レアチーズケーキを作ってみたのですが食べますか?」
「もちろん!」
「はい、ではお持ちしますね。主人が好きだと伺ったので」
「お姉さんの好きな物? じゃあ同じものを!」
「はい」
ミユキさんの追加注文が入ったものの、アキは快く頷くと付属の厨房へと向かっていった。
しかし、レアチーズケーキも作れるとは恐れ入りました。
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