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第115話 公卿衆のお屋敷にて

 公卿衆の屋敷は完全にほかの場所とは隔離されていた。

 正確には、公卿衆の屋敷を含むお母さんの社一帯が聖域となっているらしい。

 公卿衆の役割はお母さんたちのお世話と寺社仏閣の管理、そして各貴族の間を取り持ったり調停する役割があるそうだ。


「実近殿は国主としての役割と過去武家であった者たちを統率してもらっております。国母様の別世界で言うところの【首相】という役割がそれにあたります」

 ボクたちを連れて来た公卿衆の男性、【三峰守善みつみねしゅぜん】さんはそう語った。


「武蔵国の首都たる妖都では、三院制が敷かれております。内訳は国母様の代理である我ら公卿衆と妖種の代表からなる【妖公院ようこういん】、貴族たちからなる【貴族院】、そして一般大衆の代表が集う【衆議院】の三院となっております。そちらにいらっしゃいます、酒呑童子様もメンバーでございます」

 守善さんにそう言われ、ボクは酒呑童子さんを見る。


「めんどくせえんだから仕方ねえだろ」

 悪びれもせずに酒呑童子さんは悪態をついていた。


「相も変わらずと申しましょうか。しかしこう見えて、酒呑童子様は優秀なのですよ」

「普段の態度からはわかりませんね」

 ボクがそう言うと、アキもこくんと頷いた。


「フェアリーノーム様については伺っております。特にアキ様は姫様の眷属であると」

 守善さんがアキを見ると、アキは平たい胸を大きく張る。


「そういえば、妖公院は民衆の政治に口を出すのですか?」

 三院制となれば当然絡むのではないだろうか? そう思って質問してみると、守善さんは首を横に振った。


「政治と法案の決定は【貴族院】と【衆議院】のみで行います。我らは不測の事態に備えたり、外部からの侵略に対して対応するのです。もちろん、そのような事態ともなれば、我らも彼らに加わりますが」

 思ったよりも複雑な事情がありそうだ。

 どこも外世界について考えているところが多いように思える。


「当然、姫様の世界については、我ら【妖公院】が主導することになりましょう。後程、陰陽師を派遣させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 陰陽師って言うと、占いをしたりする人たちのことだったっけ?


「陰陽師っていう人たちが何をするのかはわかりませんが、悪いことをしなければ構いません」

 そう言うと、守善さんは笑顔で頷くと同時に顎に手を置き少し考えると、こう語った。

 

「陰陽師は普段は祭祀を行ったり天文地文などを用いて占いを行いますが、もう一つの側面として結界の維持と迷いの霧を維持する役割も担っています」

「迷いの霧、ですか?」

 旧世界の方にもあった森に入ると迷ってすぐに入り口に戻ってしまうあれだろうか?


「迷いの霧は進めども進めどもどこにもでることはない特殊結界です。本人たちに侵入の意志がなくなった時、出口となる鳥居が現れ、結界の外に出られます」

 どうやら旧世界の結界よりも強力な結界のようだ。


「安全ならいいですね」

 それならばと、ボクも思った。

 しかし、話には続きがあった。


「迷いの霧は犯意を抱く者、過去に罪を犯せども償わない者が侵入した場合いくつかの手段でその者たちに相応の罰を与えます。特に、姫様は異世界の神に祝福されているようですので、なお過酷な罰を与えられるでしょう」

 守善さんの言葉は優しいはずなのに、なぜか背筋が震える。

 まるで怪談話を聞いているかのようだ。


「1つ、己が未来をその者に見せることになりましょう。2つ、罪を償わぬならばその重さによっては償う必要が出てくるでしょう。3つ、罪深き者の辿り着く先は、出口などではなく黒の鳥居」

「く、黒……」

 なんだか聞いていて怖くなってきた。


「これは異世界の神の手助けと国母様より聞いております。酒呑童子様のほうが詳しいのではないでしょうか」

 守善さんの言葉に導かれ、酒呑童子さんを見る。


「あー。いわゆる地獄ってとこに繋がってんだ。生きたまま亡者の世界へってわけだ」

「ひえっ」

 どうか、罪深い人が侵入しませんように。


「あ、ボクの眷属となっている子に、昔罪深いことをした人がいるんですがどうなるんでしょう」

 今は修行中の新人妖狐族たちのことが脳裏によぎった。


「遥の眷属なら大丈夫だぜ? まぁ地獄ったって妖種には別にどうってことはねぇし、あっちで働いてるやつのほとんどは鬼族だからな」

 どうやら酒呑童子さんの関係者たちが働いているようだ。

 いつか一回くらい見に行ったほうがいいのだろうか?

 でも、絶対怖いよね……。


「姫様の新世界、楽しみにしておりますぞ。何やら異世界の技術がふんだんに使われているとか」

 話は変わり、今作っている新世界の話を語ってみせた。

 守善さんは興味津々な様子でボクの話を聞く。

 特に精霊や技術研究に興味があるようだった。


「な、おい。露天風呂があるってほんとか?」

 酒呑童子さんは守善さんと違い、拠点の設備、主にお風呂について興味を示していた。


「月が見えたりして気持ちいいですよ。お母さんだったらお酒持ち込むかもしれません」

「酒かぁ……。いいな!」

 何を想像したのか、途端にだらしない顔になる酒呑童子さん。


「共同浴場や個室の浴場もあるんですよ。いつの間にか増えていましたね。守善さんが気に入りそうな趣の場所も作るよう頼んでみますね」

「ありがとうございます、姫様」

 素敵な場所に公卿衆の屋敷を作ってあげよう。


「オレの屋敷は気にしないでいいぞ」

 酒呑童子さんはあまり興味がないようだ。

 ということはボクの拠点に住み着くんだろうか?


「酒呑童子さんとその仲間のための場所も用意だけはしますよ? まぁ拠点に部屋も用意しますけど」

「おう、それでいいぜ」

 やっぱり酒呑童子さんは住む場所にこだわりはないようだった。


「んなことよりお風呂だろお風呂。いや~、楽しみだなぁ~」

「そんなにお風呂好きなんです?」

 小柄な美少女姿の酒呑童子さんは見た目そのままの年齢ではないとのこと。

 そんな酒呑童子さんだが、どうやらお風呂には目がない様子。

 

「おう。大体1時間は入ってんな。湯船に入るだけじゃなくて色々やるけどよ」

「な、なかなか長いですね」

 想像以上に長く入っているようだ。

 これ、露天風呂に行かせたら2時間くらい入ってるんじゃないかな?


「そういえばフェアリーノームもお風呂が好きなんですよ。最近はアキが2時間入ってたような」

 ボクがそう言うと、アキは力強くコクンと頷いた。

 それを見た酒呑童子さんは驚いたような顔をしていた。


「師匠まじか! 2時間! やるなぁ~」

 アキは褒められて嬉しそうに頭を掻いている。

 アキと酒呑童子さんは何気に良いコンビのように思えた。


「料理の師匠と料理人見習いですか」

「酒呑童子様は料理をするのですね。そういえばよく何かを作っているという話を聞いたことがあります」

「お? まぁ最近はよく肉焼いてるからな」

 どうやら酒呑童子さんの料理については、ほかの人にも知られているようだ。

 それにしても肉かぁ……。


「肉といえば、ほかのフェアリーノームも大好きでしたね」

 旧世界の時はミレたちがイノシシを焼くことが多かった。

 でもあのお肉、やたら美味しかったんだよなぁ。


「へぇ~。その話も気になるな……」

 酒呑童子さんがそう言うと、アキは任せろと言わんばかりに平たい胸をどんと叩いた。

 

「もしかして共通の焼き方があるの?」

 そう尋ねると、アキがコクンと頷く。

 どうやら秘伝の焼き方が存在しているようだ。


「あとでボクにも教えてくださいね」

 そう言うと、アキは嬉しそうに頷いたのだった。

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