第106話 建築現場とフェアリーノーム
新しく住人となった受肉した精霊たちは、人間と同じように生活を始めたようだ。
ボクの周囲にいる5人のほか、5人の男女は与えられた持ち場で仕事に勤しんでいる。
新しい種にするなら種族名を考えなければいけないけど、今回生まれた子たちはハーフというわけではない。
なので、そのまま精霊とするのが一番かな? とボクは思っている。
「さて、それじゃあ今日も色々始めていきましょうか」
ボクはさっそく今日の仕事を始めることにした。
まず第一にやることは周囲の確認だ。
というわけで拠点から出たボクは周囲を歩きながら建物を見て歩くことにする。
現在拠点の周囲は建築作業中のため、フェアリーノームたちが頑張って作業を行っているところだ。
でも今回は少しだけいつもと違っていた。
新しく生まれた精霊たちが何らかのやり取りをしながらフェアリーノームたちと一緒に作業を進めているのが見えたのだ。
精霊たちの話を腕を組みながら聞くフェアリーノームのその姿は、まるで貫禄のある建築現場の親方のようだった。
見た目は幼い少女だけに、なんだかすごくアンバランスな感じがする。
「あ、遥様」
ボクに気づいたフェアリーノームたちが、話を中断してこっちへやってきた。
そのフェアリーノームたちを視線で追っていた精霊たちはボクに気が付くと、その場で固まって動かなくなってしまう。
「あ、精霊さんたちはゆっくりしていてください」
「も、申し訳ありません」
「緊張してしまって……」
精霊たちは申し訳なさそうに頭を下げている。
まだ硬いけど今はこんなものかな?
「遥様~、今回は遊戯施設を建てることにしたんですよ~!」
「なんでも【ぼーりんぐ】とかいうらしいです」
「【ボウリング】じゃなかった?」
「あれれ? どっちだっけ?」
「教えて、遥様!!」
誰に聞いたかわからないけど、みんな正しい名前がわからず混乱してしまったようだ。
小さな手を伸ばしてボクに尋ねてくる姿が可愛らしい。
「え~っとですね。【ボウリング】が正しいです」
「ほら、あたった~」
「ちぇ~」
「はいはい、ケンカしないでくださいね」
フェアリーノームたちの相手をしていると、保育士さんになった気分になるから不思議だ。
そんな彼女たちはボクよりも圧倒的に年上であるはずなのに、個体によっては幼い発言をする子もいる。
なんかすごく不思議だ。
「そうです、遥様。ミレ様が言っていたんですけど、アンカルの街と同じ水晶球をこちらにも設置するそうです。知ってましたか?」
「あ~、少し前に聞いたかもしれませんね」
確かそこそこ前に聞いた覚えがある。
「あの水晶球は新たなフェアリーノームを生み出す大事な物なんです」
「同族は増えづらいですけど、遥様の力と私たちの力を融合させると、新しい子供が生まれるんです」
「異性でなくとも子供を作れる大事な仕組みです」
「へぇ~。すごいですね」
フェアリーノームの増え方はわからなかったけど、どうやらそうやって増えていくようだ。
「フェアリーノーム同士だとどうなんですか?」
今まで波長が合わなかったので、他者との交流はほとんどなかったようだ。
それならやっぱり、フェアリーノーム同士で子供を作っていたことになるんだよね?
「確実に生まれるというわけではないです。何度かチャレンジして初めてという感じなので」
「多くの力を使うと私たちくらいの子がすぐに生まれます。そうすると即戦力になります。少ない力ですともっと小さい子供として生まれます」
「へぇ~。ということは、しばらくはみんなくらいの大きさの子を生み出すつもりなんでしょうか」
「そう聞いています」
「なるほど」
ボクは彼女たちのことをちゃんとは知らなかった。
けど、水晶を介しての生まれ方を彼女たちからしっかり聞いたことで、理解が深まったような気がした。
「ところで、ほかの子たちは何を作っているか知ってますか?」
今話している子たち以外にも建築している音が聞こえるので何かしらの建物を作っているはずだ。
「人間的な生活をしましょうということで、劇場が建設されています」
「遥様のお社も建設中です」
「社?」
「はい!」
社というと、神社とかのだろうか?
あ、そういえば建てる話があったっけ。
「どんな感じになりそうなんですか?」
気になったので聞いてみることにした。
「現在の予定では10の建物と5の拝殿が予定されています」
「かなり大きくなる予定です。神域への入り口としての機能も持たせるとか」
「人間が来たとして、立ち入れるのは第一の拝殿のみとなるそうです」
「な、なんだかすごいですね」
思ってたよりも大きくなりそうだった。
「最奥の建物は遥様と若葉様がお過ごしになれるよう設計されています」
「ご神体です」
「この世界で最も尊い場所です」
そう説明するフェアリーノームたちの言葉には、なんだか熱がこもっているように感じた。
彼女たちにはとても大切な場所になるということなのだろう。
「うん。ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「はい!!」
「感謝の気持ちはハグでお願いします」
「私も~」
「えぇ!? わ、わかりました」
こうして、固まっている精霊たちをしり目に、ボクはフェアリーノームたちをハグすることになった。
でもこれには1つ問題があった。
フェアリーノームを一人ハグすると、また一人フェアリーノームが増えていくのだ。
結局、近くにいた全員をハグするまでボクは解放されることはなかった。
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